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【書籍発売中!】ぷちっとキレた令嬢パトリシアは人生を謳歌することにした  作者: あまNatu
第三章

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諦めない心

「皆さま、おはようございます。クライヴ様、本日もよろしくお願いいたしますわ」


「……おはようございます」


「…………お前なぁ」


 どうやら本当に諦めてないらしい。

 寮の一階、いつもみんなで合流するところにセシリーがいた。

 彼女はクライヴを見つけるとぱあっと表情を明るくし、すぐに駆け寄ってきた。


「わたくし諦めませんと申しましたわ。クライヴ様もお聞きになられましたよね?」


「……そうですね」


 渋々といった様子ながら、クライヴは彼女とのやりとりを続ける。

 セシリーはそんなクライヴの腕にくるりと抱きついた。


「では皆さま、学園へ向かいましょう」


「だーから! お前はすぐそうやって!」


「あら、ハイネさんにどうこう言われる筋合いはないと以前もお伝えしましたが?」


「いいからクライヴから離れろ!」


「どっちも離れろ!」


 まるでセシリーに対抗するかのようにクライヴの反対側の腕に抱きついたハイネ。

 さらにそれに対抗するかのようにもっとセシリーが腕に力を込めると、いい加減にしろとクライヴが二人を振り払う。

 そんなやりとりを後ろで見ながら、シェリーが呆れた顔をする。


「このやりとり何回見る羽目になるのやら……」


「あはは……」


 しばらくはこんな感じなんだろうなと思いつつ、パトリシアはちらりとハイネを見た。

 彼は大丈夫だろうか?

 どことなく顔色が悪い気がして、そっと後ろから声をかけた。


「あの、ハイネ様。体調は大丈夫ですか?」


「――、大丈夫ですよ。全然!」


 空元気、というやつなのだろう。

 彼のことだからきっと、クライヴに迷惑をかけていると思っていろいろ気を揉んでいるのだ。

 別にハイネのせいではないのだが、彼の性格的に気にしないという選択肢はないのだろう。

 どうにか気を紛らわせられないだろうかと考えていると、騒動から目を背けていたシェリーがあっと声を上げた。


「そういえばそろそろテストじゃない? また勉強会する?」


「うげぇ、そうじゃん……。テスト嫌いなんだよなぁ」


「だからこその勉強会でしょ」


「まあ教えてもらえるのなら喜んで」


 じゃあいつも通り四人で勉強会だとうきうきしていると、それを聞いていたらしいセシリーがパトリシアよりもうきうきした瞳を向けてきた。


「まあ! お勉強会ですか? もしよろしければわたくしもご一緒したいのですがダメでしょうか?」


「はあ? ダメに決まってるだろ!」


「ハイネさんには聞いておりませんわ。わたくしここにきたばかりでテストの範囲やこの国の歴史などがわからなくて……。教えていただけたら嬉しいのですが……」


 まあ確かに留学生ならこの国の歴史には疎いだろう。

 ハイネは王太子として他国の歴史を軽く学ぶことはあれど、彼女はそうではないはずだ。

 さらには留学してすぐでは、テスト範囲もわからないだろう。

 彼女の不安はわかるがそれではハイネの心労を気遣えない。

 どうしようかとハイネのほうを見れば、彼は大きなため息をついた。


「クライヴ。いいか?」


「……好きにしろ」


「…………絶対、迷惑かけるなよ」


「もちろんですわ。クライヴ様、たくさん教えてくださいませ」


「パティが学年一位だから勉強なら彼女から教えてもらったほうがいいよ」


「――パティ?」


「あ、私のことです」


 そっと手を上げれば、彼女の視線がこちらへと向けられる。

 すぐに気づいたように手を叩き、にっこりと微笑んできた。


「まあ! パトリシア様はお勉強もできますのね。もしよろしければお教え願えないでしょうか?」


「私でよろしければ」


 クライヴとハイネがいいというのなら、こちらが拒否する理由はない。

 こくりと頷けば、セシリーは嬉しそうに頰を赤らめた。


「わたくし、友人とお勉強するのははじめてですわ。とっても楽しみです。いつやりますの? 今からですか!?」


「今からは学園があるだろ。やるとしても今日の放課後だ」


「では今日の放課後! 楽しみにしておりますわ」


 日程が決まったらしい。

 本当に楽しみなのだろう。

 セシリーは鼻歌を歌いながらクライヴの元へと向かうと、彼の隣を歩く。

 その姿を後ろから見ていると、ハイネがそっと声をかけてきた。


「すいません。パトリシア嬢にご迷惑をおかけして……。嫌なら嫌って言ってくださいね」


「……ハイネ様はやはりお優しいのですね」


「え?」


「だって、なんだかんだと言いながらセシリー様のことを気遣っていらっしゃるじゃないですか」


 勉強会を許可したのだって彼女が一人で悩まないようにという配慮だろうし、なんだかんだ言いながらもこうして一緒にいるのはそういうことだろう。

 だからそう伝えたのだが、ハイネはどことなく気まずげに頰をかいた。


「……パトリシア嬢は変なところ鋭いですよね」


「それって褒めてます?」


「褒めてますよ。そういうところとっても素敵ですよ」


「…………ありがとうございます」


 褒められて嬉しいようななんとなく気恥ずかしいような、そんな気持ちでお礼を言えば彼は楽しそうに笑う。

 相変わらず口がうまいな、とあまり深く考えないことにした。

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