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【書籍発売中!】ぷちっとキレた令嬢パトリシアは人生を謳歌することにした  作者: あまNatu
第一章

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真実を知る

 それは今から1年ほど前のことだった。

 シェリーはその時のテストで二位の成績をとり浮かれていた。

 本当は一位になりたかったし、なれると思っていた。

 けれどその場所にはこの国の皇子であるクライヴがいて、まあ、皇子ならしょうがないかと無理矢理納得することにした。

 けれどやはり悔しさもあって……。

 そんな時に出会ったのが一年年上の、なにかと話題になるマリー・エンバーだった。

 彼女は学園で話題に上がる男子生徒と仲がよく、逆に女生徒たちからは煙たがられている存在で、同じように勉強に力を入れているシェリーと似たような扱いをされていた。

 別に一人が嫌なわけじゃない。そっちの方が勉強できるし、気は楽だ。

 けれど寂しくないわけではない。

 だから嬉しかったのだ。たとえ問題児だと言われている人だとしても、友達ができたことは嬉しかった。


「だから仲良くした。マリーに紹介されてシグルドとも話した。彼も頭がよくて、話してて楽しかったから……」


 二人に案内されてレッドクローバーにも顔を出した。

 そこで他のメンバーであるクロウ・ルージュとロイド・マクベスとも顔を合わせたけれど、彼らとは話すほどの友好関係をきずけなかった。

 思えばそこからだったのかもしれない。

 なんとなく、彼らが盲目的にマリーを愛している様子を見て、気味が悪いと思ったのは。

 だから彼らにはあまり近寄らなかった。

 けれどシグルドだけは少し違って、時折マリーを窘めることもあったから信じていた。

 そんな時だ。マリーから言われたのは。


「シェリーはレッドクローバーに入るつもりないの?」


「んー……迷ってる。私人見知りだし、そういう外交的なの得意じゃないから」


「……そうなんだぁ」


 シグルドがいるのなら入ってもいいかもしれないとは思う。

 けれど残りのメンバーとも上手くやれるかと言われれば厳しい気がした。

 そう告げたら、マリーは名案を思い付いたとばかりに手を叩いた。


「じゃあ! 代わりに私が入ってあげるよ」


「……え?」


 マリーは決して頭がいいほうではない。

 だから彼女はレッドクローバーに入ることはできず、今はただそこに遊びに来ているだけの存在だった。


「代わりにって……そんなこと」


「できるよ? レッドクローバーの生徒たちからの推薦と枠があれば」 


「……枠?」


「そう! シェリーの枠をくれれば私が入れるってこと。シェリーが外交苦手だって思うなら無理しないほうがいいよ。代わりに私が頑張るから!」


 今にして思えば変だった。

 出来すぎていたと思えばよかったのに、その時のシェリーはそんなマリーを優しい子だと思ったのだ。

 私なんかより、マリーのほうが適任だとも。

 あれだけ気難しいメンバーをまとめられるのだから、きっとこの学園の生徒のために色々やってくれるだろうと。

 だからその旨を二人でシグルドに伝えた。

 本当にいいのかと聞かれた時はもちろんだと答えた。

 それを聞いたシグルドの表情はあまり覚えていない。

 そんなわけでマリーがレッドクローバーに入り忙しそうにしていた時、例の問題が起きたのだ。


「前日にマリーに呼ばれて彼女の部屋に行ったわ。そこでシグルドからもらったのだとブローチを見せてもらったの。綺麗だったしいいな、とも思ったけれど盗んでまで欲しいなんて思わないわ」


 けれど次の日、それはシェリーの部屋にあった。

 お前が盗んだのかクロウとロイドに詰められ、必死で否定した。

 その事件があった時、シェリーはみんなと一緒にいたのだ。

 不可能だと言ったけれど、盗むのはいつだってできると言われた。

 自分はずっと学園にいたし、寮になんて行っていない。

 そう言ってるのに聞いてもらえなくて……。

 最後の縋るような思いでシグルドにも同じことを言ったけれど、彼は気まずげに視線を逸らしただけだった。

 絶望に崩れ落ちそうになるシェリーに、クロウの胸で泣いていたマリーが言う。


「友達だと思ってたのに……。シェリーはシグルドが好きだったのよ。だから私のブローチを盗んだんだわ」


 シグルドが好きなんてそんなこと言ったこともない。

 なのにまるで、マリーはそれを決定事項のように告げた。

 途端に男性たちの顔色が変わる。


「……最低だな」


「ちがっ、」


「やめて! シェリーを責めないで。私わかるの。好きな人に振り向いてもらえない辛さ……。だからこんなことしちゃったのよね? でも大丈夫。大事にはしないから」


 なにが大丈夫なのだ。

 やっていないと言っているのにこの声は届かず、なにもできないまま話が進んでいく。


「…………なに、これ」


 怖い。怖い怖い怖い怖い。

 自分はいつから透明人間になったんだろうか。


「でももうこんなんじゃ、シェリーをこの部屋には入れられないよね……?」


「ここは本来レッドクローバーの生徒だけが入っていい場所だった。それほど重要な書類が置いてあるんだ。そんなところに手癖の悪いやつを入れるわけにはいかないだろうな」


「そうだよね……。ごめんね、シェリー。――ばいばい」


 話は、これで終わり。

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