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迷宮学園の落第生  作者: 桐地栄人


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第百一話 親玉

それから再度ステータスを赤崎に変更して、さらに二体のマンティコアを狩った。


どちらも不意打ちで一瞬で首を落とした為戦闘になっていない。


マンティコアは目が前についており、耳が人間の形であるが故に、不意打ちにめちゃくちゃ弱いことが二回目のマンティコア戦で分かっていた。


特に別の何かに集中していると、認識外への注意が散漫になる。


一瞬で近づき、一瞬で殺せば恐るるに足らない魔物だ。


木々の間をかけていく。


空を見上げると赤い煙が一つだけ立ち昇っていた。あれが最後の一つだ。


「どんだけいんだよ……ったく」


そんな悪態をつきながら全力で走る。


だが、俺は走る途中でその足を止める事になった。それは木に何かぶら下がっているのが見えたからだ。


「……?」


最初は何かの人形に見えた。

しかし、さらに近づくと、装備を着た男だと分かる。


「あ?」


俺は男を近くで見ようと、木の枝に駆け登る。

そして、その木の枝から装備を着た男を抱えて地面に降りる。

同時にどしゃりと落ちた血の塊を見て察するが、このまま木にぶら下げているわけにもいかないだろう。


男の腰を掴んで持ち上げ、一緒に出来るだけ軽やかに地面に降り立つ。そして、うつ伏せのその男を仰向けにした時、思わず顔を顰めてしまう。


「うわぁこれはひどいな」


顔から見てBパーティーではない。恐らくは一般探索者だろう。


その表情は恐怖で固まっており、胸元は一目見ただけで分かるほどに凹んでいる。


つまりは、この階層に来れるほどの探索者の胸をここまで凹ます程の威力のある攻撃で、探索者をここまで吹き飛ばした魔物がいるということだ。


「うーん、どうしようか」


一応脈を取ってみるが、当然死んでいる。


遺体をどうすればいいのか。遺体丸ごと回収してそれを背負いながらマンティコアと戦うのは流石に難しい。


とはいえ、放置もまずいだろう。


こういう時どうすればいいんだっけ。


確か授業で習ったはずだったのだが、俺には関係ないとまともに聞いていなかった。


そんな困った時の星空だ。


すぐさまポケットからスマホを取り出し、星空に電話をする。


「もしもし、星空か?」

『ワン君!?無事なの!?』


星空に電話をかけるとすぐ様耳元から大声がしてくる。


「うるせぇ、そんなでかい声出さなくても聞こえるよ」

『ご、ごめん。……じゃなくて、マンティコア出たって聞いたけど大丈夫なの?』

「ああ。結構強かったぞ。そんなことよりも一つ聞きたいことがあるんだが」

『倒しちゃったんだ……ええっと、何かな?』

「人が死んでたのを発見したらどうすればいいんだ?」

『え!?』


星空の驚きの声がスマホから漏れる。そこから何も言わなくなってしまったので、俺は続きを話す。


「マンティコア狩ってたら人が死んでたんだ。これ、どうすればいいんだ?」

『え、ええっと……一人?それとも複数、かな?』

「今のところ一人だ」

『それならええっと……出来る限り遺体を回収する必要があるんだけど、今ワン君、時間ある?』

「いや、救援信号で助けを求めてる人がまだいてそこに向かう途中だった」

『ええっ!じゃあそっち優先しないと!』

「でも離れたら多分もう帰って来れないぞ、俺」

『ああっと……なら、その人が持ってる探索者用の機械で救援信号送って』

「分かった」


星空の指示通り、その遺体の男が腕につけていたスマートウォッチを操作して、救援信号を出す。


『あとは一応、毛髪だけ少し取ればあとはそのままで大丈夫!』

「了解。助かった」


なるほど、毛髪を取るだけでいいのか。

とりあえず俺の用件は終わった。


「じゃあな」

『あっ!ワン君!ちょっと……!』


スマホから何か聞こえたが、重要なことなら後で聞けばいいだろう。一先ずは毛髪だ。


俺はヘビーメタルソードを取り出し、遺体の髪を少し取り、ハンカチに包んで魔石が入ってる袋に詰める。


「これでいいだろう」


改めて赤い煙の元に走り出す。

だが、走っている最中に二度ほど遺体を見つけ、先程の男と同じように対応する。


一人は身体が千切れており、もう一人は体が溶けていた。


