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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第百二十五話 希望の星ウィリアム・エバンス

世界中に突如として現れた迷宮に世界は混乱し、混沌としている最中、フランスのパリ郊外のとある夫婦のもとに、一人の男の子が生まれた。


名はウィリアム・エバンス。


銀行に勤める父と、貴族の血筋を継ぐ美しい母のもとに生まれたウィリアムは、多くの人々がステータスに目覚め、世界中の常識や価値観が著しく変化していく中でも裕福で何不自由ない生活であった。


だが、フランスを含めたヨーロッパの人々は当初、毎日のように多くの死者を出す危険な場所である迷宮探索に対して否定的であり、迷宮探索=経済力のない貧しい人々がやる仕事、と言う社会的な認識があった。


しかし、迷宮産のアイテムは地球上では未知の素材であり、当時は数も少なかったことから、高く取引されていた。


仕事に就けなかった者やヨーロッパが大量に抱える移民達が迷宮探索者へとなり、金と武力を手に入れたのだ。


ステータスを覚醒させ、迷宮でレベルを上げ、肉体を強化した彼らの横暴は、ステータスを覚醒していない現地警察の手に負えるものではなく、日を追うごとに犯罪が増加して行った。


その被害にあった地元民やニュースを見た国民達がヨーロッパ各地で幾度とない迷宮閉鎖のデモ活動を行い、探索者達と度々ぶつかっていた。


フランスに限らずヨーロッパ全土で行われたその活動が、どれほどの混乱をもたらしたのかは言うまでもないだろう。


迷宮混乱期。


今までの価値観が壊れ、増え続ける迷宮に合わせて新たに常識が形成されて行った時代。


車を動かす燃料は石油や電気ではなく、魔石から抽出された魔力によって動くようになり、電気などのインフラも火力発電や原子力発電からCO2を一切出さず、危険な廃棄物の処理も必要のない魔力発電へと移行していった。


もはや、迷宮探索者は国家にとって必要な職業となり、ウィリアムが生まれたフランスにおいても裕福な家庭に生まれた者や、他の職に就くことができていた者達も探索者を目指すようになっていた。


フランス人の子供たちの、将来なりたい職業ランキングの一位がスポーツ選手から迷宮探索へと移り変わった時代でウィリアムは育った。


しかし、ウィリアムの父は迷宮に対して否定的であり、母も同様であった。


迷宮の出現によって職や生活、命を奪われた人々のニュースを毎日のように見ており、その原因である迷宮に嬉々として向かう探索者達も嫌悪していたからだ。


そんな両親の教育もあって、ウィリアムは迷宮とは無関係な普通の男の子として育つことになる。


裕福な家庭の子供が通う上流階級御用達の小学校に通い、特に何の問題もなく併設の中学校に進学する。


成績は平凡。取り立てて苦手な科目もなければ得意な科目もない。運動も男子としては平均で、目立つようなところは何もない、普通の少年だった。


転機が訪れたのは中学校を卒業して併設の高校に上がってすぐのこと。


15歳となったウィリアムは両親に秘密で学校の友人達と共に、探索者の登録をしに行ったのだ。


そしてそこでウィリアムは自分の才能を知ることとなる。


『覚醒度:58%』


初期所有スキルは、「星魔法」と「転移」。


レベル1から隕石を落とす魔法を使える他を圧倒する火力と殲滅力を保有する魔法スキルと、一瞬でその場から移動することができる世界で唯一のスキル。


そのビッグニュースは、すぐさまフランス全土に知れ渡った。


両親はそれを聞いてなお強く反対したものの、ウィリアムは自身にある才能を無駄にはしたくないと、勘当を覚悟で学校を辞め、探索者になった。


それから五年、ウィリアムはフランス国内の誰よりも早くレベルが上がり誰よりも強くなった。


当時のフランスでは、移民してきた他国の者や、フランス国内で差別を受けていた者達が迷宮のおかげでどんどん裕福になり権力を握っていった。


それをよしとしない白人を含むフランス国民達は、純粋な白人であり良家の血筋であるウィリアムを英雄として祭り上げた。

温厚で人当たりが優しいウィリアムに周囲は期待し、その勢いは止まることを知らなかった。


良くも悪くも様々な期待を背負ったウィリアムは、迷宮に入って僅か五年で世界初の迷宮50層へと到達し、世界にエルフの存在を知らしめた。


ウィリアムが迷宮探索者になることをずっと反対していた両親も、ウィリアムが多くの功績を残し、人々に讃えられていくのを見て、次第に納得していった。


その後家族にも正式に認められ、恋人にも恵まれ順風満帆な生活を送っていたのだった。


そんな時だった。

フランスの別の地方の迷宮で世界で初めて魔物による階層の移動が確認されたのは。


イレギュラーモンスター。


当初はフランス国内だけ、しかも4、5層程度の事案ではあったものの、日を追うごとにフランスを中心とした周辺諸国の迷宮で確認されるようになる。


イレギュラーモンスターが現れて一ヶ月、とうとう10階層を超えたイレギュラーモンスターがヨーロッパ各地で現れるようになっていた。


当時、未だヨーロッパは国を挙げた迷宮攻略には乗り切っておらず、高いレベルと覚醒度を持った探索者が少なかった。


必然的に、それらの対処に当時のヨーロッパで最強の殲滅力と攻撃力をもつ探索者となっていたウィリアムは、イレギュラーモンスターの対処のためにヨーロッパ中に駆り出されるようになっていた。


毎日ヨーロッパ中を移動し回り、イレギュラーモンスターを倒し回る多忙な日々であった。


そんな多忙な日々であってもウィリアムは嬉々としてそれらを引き受け、満たされた充実した日々を送っていた。


何故なら、ウィリアムには人並外れた承認欲求があったからだ。


探索者になる前のウィリアムは、特段目立ちたがりなわけでもない普通の学生だった。


しかし、探索者となり、世界初のスキルにして世界最高の覚醒度を手に入れたウィリアムを世界中の人々が褒め称えたことにより、ウィリアムの心に強い承認欲求が目覚めていた。


何をしても褒められ、街中では男女問わず満面の笑みで讃えられ、そして何より美女にモテまくった。


ワーチューブにて自身の探索映像を公開し、1000万再生は当たり前。10億回再生された動画も複数ある程の超一流ワーチューバー。


複数の高性能AFCによって撮られた映像を高いお金をかけて編集されたウィリアム・エバンスの迷宮探索動画は全く参考にはならないが、その爽快感と迫力に迷宮に興味のない層ですら興味を引いた。


地位も名誉も金も実力も備えた非の打ち所のない英雄。

フランス国内に留まらず、世界中の人々が彼を讃え、様々なあだ名でウィリアムを呼んだ。


「スターマン」

「リアルヒーロー」

「ミスタージャスティス」

「リアルインクレディブル」


あげるとキリがないあだ名の中で最も本人が気に入り、最も多くの人が呼んだあだ名がある。


希望の星(ベツレヘム)


フランスの英雄、希望の星(ベツレヘム)ウィリアム・エバンス。

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― 新着の感想 ―
リヤンという名が出てきますがウィリアムの間違いですか?なんだか気になって
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