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序章

 空は晴天。美しく輝く星々が見守る中、公爵令嬢であり未来の皇太子妃となるはずのパトリシア・ヴァン・フレンティアは、夫となるはずの皇太子の腕を引っ張りながら皇宮の廊下を早足で歩く。

 淑女であれと子供の頃から教育を受けていたため、こんな速度で皇宮内を歩くなんて思ってもいなかった。

 それも皇太子の手をとってだ。

 きっと今自分の後ろにいる彼は困惑した顔でこちらを見ているのだろう。

 だがもうどうでもいい。どうでもよすぎるのだ。

 それは解放感だった。

 こんなにも清々しい気持ちになれたのはいつぶりだろうかと、昂る心を抑えることができない。

 とにかく早く早くと足を進め、皇宮内にあるパーティー会場へとたどり着く。

 この中には今、皇帝の誕生日を祝うために集まった国の重鎮たちがいる。


「開けてください」


「か、かしこまりました」


 高揚した頬に、息が上がり弾む肩。今までのパトリシアと同じだとは思えない姿に、扉を守る騎士たちですら困惑した顔をしている。

 だがそんなのはもう関係ない。

 新たな世界への始まりを告げる扉が今、開かれた。


「皇帝陛下、公爵閣下。お話がございます」


 たくさんの視線を感じる。

 ざわつく会場内で、負けないくらいの声を出す。

 自分がこんなに大きな声を出せるなんて驚いた。


「……どうしたのだパトリシア」


 これは一世一代の大勝負だ。

 今までの生活の全てが変わるといっても過言ではない。

 変わらないことを望んでいたのに、変わろうと決めたらこんなにも心が軽いとは。

 ワクワクが、体を熱くしてくれた。

 ゆっくりと背筋を伸ばす。

 きっかけははっきりと覚えている。あの日あの時の出会いから全てが変わったのだ。

 それは最低で最悪なものだったけれど、今思えばこれでよかった。

 だって、この胸は喜びに震えているのだから。

 あの時の感覚に感謝しよう。

 婚約者であるアレックスからの言葉、あれが決定打となった。

 自分の中で鳴ったあの音。張り詰めた糸が切れた、あの『プチッ』という音はきっと天からの啓示だったのだ。

 今までの全てに感謝を。そしてこれからの全てに祝福を。

 パトリシアは力強く息を吸い込んだ。


「私、パトリシア・ヴァン・フレンティアは、皇太子殿下の婚約者の座を退きます。皇太子妃には――なりません」

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