第百二十四話 ヤオバオ
「パワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
そんな叫び声と共に繰り出された拳は、たったの一撃で地面を抉り、扇形のクレーターを生み出す。
目の前では、たった今黒いモヤとかした魔物の魔石が一個だけ転がっていた。
その魔石の大きさは幼児の頭部ほどの大きさがあり、今この男が一撃で倒した魔物がいかに強敵であったかを示していた。
「王、お疲れ様でした」
そう言って装備を着た黒人の女性が頭を下げながら真っ赤なマントを渡す。
「うむ、ご苦労!」
そう言ってマントを身体に掛け、堂々とした態度で身を翻す。
その男の後ろをついていきながら、女性はタブレットに目を通しながら話しかける。
「次のイレギュラーモンスターはキサ迷宮36層、スカイドラゴンです」
「よかろう!すぐ向かうぞ!」
「はっ!」
すぐさま男はワープゲートまで走り出し、女性もそれについていく。
男の名はヤオバオ。
王政などがとっくの昔に無くなった現代で王を名乗る迷宮探索者であり、世界でただ一人しか持っていないスキルを持つ一の一人だった。
そしてこの王という肩書きは決して自称ではない。
アフリカ王国というアフリカ大陸のいくつかの国を併合した王政の国、その第一代アフリカ王がヤオバオだった。
その鋼の体は銃弾では傷一つ付けられず、対戦車砲のミサイルですら弾き返す。
その拳から放たれる一撃は、あらゆる魔物を粉々に粉砕する。
最強の矛と最硬の盾を持つ男だった。
そして、未知に飛び込んでいく勇気も持ち合わせており、覚醒石がなく、ステータスを覚醒させられなかった迷宮初期時代から迷宮に潜り続けている歴戦の勇者でもあった。
そしてステータスに目覚め、アフリカ中の誰よりも強くなったヤオバオはアフリカ王国の建国を宣言。それに同調した彼の信者達が内乱を起こし、このアフリカ王国が建国された。
強くあれ。
その言葉を国是と掲げており、国民総探索者を掲げており、アフリカ王国に住む国民は、子供に至るまで全ての者がステータスを覚醒させている。
国家別探索者平均レベルも世界最高クラスであり、その結果、世界最大の迷宮アイテム輸出国であった。
しかし、それでも40層後半の魔物となると倒せる人間はごく一部の僅かな探索者に限られている。
ヤオバオを含めたその一部の探索者達は今回の騒動に他国からの要請も含めて国内外を駆け回っていた。
ヤオバオは流石に国外に出すわけにもいかないため、国内限定ではあるが、それでもここ数週間は忙しい日々を送っていた。
魔石から得られる魔力で動く車両MV車に乗り、ヤオバオは一息吐く。
「次、次行くぞ!」
「お疲れ様です、王!」
そう言いながら、即座に二人の美しい女性がヤオバオの両脇につき、お酌をする。
その対面席には先程ヤオバオと迷宮に潜っていた女性がタブレット片手に頭を下げてくる。
「申し訳ございません。本来であれば王には執務室で書類の決裁などをお願いしたいのですが、スカイドラゴンを倒せるパーティー達は軒並み周辺国のイレギュラーモンスターに対応しておりまして、現在アフリカ王国では王以外に倒せる者がおりません」
「みなまで言うな。お前は話が長い」
ヤオバオは顔を顰めると、横の美女からぶどうを口に運んでもらい、それを食べる。
秘書の女性の言う通り、現在、この異常事態を治めるために、アフリカ王国の精鋭探索者パーティーを周辺諸国に送っていた。
それ故に、国内が手薄になっており、それを国王であるヤオバオ自身がカバーしていた。
しかし、ヤオバオにとって机での事務仕事よりも身体を動かすこちらの方が性に合っていた。それ故に、この状況を誰よりも楽しんでいると言っても過言ではなかった。
二人の美女に甲斐甲斐しく世話をされたヤオバオは、ゆっくりと窓の外を眺める。
そこはアフリカという国から想像するようなサバンナではなく、東京やニューヨークにでも迷い込んだと勘違いしてしまうほど、灰色のビルとコンクリートの道路が立ち並ぶ、綺麗なオフィス街であった。
複数の有名なコンビニエンスストアが数十メートル間隔で立ち並び、お洒落なカフェの店内では最近流行りのセンスの良い服を着こなした黒人男性が最新のパソコンでコーヒーを飲んでいたり、学生服を着た少女達が雑談をしていた。
アフリカ王国において、この光景は決してごく一部の限られた場所だけの光景ではない。
アフリカ王国に点在する有名な都市であればどこでも見れる光景だ。
