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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第百十二話 飛ぶ

「キュイーー!」

「わぁー!すごーい!」

「うおおおおおーーー!!」

「すごーい!」

「飛んでますね、ふふふ」


如月との練習の甲斐もあって、フェイトは空を飛べるようになっていた。


鷲の雛が飛べるようになるまで一ヶ月半近くかかると書いてあったが、産まれて二週間で飛べるようになるなど、やはりフェイトは魔物なのだろう。

それともグリフォンという生き物が存在したらこれくらいで飛べるようになるのだろうか。


本当のところは分からないが、フェイトは飛べるようになった。


そんなフェイトを見に、星空がパーティーメンバーを連れてやって来たのだ。


今日はただ遊びに来たらしく、星空達は配信をしていない。


フェイトが空を飛ぶということで、俺はしばらくフェイトの様子を見るために付き合っている。


正直帰りたいのだが、怪我でもされたら困るから帰るわけにもいかず、見守っている。


俺の視線の先では、フェイトが鷲の前脚を折り畳み、獅子の後ろ脚を伸ばし、翼を大きく広げて優雅に飛んでおり、その後ろを星空達が追っている。


しかし、フェイトが風に乗って遠くまで飛びそうなので呼ぶ。


「フェイト!遠くへ行きすぎだ!戻れ!」

「キュイ?キュイーー!」


俺が呼ぶと、フェイトはすぐに急旋回して俺の方に飛んできて、俺の胸に飛び込んで来る。


「キュイキュイ!」

「フェイト、あんまり遠くに飛ぶな。見えなくなると困る」

「キュイー!」

「おい、やめろ。俺の話を聞いているのか?」


俺がフェイトを注意すると、フェイトは嬉しそうに俺の顔に頭を擦り付けてくる。


喜ぶのはいいけど、俺の忠告はちゃんと聞いてるのだろうか。

いや、魔物だから言葉も通じていないだろう。


「言葉の通じない相手のしつけは大変だなぁ……」


どうすれば相手に自分の意思が伝わるのだろうか。遠くに行ってはいけないというのをジェスチャーで示すのも難しいし。


そんなことを悩んでいると、走って来た四人が俺を取り囲み、目を輝かせてフェイトを見る。


「もう飛べるようになるなんてすごいね!」

「我、我にももう一度抱かせて欲しい!」

「はいはーい!私も私も!」

「次は私も触りたいです」

「いいぞ。ほら」


俺の顔に、頭を擦り付けてくるフェイトの襟首を掴んで星空に渡す。


「うわー、全身ふわふわー!」

「それにいい匂いがするな」

「羽根も鳥類の羽根って感じ!大きくて力強いね!」

「尻尾もキュートですね。ライオンの尻尾は触ったことないですけどこんな感じなのでしょうか?」


きゃいきゃい言いながら、四人がフェイトを思い思いに触る。


「キュイー……」


フェイトは煩わしそうにもがく。それを見た星空が俺にフェイトを返してくる。

俺の腕の中に戻ったフェイトは前脚と後ろ脚でがっしりと俺の身体にしがみつく。


「どうした?」

「ごめんねー、怖がらせちゃったかな?」

「す、すまぬ……」

「大勢で囲みすぎちゃったかも……」

「ごめんなさいね、フェイトちゃん」

「キュイー」


四人が不安げな表情でで腕の中のフェイトを覗き込んでいる。身体にしがみつかれるのも邪魔なので、フェイトを見下ろしながら言う。


「フェイト」

「キュイ?」

「この人達は大丈夫だ。そんなに怖がらなくていい」

「キュイ……」


フェイトは小さく鳴き、俺の身体を掴んでいた両脚の力を緩める。緩まったところでフェイトを掴み、星空に渡す。


「星空達も四人で一斉に触るな。一人か二人ずつにしてくれ」

「うん!ごめんねフェイトちゃん」

「キュイキュイ!」


俺がそう言うと、四人は順番にフェイトに触り始め、フェイトも気持ちよさそうにリッラクスした状態で寝転がる。


