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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第百十四話 原宿アリス

「ここがアリスか」


原宿迷宮探索総合取扱店ALIS。

通称原宿アリスに到着した俺たちは早速タクシーから出ようとする。しかし、それを星空に止められてしまう。


「あ、ちょっと待って!」

「何だ?」

「これ!」


そう言うと星空と同じ帽子と黒いサングラスを渡される。


「何だ、これ?」

「変装アイテム!私もワン君も有名人だからね!」

「星空……」

「そんな心配しなくて大丈夫だって!今はネットリテラシーもしっかりしてるし、配信でも街中で見ても声かけないでって言ってるから!」

「……」


誤魔化す星空を俺は怪しいものを見る目で見る。

それで世の中の人間が全員守ったら法律なんていらない。


「まあ何かあったら訴えるから大丈夫!」

「大丈夫なのか、それ」

「うんうん。ちなみに私はまだ街中で歩いている姿を撮られたことはないよ!」

「そうなのか」


盗撮した写真をSNSなどで上げると、AIが自動で判断して削除してくれたりする機能が付いてはいるが、それも絶対ではない。


「まあでも一応ね!はい!」

「分かった」


仕方ないので帽子とサングラスをかける。

日差しも強いので別に珍しくも何ともないが、外出る時にサングラスかけるなんて初めてで違和感がある。


サングラスと帽子を付け、改めて外に出る。


原宿アリスは迷宮関係の全アイテムの取り扱いを行うと言うだけあって、10階建ての大きな建物だった。


夏休みだからだろうか。原宿アリスの店内は子どもから大人まで様々な年齢層の人達でごった返していた。


「百貨店みたいだな」

「そうだよ!迷宮アイテムの総合百貨店だからね!」

「へー。それにしても迷宮アイテム専門店なのに子どもがいるんだな」


俺の視線の先には、中学生と思われる子ども達が店内に並べられた商品を眺めていた。


「あいつらも東迷学園を目指してるんかね?」

「多分ねー。でも迷宮専門の学園に入らなくても一応高校生から迷宮に入ることは出来るから、それかもね」

「そうなのか」


星空曰く、国家試験を受けて迷宮探索の国家資格を取れば高校生のうちからでも迷宮に潜れるらしい。


「でも結構難しいらしいよ。試験は実技と筆記の両方あるみたいだし」


東迷学園の試験は筆記だけだった。


一般の試験に実技があるのは、運動音痴ですぐ死ぬ可能性のある人間は迷宮に入れたくないからだろう。


それで死人でも出ればまたぞろ問題になる。


もはや迷宮資源は現代社会において切り離せないものだというのに、いまだに迷宮探索反対派は少なくない。


そんな風景を眺めながら案内板まで歩く。


「防具なら2階だね!行こ!」


星空に手を引かれながら2階へエスカレーターで登って行く。

そして2階に着くと、広い店内に所狭しと置かれた装備の数々が展示されていた。

値段や用途によって分類別されていたので、持ち合わせにあった装備が置かれたコーナーに行く。


「そう言えばワン君、予算は幾らくらいなの?」

「……50万DP」

「おお!そんなに高い装備買うんだ!いいね!」

「よくない。何でお金を稼ぐ為に行ってる迷宮のためにこんな大金使わないといけないんだ」

「何だって、将来の投資だよ投資!」

「分かってる……」


50万DP。つまり50万円だ。50万円あれば余裕で四ヶ月は過ごせる。あまりに大きな出費だ。

しかし、命の危険を感じた以上、それを無視することはできない。


「これは投資、これは投資」

「あははは!もう、そんな気にしないの!覚悟決めたんだからパーっと買っちゃお!」

「そうだな。必要な投資だ」


気を取り直して俺は50万円前後の装備を見に行く。


俺の鎧を買うはずなのだが、何故か張り切っている星空と共に鎧コーナーを見て回る。


銀色に輝くフルフェイスの西洋風の鎧から、赤や青に装飾された和風の甲冑までバリエーションが豊かに取り揃えられている。


他にもファンタジーに出てきそうなスタイリッシュな鎧や、膝や肩などの関節などを守るためのパーツ売りまで様々だ。


「パーツ売りか。考えてなかったがありだな」

