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【書籍発売中!】ぷちっとキレた令嬢パトリシアは人生を謳歌することにした  作者: あまNatu
第一章

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マリーという少女

「私は伯爵家の長男として生まれたが子供の頃は体が弱く、二歳下の弟が産まれてしばらくしてから、乳母の地元である田舎へと送られた」


「養生のため、ですか?」


「表向きは。治ると思っていなかったんだろう。弟がいるなら用済みだと」


 家を継げるのは男子だけだ。

 だからこそ、長男は大切に大切に育てられる。

 だがその長男の体が弱く、無事育つかもわからない状態で弟が産まれれば、そちらに継がせようと思うのは仕方のないことなのかもしれない。

 だがもちろんその話を聞いていい気はしないので、パトリシアもシェリーも顔を歪ませた。


「乳母は私と娘のマリーを連れて田舎に戻った。成人するまでの生活費をもらっていたらしいから、田舎ではかなり裕福な暮らしができてたな。……それこそ欲しいものはなんでも手に入る生活だった」


 首都と地方では物価などがかなり違うから、伯爵家から出た教育費だけで生涯暮らしていけたことだろう。


「私は基本的にずっと寝て過ごしていたから……友達と呼べるのはマリーだけだった。彼女は私に付き添ってくれて……外で遊びたかっただろうに」


 子供の頃なら友人と遊びたかったことだろう。

 それができないシグルドのそばにい続けたのなら、とても優しい子供だ。


「そんなマリーを哀れに思ったのか、乳母は彼女が欲しがるものはなんでも与えた。服も、装飾品も、お菓子も。周りの子供たちが羨ましがるものは全て持っていたと言っても過言ではなかった」


 乳母の気持ちもわからなくはない。

 かわいそうな我が子に少しでもいい思いをさせてあげたい。

 そう思う親心も理解できた。


「……思えば、あの時から少し……おかしかったのかもしれない」


「おかしい?」


「…………マリーは、人から羨ましがられることが嬉しかったんだ。だからいつも、欲しがったものを人に見せた後は興味を失っていた」


 ああ、と納得してしまう。

 その気持ちもまた、わからなくはないから。

 人から羨望の眼差しを受けることは、心地よいと思えてしまう。

 そしてそこから抜け出せなくなったのだ。


「私は十を超えたくらいから体が強くなって、日常生活にはなんら支障がなくなった。それを知った両親が私を呼び戻し、そしてアカデミーに入れた。……弟は両親からの重圧に耐えかねて、好き勝手生きていたからな」


「……わかる気はします」


 パトリシアの弟も、公爵家を継ぐために日々努力をしている。

 苦手な勉強も幼い頃から頑張っていて、何度か見てあげたことがあった。

 パトリシアからしてみれば羨ましいかぎりなのだが、それが嫌いな人にとっては苦痛なことだろう。

 そこに両親からの重圧もあるとなると……。

 心労がたまることだろう。


「私を無事に育てたことの褒美として、乳母は追加の金と望みを一つ叶えられることになった。……その願いを使って、マリーはこの学園に入ったんだ」


「なるほど、裏口入学ってやつね」

 伯爵家に恩を売れるのなら、女生徒の一人くらい入れるのは簡単だろう。

 それこそパトリシアだって公爵家の力を使って無理やり入学したのだから。

 そこにとやかく言う資格はない。


「……ここではマリーのように平民の女子ばかりだったけれど、男子は違う。地位があり、力のある男に言い寄る女は、美しく高級な装飾品を持っていた。それこそ田舎では目にしたこともないようなものばかりだ。……マリーはそこからどんどんおかしくなっていった、と思う」 


「……あー。なんとなくわかったわ。自尊心がボロボロにされたってわけね。だからなおさら暴走していったわけか」


「…………ロイドやクロウは学園でも目立つ。彼らに言い寄る女子は多くて……だから」


 この学園の恋愛は少し異常だ。

 いや、思春期にもなればこれが普通なのかもしれないが、女子たちの勢いが違う。

 セシル卿が言っていたとおり、少しでもいい相手を見つけようと必死なのだ。

 だからこそ、そこに目をつけた。


「気がついたらマリーは彼らと共にいた。そしてレッドクローバーに入り浸るようになって……」


「入りたいと思うようになった」


「所詮は部外者だということを気にしていたのだろう。それに、レッドクローバーに入れればそれだけで羨ましがられることになる」


 彼女にとっては都合のいい場所だったというわけだ。

 それを聞いたシェリーは腕を組むと、むすっとした顔をする。


「なるほどね。あの女の行動の理由はわかったわ。……それで? あんたはなにが言いたくてこんな話をしてきたわけ?」


「……今の状態だと、マリーがなにをするかわからない。フレンティア嬢が心配で……」


 確かにあの時のマリーの様子的に、なにをしてくるかわかったものではない。

 そこの心配はしていたからこそ、彼からの話を聞けたのはありがたかった。


「そうですね。確かに不安要素はありますが、ご心配には及ばないかと」


「……私にとってマリーは大切な友人だ。これ以上なにかおかしなことをして欲しくないんだ」


「そうですね……」


 パトリシアだってできることなら何事もなく終わらせたい。

 好んで争い事を行いたい人なんてそういないだろう。

 だがしかし、これに関しては受け身でいるしかないのだ。


「本当に、何事も起きなければいいのに……」


 しかしその願いは虚しく散っていく。

 事件は起こった。

 予期せぬ形で――。

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