同じパーティーなのかは分からないが、身体の凹み具合や、傷口から見ても明らかにマンティコアの仕業ではない。


もっと大きな魔物の仕業。


しかも、恐らくマンティコアよりも強い魔物だ。


それならマンティコアは一体何なのか。まさか複数階層の魔物がこの14層に来るようなダブルブッキングでもしたのだろうか。


考え事をしながらも先を急ぐ。


その時、ふっと圧を感じて足を止める。身体中の毛がふわっと逆立つ感覚に違和感を感じながらヘビーメタルソードを抜く。


「あ?」


次の瞬間、進行方向から真っ黒な渦が木々を薙ぎ倒したながら飛んできた。


「あっぶねっ!」


そう叫びながら横に飛び出す。


後ろを振り返ると、真っ黒い渦が木々を薙ぎ払いながら飛んで行った。


「あぶねー。何だこの魔法。闇魔法か?それにしたって威力がバグってんだろうが」


圧を感じて警戒していたおかげで何とか避けれたが、俺の脚のすぐ先の地面を抉るように飛んで行った魔法に戦慄する。


そう考え一つの結論に達する。


「よし逃げよう」


うん、無理。


恐らくはレベル4の魔法。しかも、威力がおかしい。


俺は即座に逃走フェイズに入ろうと背中を見せるが、ドドドという音が聞こえてきて、振り返る。


「ギャォオオオオ!!」


何か来る。


「ライオン……、いやヤギか?」


獅子の頭とその上にはヤギが頭がある。どちらが本体かは分からないが、どうやら俺は既に捕捉されているらしい。


「メェェェェェェ!」


俺を視認した背中のヤギが叫ぶように鳴く。

すると、ヤギの口に魔力が宿っていき、それが黒い塊となっていく。


先程の魔法はこのヤギが放ったようだ。


「メェェェェェェ!」


再度鳴いたヤギの口から魔法飛んでくる。俺は即座に脚に力を入れ、真横に走る。


「ガォォォォォォォ!」


真横に避けた俺に向かって獅子が吠えながら走ってくる。


ヤギが魔法を使っていても獅子は問題なく走りれるようだ。


魔法攻撃をヤギが、物理攻撃を獅子が担当しているのだろう。


「メェェェェェェ!」

「ガォォォォ!」


獅子が俺に近づいてその大きな爪を振るう。

それを避けた先にヤギが魔法攻撃をしてくる。


それをさらに避け、背後をとって攻撃しようとした瞬間、何か飛んでくる。


「尻尾、じゃねぇ!蛇か!」


蛇の頭突きを剣で防ぐが、吹き飛ばされてしまう。


即座に立ち上がり、改めてその風貌を見る。


頭と上半身は獅子、背中と下半身がヤギ、尻尾は蛇。


こいつも俺は見たことがある。


「キマイラか……」


ギリシャ神話に出てくる魔物で、ゲームや漫画など二次元作品の多くに登場する怪物だ。


「メェェェェェェ!」


ヤギが叫び、その口元にまた真っ黒な球が出来る。


魔法が来る。


だが、獅子が常に移動しており、魔法の放つ瞬間、軌道がめちゃくちゃ読みづらくなっている。


「マジで何層の魔物だよ、この野郎」


それならばこちらは脚で的を絞らせない。

剣聖の強みはどんな足場でも脚を鈍らせないこと。


飛ぶように地面を掛け続け、飛んでくる魔法を回避する。


「当たったらこれは死ねるな」


木々の間をかけながら抉れた地面を見て呟く。


出来るならば逃げたい。しかし、もはや逃げられない。


脚は俺の方が速いが、逃げれば背後から魔法を放たれ続けながら背を追われることになる。

そうなれば最悪無関係の人間を巻き込むし、移動しながら魔法を放てるキマイラ相手に、背後から飛んでくる魔法をいつまで避け続けられるかは分からない。


「なら、活路は前にしかないな」


本当に嫌になる。


こんな明らかな格上相手に準備もろくにせずタイマンで戦うことになるとは。


先程、相園のスキルを花園に変更したことも仇となっている。

相園の魔法があれば、キマイラから逃げながら魔法を放ち続けるということが出来たのだ。しかみ、俺は花園の持っているスキルで使用出来る魔法を全く知らない。


花園曰く、花園のスキルはバフ、デバフ特化らしいのだが、どちらも何も聞いていない。


俺が知っている花園の魔法は先程聞いたハイヒールとロストポイズンだけ。


現状、使い道ゼロである。


キマイラと戦闘していて気付いた点の一つとして、このキマイラは前を獅子が、横をヤギが、後ろを蛇が守っているため、360度全ての方向に対して隙が全くない。


どの方向から攻撃しようにも、不意打ちが出来ず、視認され待ち構えられてしまうのだ。


