表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

110/149

第百十話 最近の日常

「キュイー!キュイー!」


つい先日、俺の部屋に同居すること生き物が増えた。


「うるせぇ……」


気だるさは無くなったものの、未だ心の傷が癒えない俺はこのキュイキュイ鳴く魔物を鬱陶しく思っていた。


夏休みだというのに、毎朝早くからキュイキュイ鳴いて俺のことを起こしてくる。


しかも俺の顔に覆い被さる様に乗ってくるため、口に毛が入るし、息は吸い辛くなるので邪魔なことこの上ない。


わしっとグリフォンの襟首を掴み、ベッドの下に下ろす。


「キュイキュイ!」


しかし、再度俺のベッドに上がってきたグリフォンは、また俺の顔によじ登ろうとしてくる。


グリフォンは前足が鷲の爪であり、鋭く尖っている。


顔の周りをうろうろされると爪が当たって痛い。


「キュイキュイ!」

「うるせぇなぁ」


再度グリフォンの襟首を掴み、今度は俺の懐に入れる。こうするとなぜか大人しくなるので、最近はこうする様にしている。


「キュイー」


そして二度寝に入って一時間後、今度は別の乱入者が現れる。


コンコン。


「フェイトー、起きてるかしら?」

「キュイ?キュイキュイ!」


ドアのノックが部屋に響き、それと同時にグリフォンが飛び起きて駆け出す。


そして扉の前で爪をカリカリしながら鳴き始めた。


「小鳥遊ー!起きてるんでしょー!」

「うるせぇ……」


扉を叩いているのは文月である。


文月はこのグリフォンが生まれて以降、俺の部屋に毎日来るようになっていた。目当てはもちろんフェイトと名付けたこのグリフォンだ。


しかし、フェイトはまだ飛べない。翼があるのだが、羽ばたいてもまだ体を持ち上げられないのだ。


だから自分で鍵も開けられない。


つまり、朝早くから来るこの乱入者を追い出すために、俺はわざわざベッドから起き上がらないといけないのだ。


のそのそと立ち上がった俺は、部屋の扉の前まで歩いて行き、鍵を開ける。


すると、向こう側からドアが開き、手に荷物を抱えた文月が立っていた。夏らしく、薄着の上着に、股下数センチしかないパンツを履いている。


恐らくは寝巻きのまま俺の部屋に来ているのだろう。


「おはようー、フェイト」

「キュイキュイ!」


文月は少ししゃがみ、文月の足にしがみつくフェイトを優しく抱き上げる。抱き上げられたフェイトは嬉しそうに鳴きながら文月の胸にしがみつく。


そしてしっかりとフェイトを抱きしめた文月は俺に手荷物を渡してくる。


「おはよう。ほら、小鳥遊、おかず持ってきたから後で食べなさい」

「ああ、ありがとう」

「キュイー」


それだけ言って、そのまま俺に手を振るフェイトを連れて出て行った。


ドアを閉め、鍵をかけた俺は、包みに入ったおかずを持って机の上に包みを置き、そのままベッドに潜り込む。


その更に一時間後、のそのそと起き上がった俺は、最近買った炊飯器を開けて、紙皿にご飯を盛り、おかずを開ける。


もそもそとご飯を食べながらワーチューブを見る。

最近魔物の卵について調べていたせいか、ワーチューブのおすすめ欄が、孵卵師や魔物の卵の考察動画ばかり出てくる。


中身を見たことはないが、星空や文月に聞いてみても、インタビューなどは全て断っていると言っていた。


つまり、ここにある動画はほぼ全てが憶測でしかなく、星空が配信で言っていることの二番煎じでしかないということだ。


それにも関わらず、再生数が軒並み高いのは、それだけ世間の関心があるということだろう。

そんな動画を無視して、いつも見ているワーチューバーの動画を見ながら朝ごはんを食べる。


これが俺の朝のルーティンである。


お昼頃になると、文月がフェイトを胸に抱きながら俺の部屋に来る。


別に夜まで預かってくれていいのだが、どうも文月曰く、魔物の卵から生まれた従魔は契約者の魔力を摂取して生きているらしい。


従魔が契約者と離れることは、人間で言うとご飯を抜かれるのと同じことらしい。


だからこうして数時間ごとにフェイトを連れて来るのだ。


時間はお昼ということで、お昼ご飯を持ってきた文月は、おかずを机に広げながら言って来る。


「って言うかいい加減合鍵頂戴よ」

「あげるわけないだろ。お金とか盗まれるかもしれないだろうが」

「盗むわけないじゃない!ほんっとあんたって意味不明。今更私が数万円に固執して人生棒に振るように見えるのかしら」

