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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第百十六話 話題

「……え」

「小鳥遊……?」

「……」


二人が小さく呟き、俺の顔を覗き見てくる。

しかし、俺は無視して動画の続きを見る。


『小鳥遊さん!何か一言だけでもお願いします!』


再度のリポーターの呼びかけに、父さんはカサカサの口を動かす。


「か、帰ってくれ!俺は一人になりたいんだ!」


父さんはそう叫ぶが、リポーター達はめげずに質問をする。


『世界で唯一のスキルを手に入れた感想は?』

『期待している日本国民のために一言だけでも!』

『スキルはどんな能力でしたか?もう試しましたか?』


「か、帰ってくれ!」


諦めないリポーター達を見た父さんは、顔を引っ込めてバタンと扉を閉め鍵をかけてそう叫ぶ。


それでも諦めないリポーターがこう叫ぶ。


『東迷学園に通っている息子さんに一言お願いします!』

『大活躍した息子さんに一言お願いします!』


「あ?」

「うわっ……」

「うわー……」


その声に俺は思わず声が出て、横の二人も引いている。


「翔は関係ない!帰ってくれ!」


そんな父さんの悲痛な叫びを最後にニュースは終わった。


「ふーん……」

「「……」」


どうやらザ・ワンが父さんの息子であることがバレているらしい。


どこから、などと言う気はない。マスコミの情報網を甘くみてはいけない。


というか俺の名前、全国放送されたんだけど。


「それにしても何で探索者なんてやり始めたんだ?」

「ワ、ワン君……今大事なのはそこじゃないと思うけど……」

「そ、そうよ。小鳥遊のお父さん、めっちゃ大変そうじゃん!」

「どうでもいいだろ、そんなこと。親子の縁は切ったんだし、この騒動も父さんが引き起こしたものなんだから」


そう言ってスマホをポケットにしまい立ち上がる。そして、いつのまにか俺の前にいたフェイトを持ち上げる。


「キュイー!」

「……ワン君は、気にならないの?その、お父さんのこと」

「気にはなるが父さんには父さんの人生があるだろ。どういう経緯で探索者をやろうと思ったのかは知らないが、運良く探索者の才能に恵まれたんだ。せいぜいうまく使って金儲けでもすればいい。俺みたいにな」


