第百十九話 再び15層へ
夕ご飯に釣られた俺は、花園のパーティーメンバー二人を含めた四人で15層へときていた。
「本日はご指導ご鞭たつのほどよろしくお願い致します」
「……お願いします」
「……よろしく」
花園が頭を下げ、北條院は腕を胸の前で組み、怪しげな視線を俺に向けている。
霧隠は膝をつき首を垂れている。前も思ったが戦国時代の忍者みたいな女だな。
「ああ、よろしくな」
それ以外は特に気にすることなく返事を返す。そんな俺の様子を見て、北條院がため息を漏らす。
「はぁ、何で私があんたとパーティー組まなきゃいけないのよ」
「姫花さん、ワン様に命を救っていただきながら、その言い方は良くないと思います!」
「感謝はしてるわよ。けどさ、本当にあんた一人でマンティコアやキマイラを倒したわけ?」
どうやら北條院は俺がマンティコアを倒したことを信じていない様だ。
「そういえば北條院は俺がマンティコアを倒す時寝てたんだっけ?」
「寝てたんじゃなくて気絶してたね?昼寝してたみたいに言わないでちょうだい!」
「そうか。戦いはどうだったんだ?」
「ぐっ!!」
俺が来るまでの戦闘の様子が聞きたくて質問をすると、北條院は言い淀んでしまう。
「どうした?」
「うふふ、ワン様。姫花さんは立派にマンティコアと戦っておりましたよ。最後は私を庇ってマンティコアのヘルサンダーに当たってしまったのです」
「へー、北條院も頑張ったんだな」
「へ!?ああ、うん。そうよ、ちーちゃんを守るために頑張ったのよ」
何故か視線を明後日の方に向け、しどろもどろに話す。どこ見てんの。
そして視線をいまだに膝をついている霧隠に戻す。
「あと、お前はいつまで膝をついてるんだ?」
「……」
え、無視?
もしかして霧隠は俺のことを嫌いなのだろうか。特に話したことはない筈だが。
「ワン様、紅葉さんはワン様のお力の一端を知り、ワン様に心酔してしまったのです」
「俺に心酔してるのか。何故?」
「ふふふ、ワン様のお力の一端でも知ってしまえば誰でもそうなりますわ」
「……?」
俺の力ってまさかコピーのことか。いやならねぇわ。坂田がもしコピースキル持ちだったって言っても、俺の感想はふーんで終わる。
人は人、自分は自分だろ。
「心酔しても何も出ないぞ?」
「……構いません」
「……そうか、霧隠がいいならそれでいいが」
構わないのか。まあ頼まれても何もする気はないけど。
俺たちの様子を見ていた北條院が呆れながら告げる。
「はぁ……あんたさぁ、私のパーティーを魅了するのやめてくれない?」
「魅了?」
「ちーちゃんだけならまだしも紅葉まであんたのこと話し出したのよ。本当、どうしてくれんのよ!」
「どうもしないけど」
今の会話の中で俺が何かしないといけないことあるか?
ああ一つだけあった。
この二人は俺がコピーというスキルを持っていると知っている。断言とまで行かずとも、これまでの星空の配信と、目の前で激レアスキルである花園のスキルと同じスキルを使った所を見せればおおかた確証に至れるだろう。
一応釘を刺しておかなければならはい。
「二人とも、俺の話をするのは勝手だが、くれぐれも周りに注意してくれ」
「はい!もちろんです!」
「畏まりました」
「畏まらなくてもいいけど」
気を付けてくれればいいのだ。
そんな二人の様子を見て北條院が大きなため息を吐く。
「はぁ……本当、勘弁してほしいわ」
「うふふ。姫花さんもすぐにワン様の魅力に気づきますよ」
「あり得ないから、絶対!」
「どうでもいいけどそろそろ行かないか?」
ここで駄弁っていてもいちえんにもならない。
「予定通り俺が前衛やるから、残った一、二匹はそっちで頼む」
「畏まりました、ワン様!」
「はっ!」
「分かったわ」
頷いた三人を見て、ミノタウロス狩りを行うために歩き出す。
そして数分後、四体のパーティーで地面に座り、草をムシャムシャ食べているミノタウロスを発見した。
「んじゃ、三体倒すから一体は頼むぞ」
「畏まりました」
「わ、分かったわ」
俺はすぐさま剣を抜き、ミノタウロスへと走って行く。
「ブモ?ブモォォォォォ!」
草を食んでいたミノタウロスのうちの一匹が顔を上げて俺に気付き、仲間に知らせる様に吠える。
