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7、初の錬金

 二度目となる道具屋のドアを開けると、この前と同じ女性がカウンターの中で何か作業をしていた。女性は俺に気がつくとすぐにカウンターから出てきてくれる。


「いらっしゃい」

「こんにちは」

「おっ、あんたはこの前の子じゃないか。錬金セットが欲しいんだったかい?」

「そうです。三万ペルグが貯まったので買いに来ました。まだ在庫はありますか?」

「こんなに早く貯まるとはねぇ〜在庫はあるよ。ちょっと待ってな」


 女性は俺の言葉に驚いたような表情をしてから、すぐに錬金セットを持ってきてくれた。店頭に展示されているやつじゃなくて、奥の倉庫らしき場所からだ。


「ちょうど今日、新しいやつが入荷したんだ。あんたにはこっちを売ってあげるよ」

「え、良いんですか!?」

「別に良いさ。新しい方が気分が良いだろう?」


 女性はそう言って、俺にパチっとウインクをしてくれる。おばちゃん……めちゃくちゃ良い人じゃん!


「ありがとうございます! 大切に使います」

「そうしてやっとくれ。錬金術師は道具が大事だっていうからね。ほら、この木箱に全部入ってるから中身を確認しな」


 木箱の中を覗き込んでみると、鍋やガラス瓶以外にも使い道がよく分からない器具がたくさん詰まっていた。そして一番上に乗っているのは……錬金術の基礎教本だ。こんなものまで付いて三万ペルグなんて、めちゃくちゃ安い。


「問題ないです」

「じゃあ三万ペルグだよ」

「はい。これでお願いします」


 俺が三万ペルグを手渡すと、おばちゃんはしっかりと確認してから笑みを浮かべた。


「ちょうどもらったよ。じゃあ頑張りなね」

「はい。また何か必要なものがあったら買いに来ます」


 そうして道具屋で錬金術師に必要なものを購入した俺は、借りてる宿屋の一室に戻ってきた。そしてさっそく、俺の職業の本分である錬金をしてみることにする。


「えっと、まず錬金に必要なのは魔力水なのか。鍋に普通の水を入れてその水に魔力を……って、水がないじゃん」


 俺はそんな最初のところから躓き、出鼻を挫かれながら宿から水をもらった。そしてその水を鍋に移して、さっそく本の通りに魔力を注いでみる。

 魔力を注ぐには体中を流れている魔力の流れに支流を作り、その支流の出口を指先にして……とかって色々と書かれていて、そんなこと俺にできるのかと思ったけど普通に出来た。自分の中に魔力が流れていることも、それを自由に動かせることも、なんだか不思議な感じだ。


 そうして青色の魔力水が完成したら、魔力水を熱しながら素材を入れていく。それからはひたすらかき混ぜながら火にかけていると、何かしらの物質が出来上がるらしい。

 基本的には魔力水の質と火の温度、それから入れる物質の種類や質、量で完成するものが変わるのだそうだ。


「最初は何を入れてみるかな」


 錬金術の教本にまずはここからっていくつかの素材が書かれているけど、どれも今の俺は持ってないものだった。とりあえず……持ってるものを適当に入れてみるか。


 メニューからインベントリを開いてみると、この二日間で集めた素材がずらっと出てくる。一番数があるのはフットラビットの毛皮や爪だ。それから次に数が多いのはマルーカという名前の実。あの低木にかなりの確率で生っていて、一応集めてみたのだ。


 ただギルドで買い取ってもらおうとしたら、渋いから買い取れませんって言われて、そのまま持ち帰るしかなかった。

 このままだとインベントリの肥やしになるだけだし、錬金に使ってみるかな……


 俺は鍋を簡易コンロみたいなやつの上に乗せて、ボタンを押して火を付けた。この世界では魔物から取れる素材でこういう便利な道具が作られているらしく、比較的安価で手に入るらしい。

 ただ燃料の魔石は定期的に変えないといけないそうだ。まあ俺は魔物を倒せば手に入るから、魔石の心配はそこまでいらないかな。


 魔力水は火によって熱されると比較的すぐに沸騰するようで、俺は沸騰した魔力水にまずはマルーカの実を一つそのまま入れてみた。そしてマドラーみたいな棒でかき混ぜていると……不思議なことに、マルーカは溶けてなくなってしまう。


 ただマルーカが跡形もなく消えても、何か別の物質に変化したりはしないようだ。教本によると魔力水が青色で沸騰したままの場合は素材が足りないと書かれていたので、俺はもう一つマルーカを追加してみる。


 そうしてマルーカを煮込むこと十五分ほど。五つ目のマルーカが完全に溶けた時に突然鍋の中が変化した。青色の魔力水がピカッと光って一気に収縮していったのだ。


 ――そうして鍋の中に残ったのは、一つの小さな石だった。


 錬金って……めちゃくちゃ不思議だ。でも楽しいな。

 俺は恐る恐る鍋の中に手を入れて、ピンセットみたいなやつで石を摘み上げてみた。そして小さなお皿の上に載せる。

 

 それは石とはいっても綺麗な白い石で、観賞用にもなりそうな感じだった。小ウィンドウに名称が表示され、光石となっている。図鑑で調べてみると……ただぼんやりと光る石らしい。


 それ以外に使い道ってないのかな……例えば、これをもう一回錬金してみるとか。そう思いついたら試してみたくなり、俺はもう一度マルーカから光石を作り出し、二つの光石を錬金してみた。


 すると出来上がったのは……おおっ、香石だ。別のやつになった。図鑑にはとても良い香りがする石と書かれている。


「これは売れそうだな」


 錬金教本を見てみると、香石のことが載っていた。錬金を始めた初心者でも作りやすくて、しかし比較的高く売れるものらしい。

 ただここに載っている作り方は俺がやったものと違うので、錬金は一つのものを作り出すのに何通りもの方法があるほど、多種多様な組み合わせができるのかもしれない。


 俺はこれからの錬金術師としてのゲーム生活が楽しいものになりそうで、自然と頬が緩んだ。

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