5、さっそく素材集め
村から外に出た俺は、緊張しながら草原を一人で歩いていた。他にも遠くにちらほらプレイヤーが見えるけど、大部分の人が地面にしゃがみ込んだり立ち上がったりしているから、薬草採取をしているようだ。
やっぱり最初は薬草採取からだよなぁ。そんなことを思いながら俺も地面に視線を向けると、小ウィンドウで『ただの草』と表示された。
このゲームでは基本的なアイテムのみ、こうして小ウィンドウで情報が見えるようになっているらしいのだ。『???』とかってなるやつは、希少なアイテムの可能性が高いらしい。
「あっ、ヒーリ草あった!」
俺は『ただの草』の中に『ヒーリ草』があることを見つけ、思わず嬉しさのあまり声を上げてしまった。このゲームでの初採取だ。インベントリからナイフを取り出して、根本からヒーリ草を採取した。
ヒーリ草はオレンジ色の綺麗な葉っぱが特徴的な植物で、基本的には緑色の植物が多い中でかなり目立つ。これを五本採るんだったよな……あっ、また見つけた。
ヒーリ草は意外とたくさん生えているようで、俺は楽しくなって五本を超えても採取を続けた。常設依頼は何回でもクリアできるだろうから、できる限り採取してお金を稼ごうと決めたのだ。
この調子なら五十本はいけるかも。そうすれば三千ペルグだ。三万ペルグは意外とすぐ達成できるかもしれない。
――それから約二時間。はい、完全に調子に乗りました。
地面ばっかり見ていたら全く魔物に気づかず、魔物に腕を噛まれた衝撃でやっと魔物の存在に気付いたのだ。
HPは残り2。元々は7だったから、噛みつき攻撃で5が減ったことになる。ということは……次に攻撃を受けたら終わりだ。
別に攻撃されても痛くないし死んでも何も感じないだろうけど、それでもせっかく集めたヒーリ草を失ってしまうのは避けたい。それにナイフも短剣もだ。
俺はインベントリから短剣を取り出して、魔物に向かって構えた。魔物は青い色の小さな蛇みたいなやつだ。小ウィンドウには『スモールスネーク』と表示されている。
ウィンドウのメニューにある図鑑をさっと横目で見てみると、攻撃手段は噛みつきのみって説明があった。小ウィンドウで名前が出るものは、図鑑で説明を読むことができるのだ。
「とりあえず、噛みつかれなければ良いってことだな」
俺はスモールスネークの口だけに集中して、短剣を胴体に向かって思いっきり振り下ろした。しかし剣が傷つけたのは……地面だけだ。スモールスネークはひょろひょろっと動いて俺の剣を避ける。
「うわっ、来るなっ、向こうにいけ!」
スモールスネークは俺の剣を避けると「シャー」と声をあげて噛みついてこようとしたので、俺は必死で逃げた。とりあえず噛まれないようにと、足をひたすら動かして逃げる。
しかしスモールスネークを振り切れるほどに俺の足は早くないようで、追いつかれそうになって……がむしゃらに振り下ろした短剣が、運良くスモールスネークの頭に突き刺さった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、マジで疲れた」
最初から苦戦しすぎだろ俺。というか魔物がいることを忘れて採取に熱中しすぎた。
「あっ、レベル上がったかも」
シャラランッというような明るい音が頭の中で鳴り、ウィンドウを確認するとレベル2、HP10、MP19になっていた。せめてもう一つレベルを上げたいな……これだとまだスモールスネークに二回噛まれたら死ぬ。
「というか、倒した魔物が残るの本当にリアルだなぁ」
このゲームはとにかくリアルを追求なので、魔物を倒したらポリゴンになって消えてドロップアイテムが残る、なんで親切仕様じゃないのだ。
魔物は持ち帰って冒険者ギルドで解体してもらうか、自分で解体するかしないといけないらしい。
俺は自分で解体は無理だとその選択肢は早々に捨てて、冒険者ギルドに持ち帰ろうとスモールスネークをアイテムボックスに入れた。
「とりあえず帰るかな」
HPを回復させるには自然回復かポーションと呼ばれる回復薬を飲むか、それ以外だと食事をすると良いらしい。村に帰って何か食べて、HPを回復させよう。
ポーションより回復量は低いらしいけど、まだ俺のHPはかなり少ないからそれで大丈夫だろう。
それから俺は、今度こそしっかりと魔物を警戒しつつ村に戻った。そしてギルドでヒーリ草を納品してクエストをクリアし、スモールスネークも買取に出した。解体をお願いしたから俺に入ってくるお金は少しだったけど、それでも塵も積もればなんとやらだ。
「すみません、この村の周辺で弱い魔物ってスモールスネーク以外に何がありますか?」
ギルド受付の女性に聞いてみると、女性は一枚の紙を俺に見せてくれた。
「こちらがこの村周辺に生息している魔物ですが、その中でも比較的弱いのはこちらのフットラビットです。とにかく大きな足が特徴的で、その足を使って突進してきます。しかしそれさえ避けることができれば、倒すのはそこまで難しくないそうです。また毛皮は比較的高く売れますので、お金を稼ぎたい方にもおすすめです」
おおっ、俺にとっては最高の魔物だ。これからはフットラビット狙いでいこうかな。最初は素材も全部売って、余裕ができたら錬金に使えそうな素材は保管しておくことにしよう。
「教えてくださってありがとうございます」
「いえ、情報提供もギルドの仕事ですので」
それから俺はフットラビットの特徴やよく目撃される場所を聞いてから、冒険者ギルドを後にした。