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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第百二十話 疑問

「ふふふ、ワン様、いかがでした、私達の連携は?」

「凄かったと思うが、俺いらないだろ」

「そんなことありません!ワン様という強力な前衛がいてこそ、私たちは安心して戦えるのですから!」

「それならあのでかい奴と金剛がいれば十分だろ」

「それが……少々事情がありまして、今私達のパーティーはここにいる三人だけなんです」

「三人だけ?」


夏休み前は六人もいたのだが、今や彼女のパーティーは三人だけらしい。


花園曰く、禿頭の巨漢である武蔵はマンティコアとの戦いで自身の実力不足を実感したらしく、今は学園を休学して、実家の冒険者の伝手を辿って訓練をしているらしい。


チャラ男である六条は、どうやらマンティコアとの戦いで逃げ出したことで一悶着あったらしい。


その後結局和解し、訓練のために武蔵と同じ様に休学して外の冒険者パーティーで技術を磨いているとのこと。


金剛は相変わらずの一匹狼。


結局残ったのがこの三人だったのだというわけだ。


「学校を休学してまで迷宮で鍛えるとかちょっと考えられないな」

「武蔵は真面目すぎるのよ。格上相手に恐怖心を乗り越えて立ち向かえただけでも凄いんだから自信持っていいのに」


どこか遠い所を見ながらそう言う北條院に呆れる。


「いや乗り越えたのなら逃げろよ」

「倒れてた冒険者達を救わなきゃ行けなかったんだからしょうがないでしょ」

「それで死体を増やしてたら世話ないだろ」

「でもあんたが助けてくれたじゃない」

「結果論過ぎるだろ。間に合わなかったら本当に死んでただろ」


味方がいつ来るか分かっている耐久戦ならばまだしも、味方がいつ来るのか、また本当に来ているのかすら分からないのに戦うのは無謀以外の何者でも無い。


「そう言うあんただってキマイラと戦ったんでしょうが!」

「あれは逃げれなかったから仕方なく戦ったんだ。逃げられるなら逃げてた」


あの時は既にキマイラに捕捉されていた。逃げて背中にダークバーストを放たれ続けるくらいなら戦った方が活路がある。

と言うか実際俺は一人でキマイラ倒せたし。


俺がそう言うと、北條院は途端に言い表せない様な表情で俺を見てくる。


「……ふーん、本当にキマイラ倒したんだ」

「何だ。信じてなかったのか?」

「信じてないって言うか……。探索者になって半年も経たずにキマイラを殺すなんて、オンリーワン達でさえ多分無理よ。あんた、覚醒度何パーなの?」

「2パーだ」

「平然と嘘つくな!」

「証拠もあるが?」


そう言って、先日星空との配信で放送用にコピーした俺のステータス表をポケットから取り出す。


日付も印刷されている為いつのものか確認が取れるはずだ。


俺からステータスが書かれた紙を受け取った北條院はサッと流し見だけしてすぐに突き返してくる。


「読むの早いな。速読出来るのか?」

「出来ないけど。どうせ嘘なんでしょ。キマイラ倒しておいてこんなものに騙される人間なんていないわよ」

「そうか?俺なら信じるけど」

「どうでもいいから興味ないだけでしょ」

「……」


俺は図星を突かれて沈黙する。そんな俺を見て、北條院は呆れた様にため息をついた。


「はぁ……あんたねぇ、あんたが興味なくったって周りはあんたに興味あんのよ。自覚してないんだろうけど」

「自覚はしている。最近は特に視線がひどい」

「ならそんなので騙されないってこともわかるでしょ」

「いや分からないけど」

「何でよ……」


北條院は肩をガクリとさせる。


何でと言われてもな。本人がそう言っている以上、別に疑っても仕方がないだろって俺は思うけどね。


「小鳥遊って本当謎だわ。何でそんな考えになるのかさっぱり分かんない」

「ワン様のそんなところも魅力的です!」

「……俺もお前らが全然分からないからお互い様だ」


何考えてるか分からないところが魅力って何だ。そんなところを魅力に思ったことなんてないんだけど。


分からないより分かったほうがいいだろ。


「それじゃ次行くぞ」

「はい!」

「ええ」


話も区切りがいいので次の獲物を探しに探索を再開する。


それから二時間ほど狩りをしてお開きとなった。


安定して三人で狩りが出来ており、俺の出番はほぼなかったと言っていい。マジで何のために呼ばれたのだろうか。


「ではワン様。お約束通り、今晩の夕食作りに行かせていただきますね」

「ああ、待ってる」

「……」

「あ?」


待ってると言ったら花園が突然両手で口元を抑え出した。吐きたいの?


