28 隠し倉庫を探せ
カニ男はゆっくりと立ち上がる。
銃弾を浴びて服はボロボロだが、破れた隙間から肌が見え隠れする。
いや、あれは肌なんかじゃない。
甲羅だ。
身体の大部分が、カニの甲羅の様なもので被われている。
だが全部ではなく、人間の肌になっている箇所もある。
さすがに人間の肌の部分では弾丸を弾けない様で、所々で血が流れていた。
「お前、身体もカニなのか……」
そう俺がつぶやくとカニ男。
「けっ、生まれた時からこんな身体だ。そうだな、まともな生活なんか出来やしなかったよ。だがそれもスカル団に入るまでだ。今じゃ俺がトップで、誰も逆らえねえし、誰にも口出しはさせねえ。この身体のおかげでな!」
言い終わるや、カニ男が走り出す。
そうはいくかと、リュウが走りながらカニ男に接近。愛用の大型拳銃をぶっ放す。
「俺に銃は効かねえ!」
リュウの呪符された弾丸さえも、大きなハサミで跳ね返す。
だがリュウにはブレスがある。
カニ男がハサミを振り上げた瞬間、リュウのブレスが炸裂した。
カニ男は一瞬だけブレスを浴びるも、直ぐにハサミで防ぐ。
「ジュウッ」といっただけで、カニ男はほぼ無傷。
そして叫びながらハサミを振るった。
「痛っ、何しやがんだよ!」
振るわれたハサミが、リュウの脇腹に食い込む。
「グフッ!」
苦悶の表情で横に飛ばされるリュウ。
「お前、ドラゴンブレスじゃねえか。スペルキャスターにドラゴンブレスか。ふははは、中々面白い組み合わせじゃねえか」
そこへ近くにいたスズが動き出す。
「好き勝手にやってんじゃないっすよ〜っ」
スズがカニ男に向かって右手を伸ばす。
伸ばした腕がみるみる硬化していく。
アイアンハンドだ。
それをハサミで受けるカニ男。
二つの“武器”が交差した時、まるで金属がぶつかり合う様な音が響く。
同時に二人が大きく後退る。
そこでカニ男が嬉しそう口を開く。
「こいつはまた楽しそうな奴が出て来たな。お前、“アイアンハンド”とか言う奴だな」
「ふん、私も有名になったもんすね」
「硬質化する腕だか何だか知らねえがな、俺には効かねえぞ」
「そんなん、やってみなければ分かんないっすよね!」
スズが大きく一歩踏み出し左手を伸ばす。
同時にカニ男がハサミを伸ばす。
その時スズの目には、一瞬で横にブレるカニ男が見えた。
まるで画像にノイズが走った様だった。
あえなくスズの左手は空を切る。
代わりにカニ男のハサミがスズの胸に迫る。
スズは必死に身体を捻り、それを躱そうとする。
「くうっ!」
スズの口から苦悶の声が漏れた。
胸元が裂け、服の下に巻いた白いサラシがあらわになる。
だが、その白いサラシも直ぐに赤く染まり、パラリと地面に落ちた。
露わになった胸元を隠そうともせずに、スズは尚も前に進もうと歩きだす。
それを見たカニ男が、驚きの顔で言った。
「お前、女だったのかよ……」
ハッとした様子で胸元を隠すスズ。
そしてスズは、鋭い眼孔でカニ男を睨んで言った。
「てめぇだけは許せねえっす」
そしてスズは胸元を隠すのをやめ、両手を戦闘体勢に構えて硬化させた。
その時の俺はと言うと、魔法詠唱は完成していて後は放つだけの状態だ。
スズが一足飛びに前に出る。
俺は魔法を放つ。
それは麻痺魔法。
カニ男は一瞬だけ止まった様に見えたが、直ぐに動き出す。
麻痺魔法が余り効かない様だ。
だが、スズはそれを見逃さない。
「もらったっす!」
スズの左手がハサミを受け止める。
続いて右手がハサミの根元の関節を掴んだ。
そこでスズが「ひひっ」と笑う。
カニ男の表情が恐怖に染まる。
次の瞬間、スズは右手で掴んだ関節を握りつぶした。
「ぎぎゃぁぁああっ」
カニ男の叫び声が辺りを周囲に鳴り響く。
ここでスズは、引き千切ったカニの腕を放り投げる。
