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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第百六話 宿泊(された)

コンコン、という部屋の扉が叩かれる音がした。


「……」


面倒くさいので無視していると、再度扉がノックされる。


俺はそのまま無視していると、小さく声が聞こえてきた。


「小鳥遊……お願い、入れて……」

「あ?」


誰の声だ。如月っぽかったけどなんか弱々しかったな。


気になった俺は、腰を上げてドアをまだ歩いて行き、ゆっくりと開ける。


「……如月か?」

「……」


ドアの前に立っていた暗い顔をした女を見て、一瞬誰か認識できなかった。


だが、よく見てみると如月の面影がある。というか如月だ。だが、何故か泣いている。


「あーっと……なんだ。体には気をつけろよ、じゃあ……」


面倒ごとの気配がした為、そう言って扉を閉じようとしたところ、如月は突然動き出して俺に抱きついてくる。


「うおっ!何だ?」


突然抱きつかれ驚きに固まる。だが、如月は俺の質問に答えず、俺に抱きつくだけで何も言わない。


困ったな。流石にこれだと追い出せない。


「よく分からないが、とりあえず部屋に入れ」


仕方がないのでそう言って俺に抱きつく如月を少し剥がし、肩を抱いて部屋に入れる。


そしてそのまま座布団の上に座らせるが、如月が俺の服を掴んで離さない為、一緒に座る。


「あー、お茶でも飲むか?」

「いらない……」

「そうか。何か欲しいものあるか?」

「いい……」

「そうか」


よく分からないが何もいらないらしい。


特に出来ることもないので俺は如月の肩を抱いたまま、オークションの注意点や危険性についての調査を再開する。


しばらくすると泣き止んだ如月が、俺を見ていることに気づく。


「なんだ、泣き止んだか?」

「ええ」

「それなら離れてくれ。スマホが見づらい」

「……もうちょっとこうさせて」

「……別にいいけど」


ちょっと邪魔なくらいだから構わない。

気にせず注意点などを確認していると今度は服を引っ張られる。

なんだと思って下を見ると、如月が頬を膨らませて俺を睨んでいる。


「どうした?」

「あんた、なんで泣いてるんだとか聞きなさいよ」

「いや、別に興味ない」

「酷過ぎ。ほんっとあんたって心無き」

「根掘り葉掘り泣いてる理由聞かれたいか?」

「聞かれたくないけど事情くらい聞いてよ、バカ」


何で俺が罵られてるんだ。

如月が泣いている理由とか別に興味ないんだけど。


「でも……あんたやっぱり優しいのね」

「何が?」

「ずっと私の背中撫でてくれるじゃない」

「ああそんなことか」

「そんなことよ。でもこういうちょっとした気遣いが嬉しいのよ」

「そうか」


泣いてる女の子にはこうした方がいいってアニメかなんかで言っていたから実行に移しただけだ。特に手間とかないし。


「でも、そろそろ離れるわね。恵にも悪いし」

「何でそこで星空の名前が出てくるんだ?」

「別にいいのよ。あんたは分からなくて」

「……?」


よく分からないが俺が知らなくていいならいいか。


如月が離れ、俺の左横の座布団に座る。

特に話すようなことはない。如月は手持ち無沙汰なのか、俺が眺めているパンフレットを見始めた。


「あんた、本当に卵は売るつもりなのね」

「当たり前だ。この為に迷宮に潜ったんだ」

「産まれさせてペットにしようとか思わないの?」

「思わない。ペットなんて金の無駄だ」

「ペット可愛いじゃない。それとも何とも思わない人?」

「いや、可愛いとは思うぞ。ネットで見るだけで十分だがな」


可愛いとは思う。犬や猫が戯れている動画を見て可愛いな、癒されるな、と思うことは多々ある。


しかし、猫を飼うのに掛かる金額は年間で21万円前後らしい。しかも、ペットにすれば世話をする必要があり、それだけ労力が必要となる。


それだけのお金と労力をかける価値を俺はペットには感じない。


「そう。残念ね。その卵からどんな魔物が生まれるのか興味があったのに」

「買った人間がSNSで自慢とかすると思うぞ。後々調べればこの卵から生まれてくる魔物が何なのか分かるはずだ」


少し魔物の卵について調べたのだが、年間でたったの四個しか見つからないはずなのに、魔物の卵から孵った魔物の画像は大量に出てくる。


その画像をちょっと調べれば、どこで購入したのか、それとも自分で見つけた卵から孵したのかすぐ分かる。


購入者が自己顕示欲のために自ら情報を流してくれるのだから、それでいずれ知る事ができるのだ。


「まあ俺は調べる気はないけどな」

「……そう」


俺がそう言うと、如月はそれだけ呟いてそのまま静かになってしまった。


「「……」」


それから如月は何も言わなくなってしまったので、俺も何も言わずにパンフレットを見る。