「ワン様、今の言葉、もう一度言ってくださいませんか?」

「今の言葉?待ってる?」

「ふふふ、はい、ワン様!待っててください!」

「ああ、待ってるけど。そう言う約束だし。むしろ来なかったら怒る」

「怒る……ふふ、はい!」


そう呟き、満面の笑みで元気に自分の寮へと走っていった。

怒るって言われて喜ぶって、花園はドMなのだろうか。


「はぁ……ちーちゃん……」


霧隠はいつの間にかいなくなっており、日が傾き、もうじき暗くなると言うこの場所で、北條院と俺は二人きりになっていた。

遠い目をしていた北條院は、元気に走っていく花園の背中を見送りながらため息を吐く。


「帰らないのか?」

「帰るけど!」

「何でお前は毎回怒ってんだよ」

「怒ってない!」

「あっそ」


面倒臭そうなので怒鳴っている北條院を放って帰ろうとする。しかし、後ろからガッと肩を掴まれて足を止めさせられてしまう。


「ちょっと待ちなさい!」

「何だ?」

「……」


首だけ振り返りながら聞くが、北條院は俺のことをじっと見つめるだけで何も言わない。


「話がないなら手を離せ」

「話ならあるわよ。急かさないで」

「話すことがあるなら早く言え。疲れてる」

「……あーもう!じゃあはっきり聞くわよ!あんた、ちーちゃんのこと、どう思ってるの!」

「……?」


どう思ってるのって聞かれてもな。


「何とも思ってない」

「……本当に?可愛いなとか付き合いたいなとか何もないの?」

「ない」

「そう……なんだ」


俺が正直に答えると、北條院は何故か気落ちした様に視線を背け、俺の肩から手を離す。


俺はそんな北條院に背を向け帰路に着いた。




ーー。

「って言う話があったんだが、どう思う?」


昨日と違い部室で星空と二人きりになった俺は、昨日のことを星空に聞いてみる。


俺に質問された星空は口を半開きにして驚いている。


「どうした?」

「ワン君が他人に興味を持ってる……信じられない」

「驚くな。疑問に思ったから聞いただけだ」


花園が何を考えているのかさっぱり分からない。最初は、文月達の様に俺にパワレベのお願いをしに来たと思ったのだが笑って否定されてしまった。


「ふーん……」


星空が意味深に顔で相槌を打ってくる。そして、こちらの顔色を伺う様に見つめながら聞いてくる。


「はぁ……ワン君は本当にモテるなー」

「強いからパワレベして欲しいだけだろ」

「そうだったらいいんだけどねー」

「いいのかよ。ダメだろ」

「あっはっはっはっ!」


星空が俺の突っ込みにお腹を抱えて笑う。そしてひとしきり笑う。


星空はしばらく笑い落ち着くと、話題を変える。


「そう言えばワン君、お父さんどうなったか知ってる?」

「知らない。あれからも連絡はとってない」

「そうなんだ。昨日ニュースでやってたんだけど、一人でどこかの迷宮に潜り始めたらしいよ」

「そうか。どういうスキルとかはやってたか?」

「……ワン君、気になるのがまずそこなんだね。もうちょっとお父さんのこと気にかけてあげなよ」

「言ったろ?もはや他人だ。父さんは父さんの好きに生きればいい」


呆れてジト目で見てくる星空に、肩をすくめてそう言う。


「それよりもスキルだ。どんなスキルなのか知らないか?」

「むー、知らないよ。ニュースではずっと黙秘してるんだって」

「だろうな。俺でもそうする」


他人の顔の違いが分からない父さんは、昔、他人に傷つけられた。それ以来、自分以外の全ての人間が自分を傷つけた人間と同じに感じるのだそうだ。

純粋な善意であっても、純粋な興味であっても、父さんにとっては自分を傷つけた人間と同じ悪意を持って接してきている様に見えるのだそうだ。


「ワン君のお父さん、ワン君と違って勝手に色々広められちゃったからね。そう思うとワン君のお父さん、可哀想……」

「同情するならお金でも上げればいい。……話を戻すが、父さんが有能なスキルなのは間違い無いんだろ?」

「そりゃそうでしょ!ワン君や世界中の最強の探索者である(オンリーワン)達と同じならそりゃもう反則級のスキルに決まってるよ!」


星空は表情を一転させ、身を乗り出して興奮した様に叫ぶ。


「だろうな。俺もレベル1から強かったし」


他人のステータス、およびスキルを自分のものとするコピー。


たまたま俺は坂田のステータスをコピーしてしまって苦労したが、本来はレベル1から最強のステータスをコピーすれば、それだけで圧倒的な速さで自身のレベルを上げられるものだ。


レベル1から迷宮の最前線で戦うことができるとは、チートもいいところだ。


恐らく、父さんも俺と同等のスキルを手に入れているはずだ。


「……よし!次の休み、父さんに会いに行くか!」

「え、え……ええーーーーー!!!!????」


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