それに怯むことなく、足を進め、牛のように角を突きつけて突撃してくる先頭のミノタウロスの攻撃をかわす。
そのまま背後の三体と対峙する。
最初の一体の直線的な突撃をかわし際に胴体を切り離し、続いて手に持った太い大剣の振り下ろしを避ける。
そのまま最後の四体目が太い大剣を振り上げる前にその心臓に剣を突き刺す。そのまま顔まで剣を切り上げ、振り返っていた三体目のミノタウロスを頭から股下まで真っ二つにする。
三体を黒いモヤにして消し、俺と花園達のちょうど中央で前後を挟まれて警戒しているミノタウロスを見る。
「ふーん、さすがね。めぐたんの動画で見るより実物はさらに速いのね」
ミノタウロスがまだ残っているのだが、北條院が余裕そうに俺の感想を述べている。
ミノタウロスも待ってくれない。一瞬で三体の味方を倒した俺よりも花園達の方を突破した方が可能性があると感じたのか、首を花園達の方に向け、動き出そうとした時だった。
「ブ、ブモ?」
ミノタウロスの体が一切動かない。俺の視線の先ではいつの間にか霧隠が印を結びその影をミノタウロスに伸ばしていた。
「紅葉、ありがと。ファイアーショット!」
北條院の杖の先から魔法が飛んでいきミノタウロスに当たる。
一撃で全身黒焦げになったミノタウロスは、それでも死んでおらず、何とか拘束を逃れようともがいている。
そんなことを北條院が許すはずがなく、再度同じ魔法を唱える。
「ファイアーショット!」
その攻撃でミノタウロスは黒いモヤとなって消えていった。
どうやらたったの二発でミノタウロスを消し炭にできるらしい。さすがは火魔法特化の火焔姫と呼ばれるだけのことはある。
魔石を拾いながら三人の元に歩く。
「ありがと」
北條院は笑顔で感謝の言葉を述べながら俺から魔石を受け取ると、次の敵に向けて悠々と歩き出す。
俺はその肩をむんずと掴み、足を止めさせる。
「後衛がパーティーの一番前を歩くな」
「わ、分かってるわよ!」
「ぷっ!」
「くっ……」
二人が吹き出すのを見て北條院が顔を真っ赤にして怒鳴る。
「笑うんじゃないわよ!」
「そうだ、笑い事じゃない。フォーメーションはちゃんとしろ」
「はい、すみません……」
さらに顔を赤くして謝る北條院を後ろに下げ、俺が一番前を歩く。
数分後、次は五体のを見つける。
先程と同じ様に一、二体残して倒そうとすると、花園に止められる。
「それじゃあさっきと同じ様に……」
「ワン様、お待ちください。もしよろしければここで一度パーティーでの戦い方というものをしてみませんか?」
「パーティーでの戦い?」
「はい!ワン様が楽できる様、戦術を組み上げたいと考えております」
「俺が楽をできるのか?それならやってみるか」
「はい。とは言ってもそんな難しいことは致しません。まずは私が行かせていきます。お二方、準備はよろしいですか?」
「もちろんよ」
北條院が力強く頷き、霧隠はこくりと頷く。俺は何も聞いていないので、ひとまず何もしなくていいのだろう。剣を抜いて構えたまま周囲の警戒をする。
「スロウペナルティ!アンチマジックペナルティ!」
「ファイアストーム!」
花園がそう叫ぶのと同時に、北條院が魔法を唱える。
顔を上げたミノタウロス達を炎の渦が一気に襲う。
悲鳴を上げながら方々に散っていき、炎の渦から逃れるミノタウロス達を北條院が冷徹に狩っていく。
「ファイアーショット!ファイアーショット!」
北條院の魔法は逃げ惑うミノタウロスに正確に当たり、黒いモヤへとなっていく。
そして三体目が消えた所で、残りの二体のミノタウロスがこちらに気付き、唸り声を上げて突撃してくる。
「忍法・影縫」
先程と同じ様に霧隠のスキルによって、一体のミノタウロスの足が止まる。
足が止まらなかったもう一体に、北條院が正確に魔法を当てる。
そして最後の一体となったミノタウロスに、北條院が杖を向ける。
「ファイアーショット」
北條院のファイアーショットは真っ直ぐに飛んでいき、最後の一体のミノタウロスが黒いモヤとなって消えていった。
「ふっ……」
北條院は得意げに杖に息を吹きかけ、花園は目を輝かせて俺をみてくる。
霧隠もなんか意識が俺に向いている様な気がする。
いや、俺いる?