「相手の全てが分かると思うほど俺は自惚れていない」


万引きをする人間の多くは経済的理由ではなく、精神的な理由だと聞いたことがある。

彼女がそうでないと言う保証はどこにもない。


「双葉は部屋に泊めたくせに」

「部屋に一泊させるのと合鍵渡すのは違うだろ」

「同じようなものよ。ねー、フェイトー?」

「キュイ?キュイキュイ!」


文月は同意を求めるように腕の中のフェイトに声を掛け、フェイトは声を掛けられて嬉しそうに鳴いている。

文月もそれを見て嬉しそうに笑っている。


おかずが机に広げられると、フェイトは小さい鷲の前足を精一杯伸ばしてそれを取ろうとする。


「キュイキュイ!」

「まだダメよ。ちゃんといただきますしないと」

「キュイキュイ!」


文月は注意されても精一杯両手を伸ばすフェイトを抑えながら、おかずからフェイト用のおかずを取り分ける。


ちなみにフェイトに関わらず、魔物は雑食性らしくなんでも食べれる。だが、魔物によって好き嫌いはあり、また白米のような粘り気のあるものは食べさせないようにしている。


今日はフェイトの好きな肉団子とハンバーグだ。俺も雑食性だから基本好き嫌いはあまりないが、最近おかずがフェイトの好みに偏っている気がする。


そして、準備が終わると、文月がフェイトとおかずが写るようにして写真を撮る。


「これを上げてっと」


これも毎日の日課だ。文月はスマホを操作して、フェイトのご飯の風景をフォトグラに投稿している。


それが終わるとフェイトの前脚を合わせて挨拶をする。


「いただきます」

「いただきます」

「キュイキュイ!」


いただきますをすると、フェイトは床に降りて、物凄い勢いで目の前のお皿のおかず類を食べ始める。


「毎回見てて思うが、フェイトにちゃんと朝ごはんあげてるのか?」

「あげてるに決まってるじゃない!私のフォトグラ見てないわけ?」

「見てない」

「見なさいよ!」

「いや興味ない」


俺は全然興味がないが、どうもフェイトとの写真がバズりにバズっているのだとか。

高い閲覧数と多くのギフトによってそこそこの収益を見込めるそうだ。


その一部をフェイトのご飯代や装備代にするらしい。


フェイトには自分の食い扶持は自分で稼げって言おうとしたのだが、どうやら問題ないようだ。


生まれて一週間で自分の食い扶持稼ぐなんてまさに魔物だ。


「キュイキュイ!」


自分のお皿の分を食べ終わったフェイトが机に身を乗り出し、机の上のおかずに手を伸ばそうとする。


「こーら!おかわりが欲しい時はどうするんだっけ?」

「キュイ?キュイキュイ!」


文月がそういうと、フェイトは自分が食べていたお皿を前脚で掴んで机の上に乗っける。


「キュイキュイ!」

「そう!いい子ねー!フェイト!」


文月はそう言いながら、おかずをフェイトのお皿に取っていく。


そしておかずを取り終わると、机の下に置く。フェイトもそれに釣られて机から手を離し、おかずを貪り食う。


文月はその様子を見ながら、フェイトの背中を撫でる。


フェイトは魔物だからなのか分からないが、本当に一杯ご飯を食べる。


そしてお腹がぽっこりしてきた辺りで満足したのか、その場でゴロリと寝転がる。


「ほーら、フェイト。寝転がる前に口と手を拭かないと……」


文月はそういってハンカチを取り出し、フェイトの口と手を拭く。


「じゃあまた後で来るわね」

「ああ」


ご飯を食べ終わり、片付けをした文月は、寝ているフェイトを愛おしそうに撫でた後、部屋に帰る。


この時間でフェイトの魔力の補充と、自分のことをしに行くのだ。坂田と迷宮に潜ったり、勉強したりするらしい。


その後、夜ごろにフェイトのために夕食を作りに来て、フェイトに夕ご飯をあげてから風呂に連れて行き、その後九時くらいに自室に戻っていく。


俺はそれを見ながらゲームをして、俺の周りで飛び回るフェイトを片手であやしながら、二十四時くらいに寝る。


これがここ数日の日常だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こんにちは。 フェイトか~。取り敢えず文月が五十○麗ボイス&狂気フェイスで「産まれてからずっと、私は貴方の事が……大嫌いだったのよ!」と言い出すような関係にならないことを願いましょう(今年20周年の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