それから数時間、日が沈みかけるのを見て、俺は寝転がっている如月に声をかける。


「俺はシャワー浴びてくるが、お前はどうするんだ?」

「別に。好きに行ってきなさいよ」


いや、そういう事じゃなくていつ出て行くんだって話なんだけど。


卵が入った桐の箱を持って部屋についている風呂に入る。


普段なら温泉に行きたいところだが、卵が心配なので仕方がない。


桐の箱を脱衣所に置き、お風呂に入る。


しばらくお風呂に入っていると、コンコンと洗面所のドアがノックされ、如月が入ってくる。


「小鳥遊、ちょっと部屋に戻るわね」

「ああ……あ?」


いやもう来るなよ。

何でこの部屋に戻ってくる前提みたいな話してるんだ。


そう思いながらお風呂に浸かる。


その後、身体を洗い流して浴場から出た俺は服を着て、桐の箱を持ち上げようとして、手を止める。


「あ?」


ほんの少しの違和感。


だが、それも一瞬のことだった。


特に気にすることなく桐の箱を持ち上げ、部屋に戻る。


それから数分後、如月が再度部屋を訪ねてくる。


「……そんなに荷物持ってどうした?」


如月が俺の部屋に荷物を持って入ってきた。


「今日ここで泊めて欲しいんだけど」

「ダメだけど?」


何言ってんだ。ここは俺の部屋だ。

そう言うと、如月はばつが悪そうな顔をしながら呟く。


「奈々美と喧嘩して帰り辛いのよ」


どうやら涙の原因は文月と喧嘩をしたことらしい。でもそれって俺、関係ないよね?


「部屋に戻りたくないなら星空の部屋でもいけばいいだろ」

「恵は同室の子がいるでしょ」

「それはそうだが……だからって俺の部屋に泊まらなくてもいいだろ」

「小鳥遊一人部屋でしょ。今日一日だけお願い」

「お前なぁ……」


困った俺は頭をポリポリとかく。


「ここで追い出されると廊下で寝ないといけなくなるの。だからお願い」


如月は腕を抱いて顔を赤くしてお願いしてくる。


うーん、まあ五日間良い思いしたし、今日一日くらい我慢するか。一番良い部屋を一人で独占するのも十分楽しんだし。


部屋も広く、布団もある。二人で寝てもまだまだ場所に余裕はあるのだ。


「はぁ……まあいいぞ」

「ふふ、ありがと」


俺が許可すると、如月は嬉しそうに笑う。


「そういえば今日学校からの連絡見たかしら?」

「今日?見てない」


俺が机で調べ物をしていると荷物を置いていた如月がそう聞いてくる。

今日の学校からの連絡なんか見てないな。


「明日で学園に帰るそうよ。マスコミが旅館を囲って大変だからって」

「そうか」

「……素っ気ないのね」

「ああ。明日もどうせ部屋から出る気なかったからな。むしろ学園に帰れるなら有難い」


卵を置いて観光なんてする気はないし、部屋から出られないならここにいる意味はない。


「私はもっとあんたと話したかったけどね」

「学園に戻ったらまた話せるだろ」

「でも辞めるんでしょ?」

「ああ。だが、もうちょい先だ。少なくともお前達との契約はちゃんとやるよ」


彼女達とは九月末までパワレベをする約束をしているし、九月末にはテストもある。


俺が抜けても全く問題ないくらいには彼女達もパワレベをしているが、まあ流石にこのタイミングで抜けるのはよくない。


契約は契約だ。

怪我をしたとかならともかく、金が貯まったから一方的に破棄するのは不義理だろう。


「そう、それはよかったわ」

「ああ。……まあまだ早いが迷宮探索頑張れよ。30後半の魔物であれだ。お前らの夢がどんだけ難しいか、俺もちょっとは分かったから、応援するよ」


富士迷宮の何層でキマイラが出るのかは分からないが、30後半であの強さと厄介さだ。


しかも、彼女達の夢であるエルフの住む国とやらに行くには、あと10層以上ある。


リヤンの動画に出ていた、雨のように魔法を撃ってくるドラゴンも、今考えると相当やばい魔物達だ。


彼女達が追いかける夢の途中には、そのレベルの魔物が待ち構えているのだ。


正直厳しいと思う。


だが、本人達が強い意志でやると言うのであれば、俺は応援しよう。


「はぁ、応援するくらいなら一緒に迷宮に潜って欲しいんだけど」

「それはない。悪いな」

「そう。お風呂借りるわね」

「ああ」


そう言って背後の如月はお風呂場に入ろうとする。そんな如月の後ろ姿に声をかける。


「ただ……」

「……?何よ?」

「どうしようもなくなったら呼べよ。その時くらいは力を貸してやるから」

「……」


一応ここまで関わったよしみだ。どうしようもなくなったら力を貸すくらいは別に構わない。多分、これからずっと暇な人生を送るだろうし。


「……あんた、本当にずるいわよ」

「え?」


何が?


疑問に思って俺が振り返るのと、如月が脱衣所のドアを閉めるのは一緒だった。


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