そしてトドメを刺そうと、カニ男の頭上に手を振り上げた。
その時だった。
カニ男が突然震えだす。
「アガガガガーーオロロッ」
そして血反吐を吐き出し、前のめりに倒れた。
その後ろに立っていたのは、モエモエだ。
手には前に俺が与えた警棒を握っていた。
そしてモエモエは、目の前で倒れたままピクピクと痙攣するカニ男に向かって言った。
「まぁだ生きてやがんのかよ、しぶてぇな」
モエモエは警棒の、振動カートリッジを使ったようだ。
普通の人間がまともに喰らえば、口から内臓を吐き出すほどの威力があるこの振動カートリッジ。
振動魔法の呪符が施された、ちょっとお値段高めの警棒用カートリッジだ。
振動魔法に通常のアーマーは意味が無い。
その証拠にこの有り様だ。
振動カートリッジは全部使い切っているかと思ったら、モエモエめ、まだ残していやがったか。
その後モエモエは警棒のゲージを見て、カートリッジ切れを確認したのか、ちょっと悔しそうな表情を見せるも、通常攻撃の電撃に切り替えてカニ男を殴り付けた。
カニ男からバチバチと音が鳴る。
殴り付ける度にカニ男の身体がヒクつくが、三度目を殴り付けたあたりで電撃がバチバチいうだけで、カニ男は何の反応も示さなくなった。
そしてモエモエがひとこと。
「けっ、手間をとらせやがって」
もはやチンピラの言葉。
呆気にとられて見ている俺に対して、モエモエが言った。
「死んじゃったね、どうしよう〜」
元のモエモエだ。
しかしこの変わりよう、どうにかならんのか。
「し、死んじまったもんはしょうがないな。隠し倉庫の場所は分からずじまいだが仕方無い。取り敢えず所持品を確かめようか」
俺がそう言うと、リュウとバクレンがすかさずカニ男を漁りだした。
そして隠し倉庫に関係しそうな所持品は、カードが一枚だけだった。
それを見つけたリュウが言った。
「これってカードキーだよな。ということは、どこかにまだ見つかってない倉庫だか金庫があるってことなのか?」
するとバクレン。
「あれだけ探して無かったんだぞ。どこにあるってんだよ」
二人の言うことは確かに分かる。
かなり時間を掛けて探したからな。
だが隠し倉庫だったら、そう簡単に見つからなくても当然だ。
なんせ“隠し”倉庫なのだから。
俺達は再びスカル団ビルの捜索を開始した。
まずはビルのそれぞれの階層の、詳しい見取り図を作成。
隠し倉庫があるならば、空間が浮き彫りになるはずだ。
一日ががりで探したが、結局隠し部屋らしき空間は無し。
それならば、地下倉庫の可能性だ。
スカル団ビルには、地下階は一階までしかない。
可能性としてはその下に、隠し倉庫があるのではないか。
しかし床を触ったりしたが、全く分からない。
そこで俺は水を撒いてみた。
隙間があれば水が染み込んでいくからだ。
古いビルだから、隙間くらいあるだろうと予想を立てての提案だ。
するとスズがいち早く声を上げた。
「ハコ社長っ、ここ、水が床に入っていくっす!」
皆がスズの周りに集まり、床を覗き込む。
床に扉がある様な形で水が染み込んでいく。
ビンゴだな。
これは間違いなさそうだ。
しかしどうやって開ける?
「どこかにカードキーが刺さるカギ穴があるはずだ。探すぞ」
俺の言葉で一斉に皆が、這いつくばって壁やら床を探索する。
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一時間ほど探したが見つからない。
皆が飽きてきた頃でもある。
突然モエモエがキレた。
「ふっざけんじゃねえやっ!」
そう叫んで壁に警棒を叩きつけた。
その途端、床の隠し扉が開きだす。
そこには地下へと続く階段が出現した。
次回、最終話です。




