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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第百十一話 滑空

「翔……あんた本当に甘やかされてるわね」


如月が、部屋でゲームをしながらゴロゴロしている俺を見るなりそういった。

その胸にはフェイトが抱かれており、俺を冷ややかな目で見下ろす如月の顔に自分の顔を擦り付けようとしていた。


「キュイキュイ!」

「どこがだ?」

「朝も昼も夜もご飯作ってくれる女の子がいるのって日本中探しても翔だけよ」

「それに関しては本当に感謝してる」

「感謝は言葉だけじゃなくて形で示して欲しいんだけど」

「パワレベ付き合ってるだろ?」

「キュイー!」


俺がそう言うと、胸に抱かれているフェイトが如月の体をよじ登ろうともがく。


「はいはーい!フェイトちゃんはいい子ねー!よしよーし!」

「キュイキュイ!」


如月は一瞬で表情を破顔させてフェイトを甘やかす。

フェイトも喜んで、両手をパッと開いて鳴いている。


「それで、何で俺の部屋に来たんだ?」

「別に。用がないと来ちゃダメかしら?」

「ダメだ」


俺の部屋なんだけど。用もないのに気軽に来ないで欲しい。


即答で断る俺を見た如月は、ため息を吐き、フェイトを撫でる。


「フェイトちゃんに会いに来たのよ」


如月はこちらをチラリとも見ずにフェイトを撫でながらそう言った。そんな如月に俺は言う。


「別にお前の部屋に連れていっていいぞ」

「フェイトちゃんはあんたの近くで魔力補充しないといけないんでしょ。ならここにいたほうが効率いいじゃん」

「そんなすぐ魔力切れを起こしたりしないと思うが」

「ふん」


そういって如月はフェイトを撫でるのに戻る。

いや、ふんじゃなくて。


まあ考えようによってはゲームに集中できるからいいか。


そう思い、無視していると、背後からバサバサという羽ばたきの音が聞こえてきた。


「ん?」


フェイトが喜んで羽根をばたつかせているのかと思い、振り返る。


「キュイーーーー!」

「うおっ!」


振り返った瞬間、俺の顔面にフェイトが飛び込んできた。

鷲の尖った前脚で俺の顔面をガシッとホールドしてくる。


「痛いんだが」

「キュイキュイ!」


そう呟きながらゲームを一時中断し、顔に張り付いているフェイトを剥がす。そんな俺達の様子を見て如月は嬉しそうに聞いて来る、


「どう!?滑空できるようになったのよ?」

「どうもなにもない。人の顔に飛び込ませるな」


俺は冷めた目で如月を見て、襟首を掴んだフェイトをそのまま床に降ろす。


「キュイー!」

「何だ?」


俺の服を掴んで来るフェイトを見下ろしながら聞く。


「キュイキュイ!」

「遊んで欲しいんじゃない?」

「いま如月と遊んでただろ」

「相変わらず鈍感ね。あんたに遊んで欲しいんでしょ。ねー、フェイトちゃん!」

「キュイ!」


如月の言葉に同意するようにフェイトが鳴く。


「遊びたいなら一人で遊べ。遊び道具なら買ってやるから」

「キュイキュイ!」

「いてっ!噛むな」


遊び道具を買ってやるっていってるのに手を噛まれた。何故だ。


噛まれていないもう片方の手でフェイトの首根っこを掴み、手から離す。


「お前……俺を噛むんじゃねぇ」

「キュイキュイ!」

「何言ってるのか分かんねぇよ」

「キュイ……」


俺に何か伝えようとしているフェイトをあしらうと、フェイトは落ち込んだように頭を下げてしまった。


とりあえず静かになったので、床に下ろしてゲームの続きを再開する。


後ろでは、如月が再びフェイトを持ち上げ、慰める。


「キュイキュイー……」

「フェイトはいい子いい子ねー。フェイトはパパと一緒に遊びたいんだよねー?」

「キュイキュイ……」

「ほら、あんたと一緒に遊びたいって言ってるじゃない」

「言ってないだろ」


フェイトは、キュイキュイ言ってるだけで何も言葉にしていない。


「どう見てもあんたと遊びたがってるじゃない」

「俺からすればご飯でも欲しがっているようにしか見えないが?」

「はぁ……」


頭痛でもするのか、如月が頭を抱えだした。


「夏風邪か?熱あるなら帰れよー」

「熱じゃないわよ。はぁ、本当、あんたって意味分かんない」

「そうか。俺も他人が理解出来ないよ」


俺も如月が理解出来ない。だから如月が俺を理解出来ないのも当然だ。


ゲームをやりながらそう返すと、如月はグズるフェイトをあやしながら言う。


「そんな冷たいこと言うくせに、この子を迷宮に入れたがらないのね」

「産まれたばかりの雛を迷宮に入れさせないのは当然のことだろ」


文月はフェイトを連れて迷宮に行きたがっていた。しかし、俺がフェイトを絶対に迷宮に行かせるなと拒否したので、フェイトは未だに迷宮には入っていない。


産まれたばかりの雛を迷宮に連れていって戦わせるなど、常軌を逸した異常行動としか思えない。


文月にそう話すと、いつ頃かと聞かれたので二ヶ月と答えておいた。


グリフォンが鷲とライオンのキメラなのでどちらに合わせればいいか分からなかった。


まあ頭が鷲なので鷲と判断し、鷲の雛が一人で飛べるようになるまでの時間、つまり二ヶ月と言っておいた。


そんなに……、と文月は絶句していたが、俺なら産まれて二ヶ月で迷宮にぶちこまれたらブチギレるけどね。


しかし、フェイトは迷宮探索動画を楽しそうに見ており、どうやら迷宮が好きなように見える。


ネットで調べたところ、卵から生まれた魔物はすぐ戦えるとの事だが、人は人、うちはうちだ。


「はぁ、本当、優しいんだか冷たいんだか」

「いや普通だと思うが」


魔物とはいえ、産まれたばかりの雛を迷宮で戦わせるのが普通だとしたら世も末だ。


文月もすぐに納得したし、普通のことだろ。


「普通ねー……」


何か意味深な呟きをする如月を放って、俺はゲームに集中する。


しかし、すぐに如月が俺の横に座ってきてフェイトを押し付けながら言ってくる。


「じゃあフェイトが飛ぶ練習するの、手伝って!」

「キュイー!」

「あ?」

「フェイトが飛べるようになるまで練習に付き合って!それならいいでしょ?」

「……」


如月はその綺麗な顔を満面の笑みに変え、そんな提案をしてくる。困ったな……。


俺は数秒考えてから、ゲームデータをセーブして電源を消す。


「はぁ……仕方ないなぁ」


面倒くさいが、フェイトがいずれ迷宮に潜るのであれば飛ぶ練習も必要になることだろう。


それならば保護者である俺が見ないわけにもいかないだろう。よっこらせと、重い腰を上げて服を引っ張り出す。


「ふふ、ありがとね」

「何でお前が感謝するんだ。フェイトにとって必要なことだからやるんだ」

「いいの、私が感謝したいだけだから」

「キュイー!」

「は?」


相変わらず如月はおかしな奴だな。


「着替えるから部屋出てってくれ」

「分かったわ」

「キュイー!」


頷いた如月がフェイトを連れて部屋を出ていったのを見て、俺も着替えて後を追う。


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