オカリナ
自慢じゃないが私はそこそこモテるので、毎年、誕生日にはたくさんのプレゼントが届く。彼氏、友人、知り合い、ファンから、どっとプレゼントの波が押し寄せる、人生のフィーバータイムである。
だが。
私の場合、一つ大きな問題があった。
自宅の二階。開け放たれた窓からゆるやかな風が吹きこんでいる。カーテンがぱたぱたと揺れ、机に突っ伏していた私はふて寝から目を覚ます。
彼氏の電話で怒り疲れて、いつの間にか眠ってしまっていた。
目の前にはプレゼントの小山ができていた。
壮観だ。
壮観ではある。
中身を知らなければの話だが。
寝起きの顔を手鏡で確認する。ぼさぼさの髪。すさんだ目。眉間にしわ。ふむ、年頃の女子の顔ではない。
手鏡を閉じる。ああ、空が青い。
私は改めてため息をついた。
オカリナ。オカリナオカリナ。
三十七個届いたプレゼントは全てオカリナだった。
テロか?
埋まる。オカリナで家が埋まる。
どうして皆こうもセンスが絶望的なのだ。揃いも揃って何をしているんだ私の誕生日に。
私は頭を抱える。
でもぶっちゃけ、予想はついていた。そんな気はしてた。……だから彼氏からのプレゼントは最後の希望にして最後の砦だったのだが、結局開封直後、怒りのLINEが怒涛の勢いで送信される羽目になった。ボケが。
去年もそうだった。誕生日には大量のオカリナが届いた。一昨年もそうだった。致死量のオカリナが部屋を埋めつくした。三年前もそうだった。数えきれないオカリナが家になだれ込み、四年前も五年前もうわああああああああああああああああああああああああああぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんぬぬぬぬ
今や押し入れはオカリナで一杯だし、机の引き出しもクローゼットの下の方もオカリナであふれている。
こんなにいらない。
送ってこないでほしい。限界だよもう。
これはあれか、集合的無意識とかそういうやつなのか。私の周りの人類、いや類人猿が深層意識下に全く同じ「オカリナ」というキーワードを持っていて今の私の状況はもしやユング理論の最終証明にまあそんなわけないよね。
いつの間にか妖精さんに家を乗っ取られた? 妖精ってオカリナを吹いているイメージがあるし。いまにオカリナ好きのエンジェルが机の引き出しから飛び出してきて私を夢の世界に連れてってくれるとか。私の部屋の押し入れからファンタジーが始まる予感。
うーん現実味が薄い。
まずはオカリナを吹く練習しなきゃな。百個以上あることだし。このままコレクターになれるぞ。それで一丁前に吹けるようになったら人に教えてお金を稼いで、そのうち月額制の貸し出しサービスとかも始めて、ゆくゆくはオカリナ図書館を
出家しようかな。
それか、改名。
カーテンが揺れ、プレゼントの山からぴらりと一枚、紙切れが落ちた。彼氏からの手紙だ。
『付き合って初めての誕生日だね。いろんな人から贈り物をもらうと思うから、僕はちょっとふざけてみたよ。面白いかな? 誕生日おめでとう、里奈ちゃん♡』
若干の照れくささを感じながら、最後に付け足されたハートマークを忌々しげに眺めた。
……全く。
人の名前で遊ぶんじゃない。