速度は俺の方が速いが、キマイラが認識出来ない速度ではない。現状のステータスで近づけば、三つの首のどれかと相打ちになるのが関の山だろう。


せめて花園のバフくらい聞いておけばよかった。

急いでいた事もあり、花園からは何も聞かずに飛び出してしまったことを後悔する。


だが、ふと頭に何かがよぎる。


「いや、知っている」


忘れていた。そうだ。俺は花園が使うバフスキルを知っているんだった。


何せすぐそばで聞いたんだからな。


この階層での勝負が始まる直前、花園は味方に対してバフをかけていた。


俺には関係ないと無視していたが、すぐそばだった為、いやでも俺の耳に入った。


まさか俺が唱えることになるとは。


俺は一旦木の上に避難する。その俺を追ってヤギの頭が魔法を放ってくるが、まるで忍者のように枝から枝に飛び移り避け続ける。


一分、いや三十秒でいい。時間が欲しい。


ステータスを俺に、スキルを花園にし、バフをかけて、両方を赤崎に戻すだけの時間が。


しかし、赤崎のステータスに剣聖バフを足してもそれだけの距離を保つのは難しい。

姿をくらませようにも、恐らく尻尾の蛇が熱感知機能のあるピット器官を備えているだろう。


逃げるのも隠れるのもダメ。


そんな中で時間を稼ぐ方法。


「クソッタレが……」


思わず悪態を吐く。


思いついたのだ。思いついてしまったのだ。キマイラから距離を取る方法を。


だが、これは俺にとっても大きな痛みの伴うもので、出来ることならやりたくない。


しかし、状況がそれを許さない。


「ったく。仕方ねぇなぁ」


それなら覚悟を決めしかない。


ベビーメタルソードを鞘に入れ、足に力をこめる。


「メェェェェェェ!」


再度ヤギの頭が鳴き、魔法を放つ瞬間、俺は木々の間から空中に姿を現す。


俺とキマイラの間にはもはや何の障害物もない状況。

空中に身を投げ出すように飛び出した俺は、キマイラにとって格好の的だろう。


「メェェェェェェ!」


ヤギの頭が再度大きく鳴き、闇魔法が俺に飛んでくる。

俺はその闇魔法を交差した腕と丸めた身体で受ける。


直撃である。


「ぐうぅぅぅぅぅう!!」


身体全体が軋む感覚と巨大なハンマーで殴られたような痛みが腕と脚に入る。

身体を丸めてお腹はガードしたつもりなのだが、手足とジャージの防御を通り越して腹にも衝撃が走る。


その痛みが一瞬ではなく数秒の間、継続的な痛みと共に背後に飛んでいく。


最初にあった遺体、あれはきっとキマイラの闇魔法で弾き飛ばされたのだろう。視認された外からでも木々を薙ぎ倒しながら貫く貫通力がこの闇魔法にはある。


だが今はそれを利用して距離が取れる。つまりは時間が稼げるのだ。


身体全体が軋み、腕や足、腹と全身が痛む中、空中に浮いたままスキルを唱える。


選択(セレクト)


[小鳥遊翔/レベル35][選択:赤崎研磨]

[覚醒度:42%]

物理攻撃力 43

魔法攻撃力 23

防御力 48

敏捷性 46

[スキル][選択:赤崎研磨]

剣術 レベル3

剣聖 レベル1

物理攻撃力増加 レベル3

敏捷性増加 レベル3


表示されたステータスを変更し、ステータスを俺に、スキルを花園に変更する。


[小鳥遊翔/レベル19][選択:小鳥遊翔]

[覚醒度:65%]

物理攻撃力 38

魔法攻撃力 43

防御力 35

敏捷性 34

[スキル][選択:花園千草]

信仰魔法 レベル2

補助魔法 レベル2

魔法強化 レベル2

魔法抵抗力上昇 レベル1

魔力上昇率増加 レベル1


変更完了。


「ハイヒール!」


地面に到達し、受け身をとって立ち上がり、即座に回復魔法を唱え、自身の傷を完治させる。

次に朝に聞いた支援魔法を唱える。


「アクセルギフト、メタルギフト、ストレングスギフト、アンチマジックギフト」


これで魔法攻撃力以外の全てとステータスが上昇し、魔法に対する耐性も上がった。


選択(セレクト)


そう呟き、再度ステータスとスキルの両方を赤崎へと変更する。


バフはステータスを変更しても消えていない。


「メェェェェェェ!」


正面の木々の間から小さく見えるキマイラのヤギの頭から再度魔法が放たれる。


それをヘビーメタルソードを鞘から抜いて切る。


放たれた魔法が真っ二つに切れて俺の背後の木々を薙ぎ倒していく。


さてと。


「第二ラウンド始めようか」


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