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【書籍発売中!】ぷちっとキレた令嬢パトリシアは人生を謳歌することにした  作者: あまNatu
第一章

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気づくことは大切

 朝から疲れたと、ぐったりしながらもパトリシアは学校へと向かう。

 途中三人が慰めてくれて、なんとか授業も受けることができた。

 食事もとってシェリーと二人、お手洗いから教室へと戻る道中でそれは起こった。


「――フレンティア様っ」


「……こんにちは、マクベス様」


「――っ!」


 ぶわっとロイドの顔が赤く染まる。

 キョロキョロと視線をあちこちに散らした後、我慢ならないとばかりに顔を下げた。

 一体なにがしたいのか。

 明らかに挙動不審なロイドを見て、シェリーが顔を引き攣らせる。


「…………キモい」


「シェリー、いけません」


 はっきりものを言うところはいいところであり、彼女の短所でもある。

 それが本人もわかっているからか、そっと己の口を塞ぐ。


「…………」


「…………マクベス様? いかがなさいました?」


「――っ、あ、のっ」


 もごもごと言い淀んだ後、ロイドは覚悟を決めたように顔を上げた。


「あの! フレンティア様にこちらをお渡ししたくてっ!」


「……これは?」


 渡されたのはまとめられた書類の束二つ。

 一つには綺麗な字で『奴隷解放案における提案』と書かれ、もう一つには『女性の社会的立場における問題点』と書かれていた。


「……マクベス様、こちらは一体?」


「はい! フレンティア様のお時間をとってしまうのは本当に心苦しいのですが……ずっと考えていました。フレンティア様から言われたことを。とても失礼なことをしていたのだと」


 いくらパトリシアの正体を知らなかったとはいえ、確かに女女と馬鹿にされたのはいい気はしていない。

 彼もそれがわかったからこそなのだろう。

 この二つ目の書類の束は。


「一つ目は奴隷解放法案に関して、僕ながらの考えをまとめました。……特に今後の展開については、いろいろ注意しなくてはならないと思っています。必ず法をすり抜け売買をする者がでてきます。その際一番厄介なのは、付加価値がつくことです。希少性は値段に大きく関係してきます」


「……えぇ。その点については私も懸念しています」


「さすがフレンティア様! 僕の意見など必要なかったですよね……」


 パトリシアと同じところに注目するとは。

 どうやら彼のことを少し甘く見ていたらしい。


「いいえ、そのようなことはありません。人の意見は貴重ですから、可能ならたくさんの方と意見を交わしたいと思っています」


「――! ぼ、僕の意見はそちらにまとめさせていただいておりますので、も、もしフレンティア様がよろしければ……っ」


「ええ。喜んで見させていただきます」


 これはとてもありがたいと頂戴しつつ、もう一つの書類にも目を向ける。

 それに気づいたロイドが、少し言い淀みつつも説明してくれた。


「あの、そちらは……。フレンティア様とお話をさせていただいて、自分の考えが間違っていると痛感したんです。女性の幸せは結婚で、家を守ることだと思い込んでいました。けれどフレンティア様のように、己の道を進む方もいらっしゃって……。それはとても、素晴らしいことなのではと思うようになりました」


「…………素晴らしい、こと?」


「はい。性別にとらわれる必要はないのではと。その人の才能を発揮できる機会は、全ての人に平等に与えるべきなのではと思い、そこにまとめさせていただきました。一読していただけますと……とても嬉しいです」


 そっと手の中の書類を見る。

 女性の幸せは結婚。

 それはパトリシア自身も思っていたことだ。

 漠然と自分の未来にあるのは結婚で、その後家を守るのだとそう思っていた。

 だから彼に言われて、ハッとする。

 今己はアカデミーに通うという、本来あるべき女性の道から外れているのに、その先にある結末は一つだと思い込んでいた。

 それは、とても……悲しいことだと思う。


「…………」


「…………あの、フレンティア様?」


「――、あ、はい。ありがとうございます。こちらも必ず、読ませていただきます」


「ほ、本当ですか!?」


「はい。後日意見を交えられたらと思うのですが、いかがでしょうか?」


「――っ! もちろんです! 絶対に! なにがあってもきます!」


 ぺこぺこと何度も頭を下げつつ、ロイドは走るように去っていく。

 その後ろ姿を見て、シェリーは首をかしげる。


「なんでこんなことパティに言うのかしら? 家に帰って自分の父親とかに言ったほうがまだマシなんじゃないの? 公爵令嬢って法律的なことまでするの?」


「――いえ。これに関しては趣味の範囲ですよ」


「趣味……ねぇ」


 なんだか怪しまれている気がするけれど、学園で話すことではないと思い口を閉ざした。

 いつかは話す時がくるだろうけれど今ではない。

 それよりも今はと、手元の書類へと視線を落とす。


「……それ、本当に読むの?」


「…………ええ」


 まさかロイドに言われて気がつくとは。

 これはしっかりと吟味しなくてはならない。

 なぜならこれは。


「――私の、世界が変わるかもしれませんから」

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