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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第百十七話 小鳥遊翔の分からない

小鳥遊翔は他人の感覚が分からない。


それ故に、小鳥遊翔は自分の行動理念でしか他人の行動や感情を判断出来なかった。


だから自分が考えていることや行動を超えた相手が、何を考え何を思って行動をするのか、全く理解できない人間だ。


自分とは異なる考えを持つ人間もいる、と言うことだけは分かる。しかし、何故そんな考えに至るのか、何故そんな行動をするのかが理解出来ない。


特に非合理的な感情による行動や、説明はされていないが何となく分かるであろう場の空気というものを読むことが特に苦手なのだ。


そんな小鳥遊翔を誰も理解出来なかったし、小鳥遊翔も理解出来なかった。


それが幼かった小鳥遊翔にはずっと苦痛だった。


そんな時、彼の父親である小鳥遊漂馬は彼にこう教えた。


「翔、お前に友達なんていらない。誰もお前のことを助けない。だから、お前はお前のためだけに生きろ」


父親にそう諭された小鳥遊翔は、他人と関わることをやめた。


人は一人でも生きていける。


他人に頼らず自分一人で生きていけるように、自分のことを自分でやるようになった。


それから、ずっと人を遠ざけて生きてきた。


他人を必要としない生き方を選んだ小鳥遊翔にとって、他人と関わる事は面倒ごと以外の何者でもなかったからだ。


中学時代、とにかく一人を好み、家庭の事情もありあらゆる学校行事を休んだ小鳥遊翔は、学校では浮いた存在だった。


友達もいない。ペアになってくれる同級生もいない。常に余り者の一人。


それでも小鳥遊翔は寂しいと思う事はない。仕方のない事なのだと諦めて仕舞ったのだ。


割り切った小鳥遊翔の心は、もはや学校生活で一人浮いた存在になることに何ら揺さぶられることは無くなった。


自分のために生きろという父親の教育は、ある種成功したと言っても良い。


そしてそのまま高校へと入学した小鳥遊翔は一変した周りの環境に戸惑っていた。


何度も冷たくあしらっているのにも関わらず、関わってこようとする周りの環境に理解ができなかった。


しかし、幼少期と同じ理解出来ない環境にあるにも関わらず、小鳥遊翔は今の現状を苦痛とは感じていなかった。


それはひとえに、星空達が彼に寄り添い、理解しようとした結果である。


小鳥遊翔には彼女達が何を考え、何故自分と一緒にいようとするのか全く理解出来なかったが、彼女達が自分のことを知ろうとしてくれている事だけは分かった。


小鳥遊翔にとって星空達は人生で初めて自分のことを理解しようとしてくれる人間であった。


小鳥遊翔はそんな彼女達に、親近感を覚えていた。


何故なら……分からないことを知りたいという感情は、小鳥遊翔にとって理解できるものなのだから。




ーー。

夏休みが終わり九月に入った。


今日からまた学校が始まる。


「ふわぁぁあー……」

「キュイー……」


俺が欠伸をするのを真似るように肩の上のフェイトも欠伸をする。


「おはよー!ワン君眠そうだねー!」


欠伸をする俺のすぐ横を歩いている星空が、明るい笑顔で聞いてくる。


「おはよう。一昨日徹夜でゲームしたのが響いたせいで全然眠れなくてな」


そう言うと、今度は逆側を歩いている文月と如月が話しかけてくる。


「フェイトまで夜更かしさせたんじゃないでしょうね?」

「してない。普通に横でぐーすか寝てたよ。俺が寝るタイミングで起き出すから文月が預かってくれて助かった」

「フェイトを預かるのはあんたの為じゃないけどね」

「キュイー!」


フェイトが鳴き、俺の肩から飛び出し、文月の方に飛んでいく。

文月はフェイトを優しく抱きしめ、その体毛を撫でる。

そのフェイトの首根っこを掴んで俺の元に引き寄せる。


「キュイ?」

「あっ!」


文月が驚いて声を上げるが、俺は構わずフェイトを顔の前まで持って来て、目を合わせて注意する。


「フェイト、学校の授業中は静かにすること。あちこち移動したりして周りに迷惑をかけないこと。分かってるな?」

「キュイキュイ!」


フェイトは俺の言葉を聞き、キュイキュイ鳴きながら羽をばたつかせている。分かったのか分かっていないのか。


この学園、校内はもちろんのこと、寮や学園の敷地内であってもペットの持ち込みは禁止されている。


しかし、例外として魔物は寮内どころか校内、授業中の教室であっても持ち込みを許可されている。


実際先輩の中にはアルミラージという魔物を常に側に置いているという話も聞いている。


しかし、学園側が許可しているとはいえ、キュイキュイうるさいフェイトを教室に連れて行くのは複雑な気分だ。


しかし、寮に置いて行こうとしたところ、文月を筆頭に周りに猛反対された為、こうして言い聞かせているのだ。


「大丈夫に決まってるでしょ!フェイトはもう私たちの言葉もわかるお利口さんなんだから!」

「そうよ。ねー、フェイト?」

「キュイキュイ!」


文月と如月の言葉に、フェイトが任せろと言わんばかりの顔で自分の胸を叩く。


そんなジェスチャーどこで覚えたの。


フェイトを可愛いと言いながら俺から取って行った二人が、またフェイトを撫で回していた。


「授業中騒いだらお留守番させるからな」

「分かってるわよ、ねーフェイト?」

「キュイ!」


フェイトは俺の再度の注意に対しても自信満々な顔で頷く。


心配だ。


「大丈夫だよ!きっと!フェイトはすごい賢い魔物だから!」

「そうかねー」

「うんうん、絶対にそうだよ!」


授業中に暴れ出したりしなければいいが。


「大丈夫よ。クラスメイトだって理解あるから」

「お前らの場合圧で黙らせるだけだろ」

「そんなことしないわよ」


如月が否定するが、この二人はフェイトに怒った生徒を校舎裏に呼び出すくらいはしそうだ。


一応釘を刺しておこう。


「フェイトの事で、裏に生徒を呼び出して脅したりするなよ」

「しないわよ!全く……」

「文月も分かってるな?」

「するわけないでしょ。あんた私達を何だと思ってるの?」


文月に鼻で笑われてしまった。文月は一度暴力沙汰を起こしているので、気に食わない事を拳で解決する可能性がある。


「キュイキュイ!」


俺が不安そうな顔をしていると、それを見たフェイトが羽をばたつかせ、俺の元に飛んでくる。


「キュイキュイ!」

「何だ?」

「任せろって言ってるわ」

「フェイトは本当にいい子ね」


両手をばたつかせているフェイトを見て、如月が笑顔で甘やかす。


「はぁ……」


本当に大丈夫だろうか。

そんな一抹の不安を抱えながら後 校舎に入る。


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