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【書籍発売中!】ぷちっとキレた令嬢パトリシアは人生を謳歌することにした  作者: あまNatu
第一章

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隣の芝生は青い

 楽しかった……と教科書を閉じながら思う。

 今日の授業は知っている内容ばかりであったけれど、それでも人の説明を聞くというのは面白い。

 自分とは違う感性の人の話は、新たな着眼点をもたらしてくれる。

 ページいっぱいに書き綴ったものを満足げに見つつ次の授業の準備をしようとしていると、またしても隣から視線を感じた。


「…………」


「…………」


「………………あの、なにか……?」


 今度は視線を逸らされなかったため、声をかけてみることにした。

 女性はぴくりと肩を小さく震わしたあと、二度三度と視線を左右に動かし、意を決したように話しかけてくる。


「あ、あなたっ、あなたさっきの」


「さっき?」


「歌舞の、もっと詳しく知りたくて……」


「ああ、あれは……」


「パティ」


「クライヴ様、ハイネ様」


「どーも」


 遠くからわざわざきてくれたらしい二人は空いていた前の席に座ると、クライヴがこちらを心配そうに見てきた。


「授業どうだった? つまらなくなかった? パティには簡単過ぎたんじゃない? アカデミーに幻滅しなかった?」


「お前なぁ……」


「大丈夫です。とても楽しい時間でした」


「…………そう」


 安心したように微笑んだクライヴに同じように笑みを返せば、なぜかクラス中がざわめいた。

 一体どうしたのかと慌てて周りを見るが、皆の視線はこちらに向けられている。


「大丈夫だよパティ。気にしないで」


「大丈夫ですよフレンティア嬢。見慣れないものを見たせいでみんなびっくりしただけです」


「見慣れないもの……?」


 なんのことだかわからないが、二人が大丈夫だというのだから気にしなくていいのだろう。

 そう納得することにして、そういえばと思い出したように隣を向く。

 先ほどの話の続きをしようとしたのだが、振り向いた時には誰もいなかった。


「あら?」


「シェリー嬢なら俺たちがきた途端、瞬時に出ていきましたよ?」


 せっかく詳しい話ができるとワクワクしたのだが、出ていってしまったのなら致し方ない。

 そう思ってはいても残念ではあったので小さくため息をついていると、ハイネが顎に手を当て考えるように天井を見上げた。


「それにしてもシェリー嬢が人に話しかけてるの初めてみたな」


「そうなのですか?」


「ええ。彼女この学園では珍しく勉強一筋って感じで、他人と関わっているところを見たことがないんです」


「……」


 ふんわりと感じた違和感はそこだったのかもしれない。

 授業中にあれほどハキハキと話していたのに、パトリシアへ質問をしてくる時は体をこわばらせていた。

 もしかしたら人付き合いというものが苦手なのかもしれないなと思う。

 それなのに話しかけてきてくれた。

 ただの興味本位だったのかもしれない。

 けれどこの学園にきて、はじめて普通に話しかけてくれた同性のクラスメイト。

 それはパトリシアにとって、とても嬉しいことだった。


「もっとちゃんとお話ししてみたいです」


「フレンティア嬢なら会話が弾むかもしれませんね」


「ありがとうございます。そういえばハイネ様は先ほどの授業などは大変なのではないですか? 我が国の歴史まで学ばれて……」


 ハイネは隣国アヴァロンの王太子であるため、自国の歴史などは熟知しているだろう。

 けれどこのアカデミーで学ぶのはローレランの歴史であり、他国のことには疎いのではないだろうか。

 そう思って聞いたのだが、ハイネは軽く首を振って否定した。


「両国は現在友好関係を築いていますし、なによりローレランは帝国ですから。自国の勉強が終わればすぐにローレランの歴史を学びましたよ」


 アヴァロンとローレランも過去、戦争をおこなったことがあるらしい。

 それはパトリシアたちが産まれるよりも前のことだったが、その傷跡はどちらの国にも残っている。

 戦争はローレランの勝利で終結。

 しかし当時の王同士の話し合いで、アヴァロンは巨大な鉱山がある土地を手放す代わりに、王家は存続することとなったらしい。

 そんな経緯があるからか、ハイネはローレランの歴史にも詳しいようだ。


「それは是非ともハイネ様のお話も聞いてみたいです。アヴァロンではローレランの歴史がどう伝わっているのか。そしてアヴァロンの歴史も知ってみたいです」


「まあ……いいですけど。でもどうせならフレンティア嬢とはもう少し艶やかなお話をしてみたいものですが」


「お前本当に懲りないのな」


「懲りるもなにもまだなにも始まってないし」


「始まることがないって気づけ」


 彼の望む艶やかな話というのがなんなのかは知らないふりをしつつ、またしても繰り返される軽快なやり取りを楽しく見させてもらう。

 パトリシアもいつか、こんなふうに気軽に話せる存在ができるのだろうか。

 思えば腹を割って話ができる人なんて、使用人のエマくらいしかいなかった。

 だからこそそんな存在が、もっと増えてくれたら嬉しい。


「……よしっ」


 小さく拳を握り締めつつ、決意を新たにする。

 必ずここで大切だと思える友人をつくるのだ。

 そのためにもまずはたくさんの人と交流をしなくては。

 頑張ろう、と心の中で呟いた。

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