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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第百二話 決着

自身の魔法を真っ二つに切られて憤慨したのか、キマイラは俺に向かって走り出す。


「メェェェェェェ!」


俺に走ってきながらもヤギの頭が魔法を放つ。

だが、花園の魔法によってステータスが上昇した俺の目にはもはや余裕で見切れる速度の攻撃だ。


木々の間を速度を緩めることなく突進し、キマイラとの距離を詰める。


「メェェェェェェ!」


だが、それを見たキマイラは一度止まり、ヤギの頭が魔法を打ち消す。


「あ?」

「メェェェェェェ!」


そして再度魔法を発動する。


「メェェェェェェ!」


二度目に鳴いた瞬間、俺の目の前が真っ暗に染まる。


この魔法なら俺も知っている。


闇魔法レベル3、ダークネス。


座標指定の闇魔法で、当たると体にまとわりついて効果が切れるまで継続ダメージを与える魔法。


知っているなら対処も容易い。


即座に木の上に飛び上がり、ダークネスの効果の範囲外に周りこみながらキマイラに突撃を再開する。


「ガォォォォォオオオ!」


キマイラの頭である獅子が牙を剥き出しにしながら叫ぶ。

どうやら俺を待ち構え迎撃するようだ。


キマイラの首は三つ。


獅子、ヤギ、ヘビ。


真っ先に落とさなければいけない首は決まってる。


ダークネスの範囲外の地面に降りた俺は、速度を一切落とさないまま、キマイラに突撃する。


「ガォォォォォオオオ!」


キマイラと俺の距離は僅か数メートルとなる。


再度ヘビーメタルソードを両手で強く握り、突撃する。


キマイラも上半身を上げ、俺に渾身の爪を振り下ろす。


その爪の振り下ろしを紙一重で避け、キマイラの横腹を蹴り登り、上に飛び出すのと同時にヤギ頭の首を斬る。


そのまま空に飛び上がり、木の枝の上に着地する。


同時にドッという重い音と共に転がるヤギの頭。


「メ……」


何かヤギの頭が鳴こうとしたが、そのまま黒いモヤとなって消えていく。


キマイラのヤギの頭があった部分からは血を流すだけで何も出てこない。やはりキマイラ自身が生きていても、切り離された頭は再生はしないようだ。


これでキマイラは魔法が使えない。


一番厄介な、移動しながら高威力の魔法を放ってくるヤギの頭が消えた。


これで少しは楽になるはずだ。


そう思っていた。


俺は一つ忘れていたことがある。

この階層に出ていたマンティコアとは一体何だったのか、と。


本来であれば一体しか出ないはずのイレギュラーモンスターが何故複数体出ていたのか。


「ガォォォォォオオオオオオオオ!」


今までの獅子の叫びと違う、肌をピリつかせるほどの長い雄叫び。


「あ?」


一体なんだ。


そんな俺の呟きに答えるように、キマイラの周囲に魔法陣のようなものが浮かび上がった。


さらに、その中から四体のマンティコアがゆっくりと歩き出してくる。


「おいおい……冗談だろ」


召喚魔法か召喚術か。何かは分からないが、マンティコアが四体、その気味の悪い顔をニタニタと歪ませながら俺を見つめる。


幻覚ではないだろう。


魔法の分野はヤギの頭の専売特許だと思っていたが、この階層に出現させていたのはこのキマイラの獅子頭だったようだ。


「オイオイ!ジョウダンダロ!」


マンティコアは早速俺の言葉を真似たようだ。

だが、続けて四体のマンティコアの口が開き、叫ぶ。


「「「「ヘルサンダー」」」」


四体のマンティコアの口から放たれたヘルサンダーが、先ほどのヤギの頭が放った闇魔法以上の威力で俺に向かってくる。


即座に枝から枝に飛び移るが、マンティコア達は絶え間なくヘルサンダーを飛ばしてくる。


マンティコアと今の俺は、一対一なら正面からでも一瞬で倒せるだけの差がある。


しかし、そこに獅子の頭とヘビの尻尾が残っているキマイラが油断なく俺を見ている。


このヘルサンダーの雨をかい潜りながら、キマイラにダメージを与えるのは至難の業だろう。


だが、やるしかない。


バフの時間は限られており、下がった通常ステータスではマンティコア四体とキマイラの攻撃を交わし切れないのだから。時間はかけられないのだ。


乗っていた木の枝をヘルサンダーで消し飛ばされる前に地面に降りると、そのまま足に力を込め、真っ直ぐ突き進む。


「「「「ヘルサンダー」」」」


地面に降りた俺を見て、マンティコア四体が息を揃えてヘルサンダーを放ってくる。


それをかわしたり切り落としたり軌道を変えたりしながら足を緩めずに突撃する。