いまやアフリカ王国は相当な田舎でもなければ水や電気が通らず、トイレはボットンなどということはない。
これらは全て迷宮特需によって手に入れた莫大な資金をもとに、ヤオバオの主導の下で整備された。その光景からも分かる通り、ヤオバオを王としたアフリカ王国は、アフリカ大陸で最も発展した国だった。
大量に手に入れた魔石やアイテムを、高く国外に輸出し、手に入ったお金で技術を買い、インフラを整える。
アフリカ王国の国民はみるみる生活水準が上がっていき、国民一人当たりのGDPは先進国とほとんど変わらなくなっている。
これら全てを、ヤオバオが王になってからわずか十数年で行ったことだ。
街の風景を眺めると、ヤオバオはいつも達成感と満足感に浸れる。
ヤオバオが生まれた国は世界有数の最貧国で、飲み水だけでも炎天下の中を片道で二時間も歩かなければ手に入れられないようなような現代文明とは程遠い村だった。
それが今や、飲み水に困る国民は居らず、昔憧れていた先進国の民衆と同じ生活を送れている。
それがヤオバオにはとても誇らしかった。
そんないい気分に浸っていた時だった。
「王!」
目の前の道路に立ち塞がるように車が止まっており、その裏には顔を目出し帽で人間達がヤオバオの乗る車に銃を構えていた。
「テロリストです!」
「伏せろっ!」
次の瞬間、ヤオバオの乗る車に対して一斉に銃弾が放たれる。
銃弾はヤオバオの防弾車に弾かれて四方八方に飛んでいく。
ヤオバオは横にいた女性達の頭を掴み無理やり車のシートに押し込めながら、様子を伺う。
すると、ヤオバオの車の背後から悲鳴が聞こえてくる。
ヤオバオの後ろを走っていた一般人の車にテロリスト達の流れ弾が当たり、何人かが血を流して地面に伏していた。
プツン。
すぐそばにいた女性達は、銃声と車が弾を弾く轟音の中で確かにその音が聞こえた。
「ウォォォォぉぉぉぉぉオオオオオ!!!」
車の中でヤオバオが扉にタックルをかまして、横のドアをぶち破ると、それを盾にしながらテロリスト達に突撃する。
銃弾は外に出たヤオバオに一斉に向くが、弾はヤオバオの体に弾かれて遥か彼方に飛んでいく。
「パワァァァァァァァァァァアアアアアアーーーーーーー!!」
そう叫ぶと道を封鎖していた車を片手で持ち上げてそれをテロリスト達に投げつける。
車を投げつけられたテロリスト達は一瞬で肉片と化してバラバラとなる。
しかし他のテロリスト達はそれに戸惑うことなく銃弾を撃ち続ける。
「どけ!俺がやる」
すると、テロリストの一人がロケットランチャーをヤオバオに放つ。
ヤオバオはそれを待ち構えように立ち叫ぶ。
「パワァァァァァァァァァァアアアアアアーーーーーーー!!」
ヤオバオが叫ぶのと同時にロケットランチャーが炸裂する。
激しい爆風とと共に黒煙が立ち上り、ヤオバオの姿を隠す。
「やったか……?」
「一応まだ……ぶっ!?」
テロリスト達がそう呟いた瞬間、ヤオバオが砕いた石飛礫がテロリスト達に飛んでいき、まるで空間を抉り取ったかのようにテロリスト達を穴だらけにしていく。
「ウォォォォぉぉぉぉぉオオオオオ!」
そして、黒煙の中から飛び出したヤオバオは生き残りのテロリスト達に向かって走っていく。
わずか一分後、ヤオバオの周りには原型を留めていない肉片だけが散らばっていた。
「ダビデ!」
「はい」
ダビデと呼ばれた女性、ヤオバオと一緒に迷宮に潜った女性が即座に動く。
散らばった肉片を触り、その正体を突き止める。
「……特徴的な耳飾り。これは南方に住むジャンガルア族の者達ですね。それにこっちはハーフリアン族の者です」
それだけ言うと、ダビデは立ち上がり、王に振り返る。その眼差しはここにいない二つの部族の者に対する哀れみがあった。
何故なら、長年王の側近を務めたダビデは、この王がテロリストやその一族をどう処分するのかを知っているからだ。
感情を殺したダビデはゆっくりと、そしてはっきりとヤオバオに聞く。
「王、如何いたしますか?」
「決まっておる」
ヤオバオは、ダビデの言葉に強い眼差しを返し、断固たる態度でこう宣言する。
「一族郎党皆殺し。立てない老人も赤子も逃すな。根絶やしだ」
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今後の予定。
次話、もう一人オンリーワンの話。
その次が二話分ウィリアム・エバンスの話(サポーター限定で先出し)
その次がユーチューブ風ワン君考察話。
その次からが本編となります。
よろしくお願いします!




