18 大人のおもちゃ
美味い物を食べてウキウキの翌日。
俺達は現実に直面する。
バスの修理がまだ終わっていなかったよ……
半日掛かりでやっと修理を終え、再びバスは走り出す。
荒れた荒野をひたすら走るだけの退屈な時間が過ぎていく。
目的地のビックランドまであと少し。
俺はバスの前方機関銃座の中で横になり、流れる雲を眺めていた。
その時、後方機関銃座のリュウが無線で声を掛けてきた。
『ハコ社長、何か車っぽいのが見えて来たぜ』
俺は起き上がり、バスの屋根の上を歩いて後方へと移動。
早速、双眼鏡で後方を確認する。
確かに砂煙を巻き上げながら車らしい乗り物が二台迫りつつある。
俺はそれを眺めながらつぶやく。
「なあリュウ、あれって追手かもしれないぞ」
「ってえことは、スカル団か」
「その可能性もあるがバンローの街の専属の奴ら、インターセプターかもしれないな」
それはバンローの街に雇われた、賞金稼ぎ専門の集団だ。
「ハコ社長、インターセプターだとかなり厄介だぜ。きっと乗り物を壊してくるな」
奴らのお目当ては、金に成る積み荷や乗り物じゃない。
賞金になるお尋ね者。
生死は問わない条件だと、始めから車両の急所を狙ってロケット・ランチャーをぶっ放してくるだろう。
盗賊とは戦い方が違ってくる。
奴らは賞金首というお目当てを得る為に、確実な方法を優先させるのだ。
俺は無線でスズに知らせた。
『スズ、不審車両二台が後方五キロに迫っている。インターセプターの可能性がある。速度を上げてくれ』
『了解っすけど、無理すると修理したばかりのエンジンが持たないっすからね。あまり期待はしないでくださいっすよ』
そうだった。
修理出来たは良いが、応急修理でしかない。
当然無理すればまた故障するし、ちょっとでもエンジンに被弾すれば大変な事になりかねない。
俺は武器棚からロケット・ランチャーと、四十ミリグレネード弾が収納された弾帯ベルトを取り出し、それをリュウの所に持って行った。
中折れ式の単発ランチャーだ。
ランチャーの中でも比較的安い物で命中率は期待出来ない。
ノーマルの弾ならばそれ程値段も高くは無いのだが、命中率はあまりよろしくない。
だが威嚇としては十分な威力はある。
「リュウ、今回はこれを使え」
俺はそう言ってランチャー本体とノーマル・グレネード弾五発に加えて、一発の呪符が施された四十ミリ弾を渡した。
「良いのかよ。大型魔物用に取って置かなくて」
「使わなくて良いに越したことはないがな。もしもの為に持っていろ」
「そうか、分かったよ」
リュウはランチャーを背中に背負い、弾が入った弾帯を腰に巻いた。
俺はそれを確認すると再びハシゴで車内に戻り、変異人の二人にも武器持つように伝えた。
変異人の二人は無言で動き出し、各々が装備を整え出す。
不気味なほど素直だよな。
そこへ俺は武器棚から手榴弾の箱を持って来て、変異人の二人に渡す。
「良かったら、これも使ってくれ」
鱗の変異人がそれを受け取るや、大きく頷いて片手を軽く挙げた。
お礼の表現なのだろうが、ちょっとビビった。
俺も軽く手を挙げて武器棚へと戻ろうと歩き出す。
そこでふと視線を感じて立ち止まる。
視線の方へ目を向けると、それは車内の隅っこの座席に座るモエモエだった。
そこで俺は「ちょっと来い」と声を掛け手招きする。
モエモエは直ぐに立ち上がり、ピョコヒョコと小走りでやって来た。
「モエモエ、お前は武器主任にしてやる。常にそこの装甲板の後ろにいろ。そこがモエモエの定位置な」
俺が武器棚に近い座席を指し示すと、モエモエはまたヒョコヒョコと歩き出し、ポスンと指定席となった自分の座席に座る。
それを見届けた上で俺は話を続けた。
「それでな、呼ばれたら武器棚のところに行って、指定の弾薬を持って行ってやれ。それと移動する時はこれを使え」
俺は武器棚から防弾シールドを取り出し、モエモエに渡す。
これなら大抵の破片やピストル弾なら防げるし、身体の小さいモエモエならば全身スッポリ隠れられる。
それに防弾ガラスの覗き窓もある。
モエモエが物珍しそうにシールドをあれこれ弄くりまわした挙げ句、覗き窓から俺を見つめながら言った。
「ねえねえ、これってどこに武器が付いてるの?」
「モエモエ、お前は隠れていろ。武器主任が怪我したら誰がこれを管理するんだよ。だからそれに武器は付いて無い」
覗き窓越しのモエモエが細目になった。
「私は武器主任なんだよね?」
仕方無いな、何か武器を渡すか。
そこで思い出す。
「あ、そうだ。良い物を思い出したよ」
俺は武器棚の奥から箱を取り出した。
薄汚れた箱。
「モエモエ、この武器を貸してやる」
そう言って箱を渡す。
それを手に取ると、不思議そうに箱を開け始めるモエモエ。
「警棒?」
箱を開けたモエモエがそんなことをつぶやき、早速その棒状の物を手に取って見ている。
まさしく警棒なのだが、ただの警棒ではない。
カートリッジ式で三回の魔法攻撃が出来る。
ただし相手に接触させないと発動しないから、モエモエが使いこなすのは到底無理だ。
仮に銃などの飛び道具を渡してしまい、それが味方への誤射になるのは勘弁してほしい。
その点、警棒なら少しは安全だろう。
それにモエモエとしても、少しは不安要素が取り除けるだろうし。
持っているだけで安心感を得られる事だってあるのだ。
俺は最低限の使い方を教える。
カートリッジが高価なんで予備は無い。
カートリッジの効果は振動だ。
接触時間が長いとそれだけ効果が上がる。
最悪は内臓を吐き出して死に至る。
ちなみにカートリッジ無しだと電流を流す、ただの電撃ロッドとなる。
説明を聞きながらモエモエは興奮気味だった。
「凄い凄い、私ヒーローになれるね!」
なれん!
興奮したモエモエは座席から立ち上がり、「えい、やあ、とお」とか言って危なっかしくも警棒を振り回す。
少し心配になって来たが、今更返せとは言えないよな?
代わりに俺は「頼むぞ」とだけ言って立ち去る。
俺はチラチラとモエモエに目を向けつつも、屋根に通じるハシゴに手を掛けた。
モエモエは防弾シールドの陰に隠れ、警棒を眺めながら何やらブツブツ言っている。
独り言だ。
モエモエは独り言が多く、良く見かける光景ではある。
いつもはバスから降りた時に物陰での場面が多かったのだが、今回はその絶好の物陰を与えてしまったようだ。
だが今更珍しくもない。
この世界、そんな人間は沢山いる。
俺は後部機関銃座に向かった。
リュウの横に立ち、後方を確認する。
やはり狙いは俺達のようだ。
二台の車がバスの両サイドに分かれて行く。
距離がまだあるが、何も無いこの地で二手に別れるのは変だ。
これは確実に仕掛けてくるな。