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【書籍発売中!】ぷちっとキレた令嬢パトリシアは人生を謳歌することにした  作者: あまNatu
第二章

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暗闇の中の道を

「え、提案書もうできたの?」

 

「はい! シェリーとセシル卿と一緒に頑張りました!」

 

 なかなかの出来ではないだろうかと若干胸を張りつつクライヴにて渡せば、彼は受け取った書類をじっと見つめる。

 実際にやるとしたらどれくらいの人員が必要で、この設備が必要になるため、初期費用はこれくらい。

 つくれる量はこの程度を予測しており、利益を得るためにはこの値段で販売する。

 値段設定からターゲット層までをきちんと書き、なかなかいい提案書になったのではとパトリシアは口角を上げた。

 しばらくは書類読みに時間がかかるだろうからと、パトリシアはシェリーとセシル卿へと視線を向ける。

 

「お二人のおかげで素晴らしいものができました。本当にありがとうございます」

 

「いえ。お役に立てたのならなによりです」

 

「……」

 

「シェリー?」

 

 パトリシアからの呼びかけにハッとした様子のシェリーは、少しだけ照れ臭そうに笑う。

 

「ごめんごめん。……なんかさ、楽しかったから。こうやってお互いの意見言い合って、よりいい方にって考えるの」

 

「……そうですね。私も楽しかったです」

 

 昔からよくやっていたことではあったけれど、その時は一人だった。

 一人で考えて必要な書類を読んで悩んで。

 確かにその時も楽しかったけれど、自分の意見を聞いて吟味して否定してくれる存在はとてもありがたいと思った。

 

「……またやってみたいなって思っちゃった。無理なのはわかってるんだけどね! こういうのは男性の仕事だし」

 

「…………」

 

 そう、こういった仕事は男性のものだ。

 実際に皇宮でおこなわれる話し合いに、女性はいない。

 本当ならパトリシアだって入ることは許されないはずだ。

 それを皇帝の許しを得ておこなっていたのだから、今思えば相当な特別待遇だった。

 パトリシアの能力を買い、あの場にいさせてくれた皇帝には感謝しかない。

 特別な体験だったことは理解している。

 けれどだからこそ思ってしまう。

 あれが、当たり前になったらいいのに。

 パトリシアにしかわからないことがあるように、シェリーにしかわからないことがある。

 同じように女性にしかわからないこともたくさんあるはずだ。

 ……そう、あるはずなのだ。

 

「…………あ、」

 

「パティ?」

 

 パトリシアはそっと窓越しに空を見つめる。

 いつのまにか暗くなっていた外は、濃紺が広がっている。

 それを見て、少しだけ気づけたのだ。

 

「……まだわからないのです。どうしたらいいか。けれどなにか、道ができた気がします」

 

「夢の話?」

 

 パトリシアの話を聞いていたのか、書類から顔を上げたクライヴと目が合う。

 どうしてわかったのだろうかと驚いていると、彼は書類を机に置いた。

 

「これ父上に渡してみるよ」

 

「え、」

 

「三人がよければ、だけど。父上に渡して許可もらうのが一番早いし」

 

「そりゃそうだろうけど……そんな簡単な話でいいの?」

 

「皇子なんて便利な立場、有効活用するべきだろ」

 

 そうかもしれないが、まさかの国で一番偉い人にこの話が通るなんて、とシェリーはあんぐりしていた。

 クライヴはそんな様子を見ながらも、申し訳なさそうに眉を下げる。

 

「まあ、俺から出すから俺の手柄的なことになっちゃうけど」

 

「そこは構わないわ。元々私たち手柄欲しさにやってないし」

 

 いろいろな人を通せばそれだけ時間がかかってしまう。

 ならばクライヴからの案として皇帝に出せれば、それだけ素早くことを起こせるはずだ。

 

「じゃあこの件は一旦俺が持ち帰る。……で、さっきの話だけどパティはなにかわかった感じ?」

 

「……具体的なものはないのですが、なんというか……。道ができた気がします」

 

「道?」

 

 どうしたらいいのか、どうなるべきなのか。

 明確なものはないけれど、進むべき道はできた気がするのだ。

 

「はい。自分はまだ暗闇にいるんですけど、道だけはできているんです。だからそこを進めばいい。……今は、そう思います」

 

 今までは暗闇の中を当てもなくさまよっていた。

 どこを向けばいいのか、どちらに足を進めていいのかなにもわからなくて。

 けれど進まなくてはいけないことだけはわかっていた。

 だから突き進んだ。

 それが今、足元に道ができたのだ。

 未だ周りは真っ暗だけれど、進むべき方向はわかった。

 そんな気がするのだ。

 

「……よくわかんないけど、いい感じってこと?」

 

「はい。とても」

 

「そっか! パティがいい感じならそれでよし!」

 

 自分でも深く理解できていないものを説明するのは難しく、ふんわりとした伝え方をしたのにそれでもシェリーは納得してくれる。

 その優しさに感謝していると、クライヴもまたパトリシアに向かって微笑みを向けた。

 

「ここにきたこと、少しはパティにとってプラスになれたのかな?」

 

「もちろんです。ここにこれてよかったと、そう思います」

 

「…………そっか。なら二人とも連れてきてよかったよ」

 

 本当にここに来れてよかった。

 自分の将来のことを、少しだけ理解できた気がする。

 もちろんこれで終わりではない。

 この先へと繋げていかなくてはならないのだから。

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