「ガォォォォオオオオオオオ」


キマイラが叫ぶと、ヘルサンダーを止め、マンティコアが隊列を組み飛び出してくる。


「オイオイ!」

「ジョウダンダロ!」


そう叫び、蠍の尾の尻尾を振りかざしながら飛び出してきた二体のマンティコアの胴体を瞬きの間に斬り落とす。


「「ヘルサンダー」」


そのタイミングで二本のヘルサンダーが飛んでくる。間近で撃たれたこれは避けれない。


二本のヘルサンダーのうち一本を斬り落とす。しかし、もう一本が俺の足に当たる。


「ぐう……」


痛みと痺れで小さく呻く。だがそれだけ。元々高い防御力と、花園のバフのアンチマジックギフトによって魔法防御力も上がっている。


そこそこの痛みであるが、動けないほどではない。


「ガォォォォオオオオオ!」


足が止まった隙を狙ったのか、キマイラが前に飛び出し、その大きな爪を俺に振り下ろしてくる。

それをかわし、股下をくぐって股間に到達すると、そのまま身体を回転させて、蛇の尻尾を根本から断ち切る。


「シャアアアアア!」


切り離されたヘビ頭の尻尾は、クネクネと空中でもがきながら地面に落ち、黒いモヤとなって消えていく。


これで残りは獅子頭のみ。


時間は与えない。キマイラの背後に回った俺は即座に反転し、そのまま走る。


キマイラを守る様にマンティコア二体が前に出てくるが、即座に反転した俺を見て、慌てて距離を取る。


「オイオイ!」

「ジョウダンダロ!ジョウダンダロ!」


二手に分かれて飛んだマンティコアのうち一体に飛び掛かり、何かする前にその顔面を真横に切る。


「ヘルサンダー」


背後のマンティコアがヘルサンダーを放ってくるのを振り返るのと同時にヘビーメタルソードを振って切る。


そしてそのままの踏ん張ると、更に足に力を入れてヘルサンダーを撃った最後の一匹のマンティコアを切りに走る。


マンティコアはサッと回避しようとするが、その隙すら与えずにマンティコアを一閃する。


さあ、あとは最後の一匹、獅子の頭だけとなったキマイラだけだ。


再度マンティコアを召喚される前に殺す。


そう思って振り返った先には、キマイラがいなかった。


「あ?」


いや、いた。


キマイラは遠くに根本から尻尾を切られた黒いお尻をフリフリしながら木々をかき分けて走っていた。


まさかの逃走である。


「逃がさねぇよ」


俺は走ってそれを追う。


キマイラの足は決して遅くはない。

速さの源である四本の力強い足は健在だし、ヤギと蛇が消えた分、体重も軽くもなっている。


それでも花園のバフに赤崎の高いステータスと剣聖バフがついた俺に追い付けない速さではない。


土の上に大きくはみ出した木の根や、不定形な足場をものともしない速度でキマイラの前に回り込む。


「ガ、ガルルル……」


キマイラは、前に回り込んだ俺を見て低い唸り声を上げるが、マンティコアを呼び出した時のような力強さは全くない。


そのあまりに弱々しい唸り声は、まるで自分のこれからの運命が分かっているかのようだった。


俺はヘビーメタルソードを片手に一歩前に出る。


それに合わせてキマイラが一歩後ろに下がる。


「ガルル……」


また一歩俺が前に出ると、またキマイラが一歩後ろに下がる。

キマイラは完全に逃げ腰だ。


しかし、容赦する気はない。


それが伝わったのか、キマイラも下がるのを止め前屈みになる。


「ガォォォォ!」


キマイラがそう叫び、右足を挙げるのと同時に俺も走り出し、その足が振り下ろされる前にキマイラの後ろに到着する。


「カッ……」


獅子の首がぼとりと落ち、キマイラの大きな身体が地面に倒れ、黒いモヤとなって消えていく。


ボトボトという音が背後から二回聞こえた。恐らく、魔石と何かドロップアイテムが出たのだろう。


「はぁ、やっと終わった」


それを見て、ため息を吐きながら近付いていく。


後に残っていたのは二つの丸い物体。


一つは、シーサーペントの魔石よりも更に強く輝くキマイラの魔石。

キラキラとした半透明の魔石の中央には、まるで渦巻くように形を変える魔力が見て取れた。中に封じられている魔力はとてつもないもので売ればひと財産になるだろう。


だが、今はそんなことどうでもいい。


もう一つ。


写真で見たが直接見たことはない、俺が喉から手が出るほど欲しかったもの。


俺はこれを一度写真で見たことがある。忘れるはずがない。それ程の衝撃があったのだから。


楕円形の深緑色の物体。


魔物の卵だった。


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