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8、忙しない朝

 初めての錬金を成功させた俺は、さすがに夜遅くなっていたのでログアウトしてベッドに入った。そして疲れからかすぐ眠りに落ちて……次の日の朝、けたたましいアラームの音に起こされた。


「ふわぁぁ」


 まだ眠いけど、起きないとだよな。ゲームばっかりやって大学をサボったりしたら、母さんに取り上げられそうだ。


「真斗ー、早く起きなさーい」

「は〜い」


 俺はベッドから起き上がってスマホを手に取ると、入学式のスケジューが載っている大学のホームページを開いた。

 式の開始は午前十時から。入場は九時から可能で、俺のうちから大学までは電車と徒歩で三十分。八時過ぎには家を出るか……


「はよー」


 俺の部屋がある自宅の二階からリビングに下りると、俺以外の家族三人はすでに朝食を食べていた。近所のスーパーでパートをしている優しいけど口うるさい母さんと、大学を卒業してから何十年もずっと公務員として働いている真面目な父さんと、高校二年生になったばかりの活発な妹だ。


「はいご飯、早く食べちゃって」

「ありがと」

「お兄ちゃん、昨日も夜遅くまでゲームやってたの? 体に悪いよ」

「分かってる分かってる。ちゃんと寝てるから大丈夫だって」


 今日の朝食は白米と焼き鮭に味噌汁、それからおばあちゃんが定期的に漬けて持ってきてくれる漬物だ。うちの朝ご飯は昔からずっとこういう和食なので、これを食べると一日が始まる気がする。


「どう? 美味しい?」

「うん、美味いよ」

「それなら良かった」

「母さんの飯はいつも美味いよな」

「うん! 味噌汁はやっぱりお母さんのが一番だよ」


 母さんの問いかけに皆でいつもの返答をして、和やかに朝食の時間は過ぎていく。テレビでやってるニュースは、新生活におすすめの便利グッズ特集みたいだ。


 俺も一人暮らしするようになったら、こういうのを買うんかなぁ。でも大学は自宅から通えるし、あと四年はないだろう。俺にはそこで無理を通してまで、一人暮らししたいっていう気持ちはない。


「ごちそうさま! 私もう時間やばいから、先に洗面所使うよ」

「はいよー。今日も部活?」

「うん! 八時半に集合だから急がなきゃ」


 妹の未来はそう言うと、忙しそうに席を立った。未来は高校で弓道部に所属していて、長期休みも基本的には毎日部活に行っている。


「真斗は大学でもスポーツをやるのか?」

「うーん、真剣にはやらないかな」

「あら、そうなの? あんなにバスケを頑張ってたのに」


 そうだけど……もう高校でやり切った感があるんだよな。大学はもっと楽しそうなサークルに入りたい。


「大学には高校よりたくさんのサークルがあるから、色々見てみたいし」

「確かにそうだな」

「うん。じゃあ俺も先にごちそうさま。スーツに着替えないとだから」


 それから俺は食器をシンクに運んで自室に戻ると、髪型などを整える前にスーツに着替えることにした。洗面所は未来が使っていてしばらく使えそうになかったのだ。


 スーツは就活にも使えるようにと父さんと母さんが買ってくれた良いものだから、ダメにしたりしないように慎重に着ていく。なんかスーツを着ると、一気に大人になった気がするな。


「あー! お兄ちゃんがスーツ着てる!」


 着替えてまた一階に下りると、ちょうど準備を終えた未来と鉢合わせてそう叫ばれた。


「未来、うるさい」

「なんかお兄ちゃんがスーツ着てるの変な感じだね。う〜ん、あんまり似合ってない?」


 俺は未来のそんな感想を聞いて無言で頭にチョップを喰らわせると、空いた洗面所に向かった。


「ちょっと、お兄ちゃん酷い!」

「何騒いでるんだ」

「お父さん、お兄ちゃんに殴られたー!」

「殴ってないし、未来が似合ってないとか言うからだろ」


 二人の会話が聞こえてきたのでそう弁明しておくと、父さんは俺のスーツ姿を洗面所に見にきて頬を緩めた。


「おおっ、良いじゃないか。着こなせてはいないが似合ってるぞ」

「父さん、分かってるじゃん」

「ええ〜、でもそのスーツってあのCMのやつでしょ? CMの人たちの方が似合ってた」

「お前、それはアイドルとか俳優だろ? そこと比べるなよ」


 あんなイケメンと比べられたら、スーツなんてほとんど全員が似合わないことになってしまう。でも確かに……この現実の真斗じゃなくて、『フォレスト・ワールド』のマサトの方が確実に似合うだろうな。


「何を三人で話してるのよ。あら真斗、意外と似合ってるじゃない!」

「ありがと」


 意外ってことはあんまり似合わない予想だったんかい! と突っ込みそうになりつつ、もう時間がないので準備を優先することにした。

 すると母さんの興味はすぐに時間へと移ったようで、未来に時計を指差しながら声を掛けている。


「もう時間やばいんじゃないの?」

「あっ、ほんとだ! お母さんありがと!」


 それから皆でバタバタと忙しなく準備をして、俺と未来はほぼ同時に家を出た。しかし未来は電車じゃなくて自転車通学なので、家を出てすぐに分かれる。


 うちから最寄り駅までは徒歩十分ぐらいで、電車に乗ってる時間は二十分。大学の最寄駅は大学の目の前なので、そこは徒歩一分もかからないぐらいだ。

 改めて近くの良い大学に行けて良かったよな……高校三年の時に勉強を頑張って良かった。

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