「毛もツヤツヤだねー!ケア大変でしょー?」

「知らん。文月と如月が風呂入れてるから」

「へーあの二人のケアなら間違いないねー!」

「そうだな」


何か二人で魔物ショップとかに連れ出して色々買ったりしているらしい。俺は一切お金を出していない為、二人の奢りである。


本当にお金あるね、君達。


かく言う俺もぶっちゃけそこそこDPがある。何せ今まで貯めに貯めていた15層や18層、20層で手に入れたいアイテムや魔石を売り払ったし、キマイラの魔石やマンティコアの魔石なども売り払った為、資金は潤沢だった。


今までの人生でこれだけのお金を持ったことはない。大体のものは買えるし、大体のことは出来る。


しかし、目標まではまだ足らない。


億劫ではあるが、迷宮探索からはまだまだ離れられそうにない。


「はぁ……」


生まれた以上は仕方がないことなのだが、これからフェイトとどう迷宮探索をして金を稼ぐか悩みどころだ。


「キュイー!」


俺の視線の先では、散々撫でられたフェイトがもう一度飛ぼうと羽根をばたつかせる。


それをまた星空のパーティーメンバーが追う。


ただ、星空だけは俺の方に歩いて来て、横に立つ。


「ふふふ、ワン君、なんだかんだでちゃんと父親やってるね!」

「父親なんてやってないだろ」


何かあったら危ないので監視しに来ているだけだ。別に父親じゃなくてもやるだろ。


「いやー、てっきり魔物にも子どもにも興味がないんじゃないかなーとか思ったりしたんだけど……」

「どっちにも興味なんてない。飼い主として当たり前のことをしているだけだ」

「当たり前の事ねー……えへへ」

「何で笑っているんだ?」

「んーんー、何でも!」

「?」


星空は意味深な笑顔を俺に向ける。


「相変わらず星空は訳がわからないな」

「ぶはっ!あはははは!それ、ワン君が言う!?あははははは」


俺がそう言うと、星空は大爆笑する。何がそんなにおかしいんだか。

笑いまくっている星空を放ってフェイトを見ていると、笑い終わった星空が俺の腕に自分の腕を絡めてくる。


「えい!」

「何だ?」

「えへへ、でも最近ワン君のこと、結構分かって来た!」

「そうか。とりあえず腕離せ」

「ひどー!」


そう言うと、星空は更に腕を絡めてくる。離せって言ったのが聞こえなかったのか。


それに、星空は俺のことが結構分かって来ているらしい。そんな訳ないだろ。


「はぁ……全く、今後どうするかねー……」

「今後?」

「ああ。そろそろ真面目に迷宮探索しないとなーって」

「えー!本当!?」


腕に抱きついている星空は、下から俺を見上げて驚きの声を上げる。


「ああ。あいつらのパワレベ以外サボっていたが、そろそろ、な?」

「うんうん!いいね!何層に行くつもりなの?」

「24層とかでいいんじゃないか。20層の次の過疎階層だし」

「そう?でも今魔法ないんだよね?大丈夫?」


星空の言う通り、今の俺には攻撃魔法はない。キマイラ事件の際、相園のステータスから花園のステータスに変更してから未だ相園のステータスをコピーしなおせていない。


夏休みだからか実家に帰っているらしかった。


「代わりに花園のバフがあるからな。動画は見たし、まあ何とかなるだろ」


花園のバフは便利だ。この学園にたった四人しかいない回復魔法持ちで、豊富なバフで様々な局面に対応できる。


相園の魔法の代わりとして十分戦力になる。


唯一面倒臭いのは、バフが切れ次第、ステータスを変えてバフをかけ直さないといけない事くらいだ。


それとは別に、迷宮に潜るのであれば買わなければいけないものもある。迷宮知識のない俺やらも星空を連れて行くのが適任だろう。


「星空は、明日暇か?」

「明日?うん、暇だよ!」

「なら、俺に付き合ってくれ」

「え!?いいよ!」


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