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【書籍発売中!】ぷちっとキレた令嬢パトリシアは人生を謳歌することにした  作者: あまNatu
第一章

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ぐるぐる回る

 空は晴天。

 青々とした美しいそこには、雲ひとつない。

 穏やかに風が吹き、ほっと息つけるようなそんな昼間の出来事。


「………………ぇ、っと……」


「嫌です」


「……あの」


「お断りいたします」


「…………」


 パトリシアはシグルドからの誘いをきっぱりと断っていた。

 嫌なものは嫌。

 断るのに決まっていると、断固としてその姿勢を崩すことはしない。

 それに呆然としているのは向こうの人たちだ。

 ちなみにパトリシアの後ろにいる三人は声を出さないように笑っている。


「…………っ」


「お話がそれだけならお暇したいのですがよろしいですか?」


 答えは出したのだからもういいだろう。

 すぐにでもここから離れたいと暗に言ったのだが、シグルドは唇を噛み締めたまま頷かない。


「…………あの?」


 返事はない。

 彼がどうしたいのか全くもってわからないけれど、意思は伝えたのでもういいかと踵を返そうとした時。

 今まで一言も発さず、視線を逸らしていたクロウが声を上げた。


「――お、っ、俺の……せいか?」


「………………はい?」


「俺が、失礼なことをしたから……」


 眉がグッと寄せられた顔はなんだか苦しそうで、パトリシアはなぜそんな顔をされるのか理解ができなかった。

 クロウのせいかと問われればそうだが、別にそれだけが原因なわけではない。

 だからそれを否定しようとしたのに、それよりも早く彼の胸ぐらにロイドが掴みかかった。


「――お前っ! フレンティア様になにをした!?」


「ちょ、ロイド!?」


 マリーが慌てて止めに入るけれど、ロイドは止まる気はないらしい。

 クロウもクロウでロイドにされるがままで、振り払おうとすらしなかった。


「……俺がっ、騎士として不甲斐ないから」


「…………なにがあったんだ」


 落ち込んでいる様子のクロウを見て、流石のロイドも少しだけ手を緩める。

 静まり返ったその場所で、しばしの沈黙ののちシグルドまで口を開く。


「……クロウのせいじゃない。私の……せいだ」


「――っ、そ、それを言うなら僕が……不甲斐ないばかりに……」


「…………」


 なんだこの雰囲気は。

 なんでこんなしんみりとした空気になるのか。

 どうして彼らはそろって下を向くのだ。


「……え、なに? なにが起きてるの?」


「………………知らない」


「なんか……めんどくさそう」


 後ろであれこれ言われているのに、全力で頷きたくなる。

 正直面倒な予感がするので一刻も早く消え去りたいのだが……。

 流石にこのままにはできないと、本当に嫌々声をかけることにした。


「……あの、一体なにが起きているのでしょうか?」


「――フレンティア嬢!」


「はい!?」

 なかなかの勢いで一歩前へとやっていたシグルドは、その勢いのままパトリシアの手を握る。

 胸元あたりまで掲げたかと思えば、真っ直ぐ瞳を見つめてきた。

 それは傍から見たらまるで告白のワンシーンに見えたことだろう。


「あなたは私に失望していることでしょう。……だからそれを、挽回するチャンスをくれませんか?」


「…………はい?」


 挽回するチャンスとはなんだ?

 思い切り首を傾げるパトリシアの元に、ロイドとクロウまでやってくる。


「僕も! どうかあなたのお側に置いてください、必ずお役に立ってみせます!」


「俺にもチャンスをくれ。あんたに認めてもらえるよう、頑張るから」


 近い。あまりにも距離が近い。

 手はふれあっているし、顔はなかなかの近距離にある。

 意気込みがあまりにも強いのか、周りからどう見られているか全く理解していないらしい。

 いや、もしかしたら彼らからしてみれば、どう思われてもいいのかもしれない。

 だがパトリシアは違う。

 変な誤解を受けるのは嫌だし、そもそもこの人たちとはできれば関わり合いたくないのだ。

 なのに、なぜ、こうなる?

 あまりの展開にとりあえず一歩後ろに下がった時、その腰を強く引かれた。


「――え、」


「お前ら、パティが困ってるだろ! 少し落ち着け!」


「そうよ。パティに迷惑かけないで!」


「どーどー。もうすこーし周りの目とか気にしろよー?」


 気がついたらパトリシアはクライヴの腕の中にいた。

 力強く引っ張られたけれど、庇うように回されている腕は優しくて。

 まるで壊れ物に触れるかのように包み込んでくれる。

 息をすれば鼻腔をくすぐるそれは、昔からクライヴが好んで使うフルーティでありながら穏やかなムスクを感じる、アクアマリンの香り。


「――……」


 わかっていたつもりだった。

 それなのに今更、本当に今更実感した。

 彼は男性なのだと。

 パトリシアという存在をすっぽり包み込めるほど、大きくて力強い。

 そっと顔を上げれば、そこには彼の横顔がある。


「――フレンティア嬢!」


 はっと飛んでいた意識を戻す。

 ほんのりと頰が熱い気がしたけれど、とりあえず今はそんなことを考えている暇はないと前を見る。

 目の前には縋るような視線を送ってくる三人。


「……っ」


 なぜこうなった。

 あれほどまでに突っぱねたのに。

 どうして彼らは接触してくる?

 パトリシアの頭の中では、そんな疑問がぐるぐると巡る。

 普通あれだけのことを言われたら、なんだこいつはと離れるものだろう。

 それなのに彼らはむしろ、最初の頃より距離を縮めようとしてきていて……。

 わからない。

 彼らという存在が、その思考が全く理解できない。

 ぐるぐる、ぐるぐると疑問だけが回り回って、頭がパンクしかけたパトリシアは、かつてないほど大きな声を発した。


「お断りしますっ!」

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