「そうだね!胸や足や腕とかだけ硬めの籠手とかで覆って、身体は軽装って人も多いよ!」

「なるほどな。なら身体の方は魔法防御高めの魔物の皮か布製ってのもありか」

「うんうん!ありあり!」


俺の場合、剣聖のスキルを生かした戦いがしたいので、出来る限り装備は軽くするのがセオリーだろう。ならば削れる箇所は削るべきだ。


「どれがいいかなぁー」

「これとかいいんじゃないか」


そう言いながら俺が手に取ったのは軽くて丈夫そうな籠手と脛当てがセットになった鎧。


それ以外は付いていないが、それでも20万DPもする。うーん高い。


「いいね!スタイリッシュでいい感じじゃん!」

「そうだろ?」

「うんうん!それがありならこういうのもありなんじゃないかな?」


そう言って星空が別の籠手と脛当てのセットを指差す。


「ああ、それもいいな」

「じゃあ他にもいいのあるかもしれないからもっと色々見て回ろう!」

「ああ」


元気な星空について行きながら色々見て回る。

それから二時間ちょっと、店員にも聞きながら装備を選ぶ。


結局25万もする最初のやつよりもさらに高い籠手と脛当て付きのブーツを買うことにした。

もうちょっと安くてもよかったのだが、値段にの割に性能が高いコスパの良い装備があったのでそれを買うことにしたのだ。


「……靴と手袋で25万か。予算の半分を腕と脚だけで使うことになるとは」


身体とアクセサリーであと半分


「ふっふっふ!ワン君、安心して!私、割引券あるから!」

「割引券?」

「うんうん!割引券!」

「へー、何割引になるんだ?」


俺がそう聞くと、星空は得意げな顔で指を五本広げて見せた。


「5パー?」

「五割引きだよ!」

「おお!五割引き!」


驚く俺に星空はスマホを取り出す。


「ふっふーん!この前の企業案件で貰ったんだよねー」

「ああ、そういえば企業案件PR部だったな。最近行かないから忘れてた」

「もう、ちゃんと夏休みも活動してるんだからね!」

「そうなのか?」

「そうだよ!ワン君にも企業案件のお誘いいっぱい来てるんだから!」

「それは全部断っておいてくれ」

「もう!ワン君が案件受けてくれれば装備もアクセサリーもタダで手に入るのに!」

「要らないもの付けてもしょうがないだろ」


実際、ワーチューブでも多くの案件動画を見るが、案件で使用しただけで使うのをやめ、邪魔だから廃棄した、なんて話はよく聞く話だ。


「星空だって案件受けてるけど、全部使ってるわけじゃないだろ?」

「そうだけど、結構使ってる物も多いよ!」

「ふーん」


使ってる物もあるのか。てっきり値段に釣り合わない高いものを視聴者を騙くらかして売りつける詐欺商法だと思ってたんだけどな。


そんなことを思っていたら星空が何故か目を輝かせながら俺を見てくる。


「もしかして案件に興味が出てきたのかな!?」

「20万とかの装備がタダで貰えるんだろ?」

「案件で使ったものはそのまま使えるからね!アクセサリーとかの案件も結構あるよ!」

「……」


思案顔の俺を覗くように見て、星空は笑顔になる。


「まあ考えておいて!結構お金も出るからさ!」

「分かった」


俺は頷くと、今度は籠手と脛当ての付きのブーツ以外の部分の装備を探す。


その二時間後、五割引で35万DP分の全身装備を整えた。


星空の割引券で安くしてもらった残りの金額を支払い、郵送で送る手続きを終える。


「少し遅いが昼食にするか」

「うん!じゃあ十階のカフェテリアに行こう!」

「ああ」


そうして二人でエレベーターで十階テラスに行く。


エレベーターが開くと、そこはちょっと遅めのお昼だというのに、人でごった返しになっており、子どもから大人、はたまた探索者と契約した魔物が歩いていた。


その契約したおとなしい魔物達を、子ども達や大人達が物珍しそうに見たり触ったりしている。


「もう席は予約してあるから行こ!」

「ああ」


席まで準備しているとは用意周到だな。しかし、この混み具合だと人気のお店は並ばないといけないだろう。実際ざっと見る限りでも店外に出された椅子に座って順番を待つ客は少なくない。


「ここだよー!」


そう言って案内されたのは少し暗めの入り口で店内の客が分からないよう個室となっている高級焼肉店だった。

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