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【書籍発売中!】ぷちっとキレた令嬢パトリシアは人生を謳歌することにした  作者: あまNatu
第二章

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なんだかすごい人

「よし、一旦帰ろうか」

 

「……早くない?」

 

「これ以上いてもどうにもできないし。なら早く帰って進めたほうがいい」

 

 確かに土地そのものは広くても、村自体はこぢんまりとしているため、全部を見て回るのに半日もかからない。

 これ以上ここでできることはなく、今日一日だけ泊まって明日には帰ることとなった。

 シェリーも葡萄畑の管理をしている移民と話が出来て満足したようだし、パトリシアもやれることは帰ってからしかない。

 まさかのたった二日で終わってしまったのは悲しかったけれど、これからもちょくちょく来ることにはなるだろうと残念がる自分に言い聞かせた。

 

「んで、あんたはなにか収穫はあったわけ?」

 

「そりゃもちろん。本物の騎士って存在を肌で感じられたんだ。いろいろ学べたさ。……それに」

 

 ちらり、とクロウの視線がパトリシアへと向けられる。

 何事かと不思議そうに見返せば、彼は穏やかに微笑んだ。

 

「専属の騎士のあり方、よくわかった気がする」

 

「ふーん? ま、みんななにかしら得られたのならいい旅だったわね」

 

「ええ」

 

 皆が皆、今回の旅に満足できたのならよかった。

 これからやることは多いだろうが、きっとやる気に溢れていることだろう。

 そんなことを思いながら眠りにつき、次の日の朝、パトリシアたちは村を立ち去った。

 

「フレンティア様。救っていただいただけでなく、この村のことも考えてくださって本当にありがとうございます。この御恩は必ず、必ずお返しいたしますので」

 

「……ありがとうございます。もしいつかその時がきたら、よろしくお願いしますね」

 

 もちろんそんなことは起こらないだろうけれど、彼らの心遣いが嬉しくてそんな約束をした。

 馬車はゆっくりと動き出し、パトリシアたちは学園へと向かう。

 

「ひとまず帰ったらクライヴ殿下待ちか」

 

「……前々から思ってたけど、なんで俺には殿下をつけるんだ? ハイネはハイネだろ?」

 

「自国の皇子を呼び捨てはちょっと……」

 

「あんたって呼ぶのにか?」

 

「それはそれ」

 

 ぶすっとクライヴが顔を歪めたがシェリーは譲らず。

 空気が悪くなりそうだったので慌てて話題を変えることにした。

 

「そういえばハイネ様は大丈夫でしょうか?」

 

「問題がーとか言ってたけど、なにがあったのかしらね?」

 

「さあな。そこまで慌ててはなかったから、国がらみではないんだろう。個人的なことだと……可能性が高いのは婚約者関係とかかもな」

 

 そういえばクロエが言っていたなと記憶を探る。

 確か名前はセシリーだったはずだ。

 

「クライヴ様はハイネ様の婚約者……セシリー様? にお会いしたことありますか?」

 

「…………………………ある」

 

 長い沈黙だった。

 その時のことを思い出しているのか、彼はどこか気まずげに瞳を閉じると口をへの字に曲げる。

 

「アヴァロンの聖女って呼ばれてるんだよ。あの国は神への信仰心が高いから教皇がかなり力を持っていて、その娘を神の愛子、なんていって神聖化してるんだ」

 

「お話は聞いたことがあります。なんでも人を癒す力があるとか……」

 

「え、癒すってなに? 傷でも治せるっていうの?」

 

「まさか。彼女は普通の人間だ。癒すってのは心をってことで、つまるところ信者たちの信仰心の象徴みたいなものってこと」

 

 ハイネの婚約者は、アヴァロンで絶大な人気を誇る人、ということはわかった。

 だがしかし、それでクライヴがこんな顔をする意味がわからない。

 同じことを思ったのか、先にシェリーが疑問を投げかけた。

 

「ハイネの婚約者がどんな人なのかはわかったけど、なんでそんな嫌そうな顔してるの?」

 

「んー……なんというか…………。得意じゃないとだけ言っておく」

 

 どういうことなのだろうかと、シェリーと顔を見合わせる。

 クライヴはそれ以上言うつもりがないらしく、そっぽを向いてしまう。

 

「……なんかすごい人っぽい?」

 

「……そうみたいですね」

 

 あのクライヴがそこまでいうのだから、彼女はなにかあるのだろう。

 とはいえ相手はアヴァロンの王太子妃候補であり、聖女と名高い存在。

 そうそう会うことはないだろう。

 特に今のパトリシアには、そんな機会が訪れるとは思えない。

 

「ま、私が会えるような存在じゃないだろうし関係ないか」

 

 シェリーの言葉に頷いた。

 もし仮にハイネとセシリーが結婚するとなり、友人のよしみで招待されたら、結婚式で姿を拝見することもあるかもしれない。

 それでも遠目で言葉を交わすことはないだろうから、やはり関係ないなと話を終わらせた。

 

「そういえば葡萄畑の件なんだけど……」

 

 結局その後、会話はあの国境付近の村の話になってしまい、アヴァロンの聖女の話題は記憶の隅へと追いやられていた。

 だから驚いたのだ。

 まさかその件の人物と、あんな形で会うことになろうとは――。

 

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