4、武器屋と道具屋
手に持ったナイフはずっしりと重みがあって、予想以上に切れ味が鋭そうだった。軽く振ってみると、すぐ腕に疲れが溜まるのが分かる。
これはレベルが上がらないと武器を振るのも大変なのかもしれないな。早急にレベル上げが必要そうだ。
「手に馴染むものはあるかな?」
「そうですね……強いて言えばこれでしょうか」
俺が選んだのは一番コンパクトで刀身が短いナイフだった。他の二つは重すぎて、採取途中で腕が悲鳴を上げることが使う前から分かったのだ。
「そういう直感は大事だよ」
「では、これを買おうと思います。短剣と合わせていくらでしょうか?」
「3500ペルグだ」
「……これでお願いします」
俺がピッタリお金を渡すと、男性はお金を受け取ってから剣とナイフを手渡してくれた。さらにサービスだと言って、刃の手入れをする道具一式もつけてくれる。
「こんなにもらってしまって、良いのでしょうか」
「いいんだよ。異世界から来た人たちは、魔物をたくさん倒して私たちの生活を安全にしてくれているからね。そのお礼だ」
俺たちってそういう認識になってるのか。ゲームの設定だとしても嬉しいな。魔物を倒してこの世界に貢献しようという気持ちになってくる。
「俺も皆さんの安全のために頑張りますね」
「ありがとう。期待しているよ」
そうして武器屋のおじさんとにこやかに別れた後は、一応道具屋にも向かってみた。何か必要そうなものがあればと思って気軽に入ったんだけど……そこで俺は、めちゃくちゃ大切なものを発見した。
「錬金術師の基本セットって、これいくらですか!」
目の前にあるのはガラス製の瓶やスポイトのようなもの、それからかき混ぜるマドラーだったり鍋や何かを濾過するような素材だったり、そういう錬金に必要な道具一式が並んでいるのだ。
「いらっしゃい。お前さんも錬金術師になりたいのかい? 前は売ってなかったんだけどね、異世界人からの要望が多くて売るようにしてるんだよ」
奥から出てきたのは店主らしきふくよかな女性だ。歳は五、六十代ぐらいかな。
「そうなのですね。錬金術師志望で、これ凄く欲しいです!」
「魔力属性はちゃんと無属性なんだろうね? 魔力量も多くないとできないよ?」
それは……ちゃんと職業で錬金術師を選んだから大丈夫をなはずだけど、そう言われると心配になってくる。
「多分大丈夫です……」
「はぁ、なんで異世界人は冒険者ギルドで鑑定をしてもらわないのかね。うちでやっていくかい? 500ペルグもらうけど」
「鑑定って魔力属性とかが分かるんですか?」
「そうだね。魔力属性と魔力量が分かるよ」
そんなものがあったのか……最初に説明してくれたって良いのに。このゲームってチュートリアルがないって事前に聞いてたけど、本当に情報も何もかも自分で集めないとダメなんだな。
とりあえず500ペルグぐらいならすぐ稼げるだろうし、鑑定してもらっても良いか。
「鑑定をお願いしたいです」
「はいよ。じゃあそこにある魔結晶に手で触れな。光る色が属性で、光の強さが潜在的なものも含めた魔力量だ」
そう言って女性が指差した方向には、虹色に輝く水晶が神々しく鎮座していた。俺は恐る恐るその水晶に近づいて手を伸ばし……俺が触れると、その水晶は真っ白に色を変えて強い光を放った。
「おおっ、確かに無属性で潜在的な魔力量はかなり多い。これから錬金術師には問題なくなれそうだね」
「本当ですか! 良かったです!」
「じゃあこのセットを買うかい? 値段は三万ペルグだ」
さ、三万ペルグ!? それは買えない、全然お金が足りなかった。
「……すみません。手持ちが足りないのでまた後で買いたいのですが」
「ああ、別に構わないよ。これは売り切れてもすぐに入荷するから、品切れの心配もいらないからね」
「それは良かったです」
じゃあまずは、三万ペルグ貯めることを目標に頑張ろう。せっかく錬金術師になったんだから、錬金ができなきゃゲームの楽しさが半減だ。
それから俺は鑑定の代金だけを払って道具屋を出て、近くの宿屋に向かって一部屋借りた。宿はかなり良心的な値段で十日まとめてお金を払うと割引してくれるということだったので、俺はまとめて支払って最低でも十日間のログアウト場所は確保した。
でもこれで最初の一万ペルグがほぼすっからかんだ。早く依頼を達成してお金を貯めないと、何も買えないし宿にも泊まれなくなってしまう。
ちなみにこのゲームの世界は現実と時間の経過は同じなので、例えば大学入学で忙しくて数日ログインできなかったら、それだけでかなりの危機に陥る。
宿代を払ってる日数を超過してログアウトしてる場合は宿から強制退去で、さらにその宿のセーブポイントとしての機能も無くなるので、始まりの村の広場にインベントリの中身ゼロで戻ると聞いたことがある。
……うん、やっぱり宿代の余裕は大切だ。
俺は宿屋の部屋を一通り確認したら、休むことなく宿を出て村の出口に向かった。途中で食堂から香ってきていた美味しそうな食事の匂いは、意図的にシャットダウンだ。
この世界では現実と同じクオリティの料理が、さらにお腹がいっぱいになることなく楽しめると話題なんだけど、今の俺に食事を楽しむ金銭的余裕はない。別に食事を取らなくてもペナルティーとかは付かず問題ないらしいので、ここは出費を減らせる場所だ。
……現実に戻ったらシチューを食べよう。俺はそう決意して、村の外に向かって足を進めた。