どんなスキルかはよく分からないが、恐らくは世界中のオンリーワン達と同じで、他のスキルとは一線を画す能力だろう。

最初こそ苦労すれど、生活するには十分なお金が手に入るはずだ。


それに父さんは子どもじゃない。40代のいい歳したおっさんだ。自分のことは自分で決めるべきだ。


「でも、今までの仕事とかはいいの?」

「いや、父さんは仕事してない。ずっと生活保護貰ってた。だから生活保護から抜け出していい生活がしたかったんじゃないのか」


どういう経緯で迷宮探索者になったかは知らないが、生活保護から抜け出して仕事に就こうとしているのだ。


もはや他人の関係ではあるが、応援したいと思う。


「じゃあ帰るぞ。二人とも、それでいいな?」

「うん!」

「ええ」

「キュイ!」


俺の言葉に二人と一匹が返事をしたのを確認し、連れ立って帰路に着いた。


この時、俺はまだ知らなかった。世の中がどれだけこのニュースに注目しているのか。親子二代で特殊な存在であるということがどれだけ世界に衝撃を与えたのか、を。




ーー。


二人と別れて部屋に戻ろうとすると、俺の部屋の前には何故か人だかりができていた。男子達に混じり、女子達もいて、何故か俺の部屋の前で待っている。


「キュイ?」


彼らは、俺を見つけると、指を指して叫ぶ。


「あっ、帰ってきた!」

「小鳥遊だ!」

「小鳥遊君よ!」


一様に俺をみて駆け寄ってくる。


「何だ?」

「小鳥遊君、ニュース見たの!」

「小鳥遊のお父さん、覚醒度61%だって!」

「ああ」


何だ、そんなことで俺の部屋に群がってるのかよ。


「お父さんってどんな人?」

「どんなスキルか小鳥遊は聞いたのか?」

「自分領域ってどんな効果だったか?」


俺を囲う彼らは口々にあれこれと父さんのことを聞いてくる。そんな彼らをかき分けて、俺の前に花園が立つ。


「ワン様、ニュース拝見させていただきました」

「ああ」

「是非ともお話をお伺いさせていただきたく足を運ばせていただきましたが、お時間頂戴してもよろしいでしょうか?」

「俺は父さんに何も聞いていないし、別に興味もない。何時間話そうがお前らの知りたい情報は何も聞けないと思うぞ。とりあえずどいてくれ、部屋に入れない」


そう言って強引に花園達をかき分け、部屋の前に行く。


「少しだけでも教えてくれ!」

「お父さんのこと、知りたいの!」

「知りたいのなら直接聞きに行けばいい。まあ人嫌いの父さんが人を部屋に入れることはないと思うが」


ごねる彼らに背中を向け、鍵を取り出してドアを開ける。

そして、最後にまだもごもごと何か言いたそうにしている彼らにもう一度告げる。


「もう一度言うが俺は何も知らん。父さんのことで俺に話しかけてこないでくれ。聞かれても分からないからな」


そう言って扉を閉めた。


「これで分かってくれるといいんだが」


そう呟き、部屋に荷物を下ろす。


しかし、俺の願いはあっさりと砕かれることになった。


次の日も、その次の日も顔も名前も知らない生徒から父さんのことについて聞かれる事になった。


う、うぜぇ。


学園側からの呼びかけでそれもだんだん減ってきてはいるが、もはや俺の名前と顔はこの学園の全生徒、全職員に認知されていた。


そんな俺の部屋に、相変わらず文月達はやってくる。


「あんた、本当に毎回大変ね」

「……まさか今更父さんのことで話題にされるとは夢にも思わなかったよ」

「そうね。天才の親は天才ってことなのかしら」


いや、そんなことはないと思うが。


「まあそれよりも今日はワン君に聞きたいことがあって来たんだよね」

「そうなのか、とりあえず座れよ。お茶出すから」


そう言って俺は星空、文月、如月の三人の前にお茶を入れた紙コップを置く。


「ありがと」


代わりに俺の前には星空達が持って来たケーキが置いてある。それをフォークで食べながら改めて聞く。


「それで、俺に聞きたいことって何だ?」

「その前に一つ聞きたいんだけど、小鳥遊って聞かれたくない質問とかされたら嫌な気持ちになる?」


如月が探るようにそう聞いてくるので、俺は首を横に振る。


「ならない。答えたくない質問には答えたくないって言うだけだ。しつこく聞かれたらイライラするけどな」

「そう。なら聞くんだけど、あんた、お金のためにこの学園に来てるって言ってたわよね?」

「ああ」

「ってことはご両親はお金を出してくれないのよね?」

「そうだな」


文月の質問に頷く。この話、星空にもされたな。そんなに俺の家庭事情って気になるのかね。


「じゃあそのご両親とは……」

「星空にも聞かれたが、母親はいない。父親だけだ。仲は良くも悪くもない。ただほぼ絶縁状態ってだけだ」

「絶縁状態って……あんた、それ仲が悪いって言うと思うけど」

「お互いに憎んでないし、恨んでもない。嫌いあってるわけでもないしな。ただお互いを理解できないから関係が決裂しただけだ。だから俺と父親の関係は、単なる血の繋がった赤の他人だよ」


俺がこの学園に入学を決めたのは入学中にお金を稼げるから。それと学費の一切が無償だからだ。


「俺がこの学園の寮に入寮する日、家を出る時に父さんに言われたよ。『これからお前はお前のためだけに生きろ。俺も、俺のためだけに生きる。……俺も、お前も、世界中の誰にも理解されない存在だ』ってな」

「そう……なの……」

「ああ」


聞いた文月が絶句している。横の星空も手で口元を覆っている。


そんな絶句するようなことじゃないけどな。


殴られたり蹴られたりしたわけじゃない。ただ、父さんがこれ以上俺を養うのは無理だと判断した結果の家庭崩壊だ。


俺も受け入れているし、落ち込んでもない。家を出ていく時にも特に感慨もなかった。


「まあ最後に謝罪はされたな。『すまない。こんな父親で』って」


いや、あんた今父親やめたんだからもう親じゃないだろ、などと思いながら俺は荷物を持って家を出た。


「ワン君の優しさはお父さん譲りなんだね」

「いや、息子と縁切るやつは優しくないだろ」

「止むに止まれぬ事情があったんだよ、きっと」

「……」


まあ大方お金だろうな。


家にいた頃は、今とは比べ物にならないくらい貧相な生活をしていた。

新しいゲームを買うことができず、5年も前に買った1世代前の中古ゲームをずっとやっていた。


今考えるとよく飽きずにやっていたものだ。


そう思っていると星空が珍しくは切れの悪そうに聞いてくる。


「それで、その……物凄い失礼なこと聞いちゃうんだけど……」

「何だ?」

「ワン君のお父さんって、その……何か変だったりしないかな?」

「変?」


俺からするとここにいる三人みんな変なのだが。

俺が聞き返すと、星空は慌てて謝ってくる。


「いや、ごめんね!そんな悪い意味じゃないんだけど、その、ちょっと報道陣に異常に怯えていたように思ったから」

「そうね。あの怯えようは人付き合いが苦手ってレベルじゃなかったわ」

「ああ、そんなことか」


それなら思い当たる節がある。ごくりと喉を鳴らして俺のことを見つめる三人に、俺はなんてことはないことのように伝える。


「父さんは人の顔の区別がつかない人間なんだ」

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― 新着の感想 ―
あ~、相貌失認ってやつですかね? 昔北斗○拳の雑誌で、アミ○とトキの顔の判別がつかない→ケンシロ○は軽い相貌失認の可能性が?ってネタがあったなぁ。
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