36、パーティー勧誘
魔力凝固症を患う人たちのところを順番に周り、全員が問題なく俺が作った融解ポーションで治ったのを確認したところで、俺はここ数日感じていた緊張感から解放された。
俺の融解ポーションが効かなかったとか、そんな結末になったらどうしようって心配してたんだよな……本当に良かった。
「マサト、本当にありがとな!」
最後の家を後にしてイリナの部屋に向かっている道中、ラッジが俺の肩に腕を回して満面の笑みでそう言った。俺は素直な賞賛に気恥ずかしくなりながらも、小さく頷いて口を開く。
「役に立てて良かった」
「本当にマサトは凄いぜ!」
「私からもありがとう。私と同じ病気に苦しんでる人たちが助かって良かった」
イリナは優しい笑みを浮かべて俺の顔を覗き込むと、次第に真剣な表情になり足を止めた。
「イリナ、どうしたんだ?」
「マサト、ハナ、私たちのパーティーに入らないか?」
「……え?」
俺はイリナの言葉があまりにも唐突で予想外で、気の抜けた声を出すことしかできなかった。パーティーって、イリナとラッジのパーティーに入るってことだよな。NPCのパーティーに加入とかできるのか。それに俺たちは全く役に立ってないんだけど……
「何で、俺らなんだ? 戦闘職じゃないし……」
「それは分かってる。でも生産職を仲間にしてるパーティーはいくつもあるし、私たちの得意分野からして二人とは相性が良いと思うんだ。私たちのパーティーは基本的に希少素材の採取や討伐をしてるからな」
「そうだったんだ……」
だからラナックの討伐に行ったことがあって、討伐自体もあんなに手際が良かったのか。
「それいいな。今までは希少素材を売るだけだったけど、二人に調薬や錬金をしてもらってそれを売ればもっと稼げるよな。それに二人も欲しい素材は俺らが採取して来れるから、どっちにもメリットあるんじゃねぇ?」
確かにそう言われると、断る理由がない気がする。何よりもラッジとイリナといるのは楽しいんだよな。問題点は二人がNPCで、俺らには現実の生活があってログインできる時間が限られてることぐらいか。
「ちょっと、ハナと話し合っても良い?」
「もちろんだ」
俺はハナと視線を交わして頷き合い、イリナとラッジから距離を取った。そして小声でさっきの懸念事項について意見を求める。
「私は……パーティーに加入しても良いと思う。二人が採取で私たちが生産ならずっと一緒に行動するわけじゃないし、ログイン時間が限られることはそこまで問題にならないんじゃないかな」
「確かにそうか」
「うん。それに、二人と一緒にいるのは楽しいし。……私はパーティーに加入してみたいかな」
ハナがこれから先への期待を込めた瞳で発したその言葉に、俺の迷いも綺麗さっぱり吹き飛んだ。
NPCとか難しいことは考えずに、楽しいって理由だけで十分だったな。それにイリナの言う通り、俺たちは相性が良いし。
「じゃあ二人のパーティーに入るか」
「うん! ナイトーとリーナにはちょっと申し訳ないけど」
「パーティーに誘われた?」
「誘われたってほどじゃないけど、一緒にゲームを楽しもうねってリーナが言ってくれて」
そういえば俺もパーティー組まないのかって言われたな。でもあの二人はどんどん先に進んでレベル上げしたいって感じだったから、断ったんだよな。
「あの二人のプレイスタイルと生産職の俺らは同じパーティーでは合わないと思うから、たまに予定を合わせて一緒にゲームするぐらいで良いんじゃない? 俺らって拠点を持ちたい派だけど、あの二人は同じ場所に留まることはなさそうだし」
「……確かにそうかも。パーティーじゃなくても一緒にゲームはできるもんね」
「そうそう。ゲーム研究会でもパーティーを組んでることもあれば、パーティーは別の人と組んで、研究会の人とはたまに一緒に遊ぶぐらいって話も聞いたし」
やっぱりパーティーを組むと活動の方向性が一致してないと難しいから、仲が良いからってだけで決められないんだよな。
「じゃあ私たちはラッジとイリナとパーティーを組もうか」
「うん。そうするか」
そう結論づけた俺たちは不安げなイリナとラッジの下に戻り、これからお願いしますと二人に手を差し出した。すると二人はパァッと顔を明るくして、俺たちの手を取ってくれる。
「二人ともありがとう! これからもよろしくな!」
「こちらこそよろしく」
これからは二人と一緒に四人で活動するのか。この先の冒険者生活が楽しみだ。
「二人は別の世界も巡ってみたいって言ってたよな? 実は俺らも他の世界でしか採取できない希少素材も狙いに行きたいと思ってるんだ。だから、近いうちにリーングスを出ないか?」
「そうなんだ。私は大賛成だよ」
ラッジの提案にハナが楽しそうに頷くと、ラッジは顔をでれっと崩れさせた。
「じゃあその予定にするか。イリナとマサトもいいか?」
「私は良いぞ」
「俺も」
俺とイリナが苦笑しつつ頷くと、ラッジはやる気満々で握った拳を空に掲げた。
「明日からさっそく準備だな! どの世界に行きたい? やっぱりデカい世界か?」
「そうだね。私とマサトは工房を拠点として持ちたいから広い世界のほうが良いかな。その世界でいろんな素材が手に入った方が便利だと思うし」
「そうだな。さらに大きな街が良いな」
「行き先もちゃんと選ぼう」
それから俺たちはイリナの部屋に着いてからもこれからについて楽しく語り合い、夜遅くまでその熱気は途絶えなかった。
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2章は拠点決定編となる予定ですので、楽しみにお待ちいただけたら幸いです。
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