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【書籍発売中!】ぷちっとキレた令嬢パトリシアは人生を謳歌することにした  作者: あまNatu
第二章

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想像と現実

「では、我々は馬で参ります」


「わかった」


 騎士たちは皆馬で周りを警護しながら行ってくれるようだ。

 パトリシア、クライヴ、シェリーは馬車へと乗り込み、クロウは他の騎士たちと同じく馬に跨った。


「んじゃ、気をつけてな」


「お前も。もし国に帰るようなら道中気をつけろよ」


「おー!」


 馬車が動き出し、残るハイネに手を振った。

 彼の姿が見えなくなるまで窓から顔を出し続け、別れを惜しんだ。


「あいつのほうも大丈夫だといいけど」


「なんだかんだ器用だし大丈夫だろ。それより問題はこっちだな」


「今から行くところって、デュールであってる?」


「……よく知ってたな。元、だけど」


 デュールという村は今はもう存在しない。

 それは戦争によって更地となってしまったからだ。

 少なくとも人の住んでいない地域を村とは呼べない。

 だから今その地域を総称するものがないのだ。


「あ、そっか……。じゃあ新しい名前がつくってこと?」


「まあそうなるだろうな」


 そのうち人や家が増え、産業が発達すれば村として名前がつくかもしれない。

 もちろん一朝一夕ではないため、うまくいくかもわからないが。


「デュールってなにが有名だったの?」


「一番は宝石だな。水晶、アメジスト、サファイア。いろいろな種類が豊富にとれる」


「あとは農作物ですね。土地が広いので作物は多くとれたようです」


 とはいえやはり、目立っているのは鉱石だろう。

 今でも多くの宝石が残っていると言われており、それをとることができればかなり財政は潤うはずだ。

 そういう目的もあり、彼らを送り出したのだが……。


「……とはいえ、やはり移民の問題ですね」


「んー……。彼らを受け入れることは今のローレランだと不可能に近いからな。……最悪はアヴァロンに引き取ってもらうしかないかもだけど、借りは作りたくないしな……」


「ハイネにお願いすればいいじゃない。あいつなら別に借りとか思わなさそうじゃない?」


 シェリーの言葉にクライヴは腕を組む。

 表情がどことなく暗い理由は、パトリシアには理解できた。


「あいつ個人ならな。国が絡むなら国王が好き勝手できるわけじゃない」


「あ……そっか。……本当に、国を動かすって難しい…………」


 ハイネとクライヴ個人間で済む話ならば、そんなに難しいことはないだろう。

 それだけ彼らは信頼関係をきちんと築けている。

 けれど二人は地位がある。

 国同士の話には必ず政治が絡んできてしまう。


「だからできればローレランで済ませられたら話は簡単なんだが……」


「難しい問題ですね」


 顎に手を当てて悩んでいる様子のクライヴに、同じようにパトリシアも思考を巡らせる。

 まさか元奴隷たちの件にプラスしてこんな問題が起こるとは考えてもみなかった。


「まあどっちにしても、行ってみないとわからないことだらけよね」


「……だな」


 元奴隷たちの人数と、移民たちの人数。

 元奴隷たちの人数は大体が把握できているが、移民たちの方は皆無だ。

 男女比や大人と子供の差。そして働けない人の数。

 そういった細かなことまで知っていないと、この問題を解決することはできない。

 それは帝都にいて、話を聞いて、紙の上で協議するだけではできないこと。

 それができるこの体験は、本当に貴重なものだ。


「この体験を、私たちは糧にしなくてはいけませんね」


「……うん。早々できるものでもないし、クライヴ殿下には感謝しなきゃ」


「別にいい。そのかわり役に立ってもらうつもりだし」


「まっかせて! 庶民の暮らしには詳しいから!」


 確かにクライヴやパトリシアでは、その時々に本当に必要なものなどはわからない。

 なるほどこういったところでも、肌で感じるというのは大切なのだと思い知る。

 ちらりと窓の外を見たパトリシアの目には、緑豊かな草原が広がっている。

 この光景も、帝都にいただけでは見れなかったものだ。

 ひしめき合うように建つ家々も、舗装された道を走る馬車も、着飾った人たちもいない。

 ただ穏やかに緑が生い茂り、時折石を踏んで馬車が揺れる。

 ちょっとだけ大変な思いをしつつも、それでも胸を高鳴らせていたパトリシアは、想像と違う光景を目の当たりにした。


「――……」


 緑は消え、辺りは茶色で埋め尽くされていた。

 そうだ。

 わかっていたはずなのに、わかっていなかった。

 ここは一度、戦争でなにもかも失っているのだと。


「……酷いわね」


「…………はい」


 家だっただろう黒く燃えた炭。

 地面もまた黒く燃え広がり、全てを消し去ったのだろう。


「戦争だからね」


「……そう、ですね」


 知識では知っていたのに、実際に目にするとこれほどのものなのかと瞳を閉じてしまいそうになる。

 二年前の戦争は、そこまで大きなものではなかった。

 どちらかといえば小競り合いに近い。

 けれどここら辺の土地はその被害を受け、人々は移住を余儀なくされた。

 今は和平が結ばれているためすぐに険悪な状況になるとは思えないが、未来がどうなるかを知る術はない。


「……」


 目を逸らすわけにはいかない。

 馬車から見える光景を、三人は一言も発することなくただ眺める。

 これが現実なのだと思い知るために。

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