6 土竜
樹皮の変異人がバスから飛び降り地面を転がるも、直ぐに勢いのまま立ち上がる。
ホーンラビットの群れはそこで今までにない行動を取った。
なんと群れが三つに分かれたのだ。
二、三匹ずつの三つにだ。
驚いたリュウとスズが声を上げる。
「マジか、有り得ねぇ!」
「うっわ、こんなの初めて見たっす」
だが樹皮の変異人は動揺しない。
一番近い位置にいるホーンラビットの一匹に狙いをつけると、迷わず散弾を放った。
外れはしなかったが、直撃でもない。
ホーンラビットの一匹が後ろ足を引きずり、速度を落とし孤立し出した。
命中は後ろ足か。
残りは一発。
これは止めを指して終わりだな。
それでも二発撃っての一匹の収穫なら悪くない。
と思ったんだが、樹皮の変異人は別のホーンラビットに狙いを定めていた。
そして今度は良く狙い散弾を放った。
命中だ。
空中にパッと鮮血が舞う。
誰もが仕止めたホーンラビットに目を向けていたのだが、俺は樹皮の変異人から目を離さなかった。
奴は散弾銃を発射して直ぐに走り出していた。
一匹目の標的である、後ろ足を撃たれたホーンラビットに向かってだ。
そしてあっという間に追い付くと、右手をホーンラビットへと伸ばす。
俺はてっきり手で捕まえるのかと思ったのだが、奴はそんなことはしなかった。
恐ろしい事に、奴は手でホーンラビットを“刺した”のだ。
「うわっ、キモッ」
俺の後ろからそう声を漏らしたのはモエモエだ。
そしてスズが唸りながら俺に言ってきた。
「う~ん、あれはルール的にどうなんすかね」
するとリュウ。
「一応弾は当たってるからセーフじゃね、どうなんだハコ社長?」
二人に加えて鱗の変異人も俺を見る。
俺は全員の顔を見回した後、両手を大きく広げて言った。
「セーフ!」
ルール違反はしてないと判断。
そんなことをしている内に、樹皮の変異人が戻って来る。
するとリュウが散弾銃を奪い捕るように受取り、「ほら、早く弾をくれ」と俺に手を出す。
リュウも撃ちたくてウズウズしてるな。
俺が弾を渡すと直ぐに、バスから飛び降りて走り出す。
そういえばリュウは俊足だったと思い出す。
そして三匹のホーンラビットを射程内に入るや立ち止まり、二発連続で散弾を発射した。
その時点で俺は分かってしまった。
リュウは二発の散弾で、三匹のホーンラビットを仕留めようとしている。
二発の散弾の範囲内に三匹が入ればそれも可能だ。
案の定、三匹のホーンラビットが地面に転がった。
「イヤッホー、俺の優勝だな!」
そうリュウが声を上げた時だった。
突如地面がせり上がり、転がった三匹のホーンラビットが、何かに飲み込まれた。
「リュウッ、走れ!」
咄嗟に俺は叫んでいた。
一瞬何が起きたか解らすフリーズしていたリュウだったが、直ぐに状況を理解してこちらに向かって走り出す。
「皆、バスに乗り込めっ。リュウを拾ったらここから離れるぞ、急げ!」
俺の怒声に皆が慌ててバスに乗り込む。
俺は真っ先に銃座に乗り込み、機関銃の銃口をリュウの後ろから迫る何かに合わせた。
リュウの後ろからは、地面の中から何かが追っているかのように、もの凄い勢いで土が盛り上がっていく。
俺は再び叫ぶ。
「全員戦闘準備、気を付けろっ、土竜だ!」
変異して巨大化した土竜は、魔物の中でも最も危険な部類のひとつだ。
奴から逃げるには岩場へ行くか、速度を上げて一気に離れるかしかない。
しかし見れば土竜は、ホーンラビットに夢中のようだ。
それならやることは決まっている。
「スズ、バスを出せ!」
俺が操縦席に入ったスズに指示するが「リュウはどうするんすか!」と、まともな質問で返された。
「リュウは走りながら拾えば良いだろ」
結構無茶な返答なんだが、スズは受け入れてくれた。
バスが土埃を舞い上げて加速する。
バスは数十メートル進んだ所で、車体をドリフトさせながら方向を変えた。
そして再び加速する。
土竜に向かって!
途中、リュウがバスの出入り口のドアノブに取りついた。
これでリュウの回収は完了っと。
良し、これで自由に動ける。
バスは土竜の後を追うように走る。
一方土竜は、ホーンラビットを追っている。
こっちには射撃の得意なリュウがいる。
そうなればやることは見えてくる。
俺は一旦車内に戻り、さっき獲ったばかりのホーンラビットを手にする。
それを見たモエモエに声を掛けられた。
「それ、何するの? ね、ね、凄いこと、凄いこと?」
説明している暇はない。
というより、ちとウザい、
俺はリュウに一言告げる。
「リュウ、お前の腕次第だからな」
そう言ってバスの屋根の上に出た。
土埃が凄い。
俺はゴーグルをすると、車台の前方へと移動する。
後ろからは、真剣な表情をするリュウがついて来る。
俺が余計な説明をしなくても、リュウはしっかりと理解してくれていた。
アンウンの呼吸ってやつだ。
俺は持っていたグレネードランチャーをリュウに投げ渡す。
リュウはそれをキャッチすると、ニヤリとした。
そこで俺は無線でスズに伝える。
『スズ、土竜の横を走ってくれ』
『了解っす、ハコ社長』
バスは速度を増して土竜と横並びになる。
これで準備は整った。
「リュウ、良いか、いくぞ?」
するとリュウは返事の代わりに、眉間にシワを寄せる。
緊張しているのか。
まあ、それも仕方ない。
俺は大きく振りかぶって、手に持ったホーンラビットを放り投げた。
ホーンラビットが地面に落下するや、土の中にいた土竜がそれに食い付いた。
俺はリュウに視線を向けながら叫んだ。
「今だっ、リュウ!」
一瞬だけ躊躇するリュウだったが、「そういう事かよ」と言ってグレネードランチャーの引金を引いた。
アンウンの呼吸じゃなかったのかよ!
しかしこれ以上はない、というくらい絶妙なタイミングだった。
放たれた弾頭は呪符された『アースシェイク』の魔法を発動。
ゴゴゴゴッと地面が激しく振動する。
同時に土竜が地中から飛び出し、痙攣しながら全身をくねらせる。
そして地面に横たわると、口から内蔵を吐き出した。
かなりの至近距離に着弾したのだろう。
『スズ、停車しろ!』
バスを止めさせ生死の確認だ。
まあ、生きていないとは思うがな。
「リュウ、確認頼む」
「おうよ」
リュウが嬉しそうにバスから飛び降りて行った。
茶色の毛なみの土竜が横たわる直ぐ隣て、リュウが突いたり蹴ったりしている。
しばらくするとリュウがこちらに向かって、両手で輪っかを作る。
死んでるからもう大丈夫という合図だ。
こうして俺達は巨大な肉の塊を手に入れた。
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