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34、講義と新エリアに関する話

 眠い目を擦りながら朝食を食べて大学に向かった俺は、一限の授業が行われる大講義室で拓実と梨奈と一緒に後方の席に座っている。


「ふわぁ、眠い……」

「昨日は遅くまでゲームやってたんか?」

「確か華と新たな素材探しに街を巡るとかって言ってたっけ?」

「そう。その流れで特殊クエスト? が始まって、家帰ったらまたすぐにログインしないとなんだ」


 俺のその言葉に二人はぐいっと両側から身を乗り出して、全く同じセリフを口にした。


「「クエストの内容、詳しく!」」

「分かった分かった。話すからちょっと離れて」


 俺は両手で二人を押し返すと、まだ講義が始まるまで五分以上あることを確認してから、二人にこの二日間で起きたことを説明した。


「――錬金術師と薬師限定のクエストなのか?」

「それにポーションがないって話がこのクエストの元になってるよね。ということは、ポーションが買えないのもこのクエストの一部ってこと?」

「いや、こんな限定した職業のやつしか受けられないクエストに全体を巻き込むか? というか俺ら華からポーション買ったよな? ちょっと悪いことしたな。そんな病気の人たちがいるなんて知らなかった」


 拓実のその言葉に梨奈も頷いて、真剣な表情を浮かべている。俺はそんな二人の顔を交互に見て、一つだけ話してない情報を今話してしまおうと決意した。


「あのさ、このクエストを進めてる最中に凄いことがあったんだけど、とりあえずあんまり広めたくないからここだけの話にしてくれる?」

「……なんだそれ。そんなに重要なことなのか?」

「攻略サイトとかにも載ってないようなことってこと?」

「調べた限りではなかった」


 攻略サイトにないってその言葉に二人は瞳を輝かせ、前後左右に話を聞いてる人がいないことを確認してから俺に顔を近づけた。


「何があったんだ?」

「実は……リーングスの街のマップが広がった。普通ならいけないところに行けるようになったんだ」

「……はぁ!?」


 拓実が講義室に響くような声で叫んだので、俺は慌てて拓実の口を手で塞いで小声で「うるさい!」と注意をした。すると拓実はバツが悪そうに俺の手を掴んでどかす。


「ごめんごめん。あまりにも衝撃的すぎて」

「それってどういうこと? リーングスのマップって、冒険者ギルドで地図を見ると全部が開くよね?」

「そう。そのマップの外側があったんだよ。俺も全く探索とかはできてないんだけど、住宅街がメインかな。多分リーングスの本当の広さは、皆が思ってるものの倍ぐらい」

「マジかよ……」


 そこまで話したところで講義室前方のドアがガラッと開き講師が入ってきた。そしてそのすぐ後に講義開始のチャイムが鳴り響いたので、俺達はとりあえず講義に集中することにした。



 それから一時間半。講義が終わったところで、二人から俺にクレームが入った。


「真斗が衝撃的な話をするから全く内容が頭に入らなかったじゃねぇか!」

「ははっ、ごめん。昼休みとかにすれば良かったな」

「一般教養で良かったよ。この講義ならまだレジュメとか見直せばなんとか理解できるだろうから」

「梨奈……テスト前に分からなかったら教えてくれ!」

「はいはい。分かったよ」

 

 拓実の切実なお願いに梨奈が苦笑を浮かべつつ頷き、俺たちは講義室を後にした。そして全員二限の講義がなかったので、混む前に早めにと食堂へ向かう。


「そういえば、華ってさっきの一般教養の講義取ってないんだな」

「華は学部の専門科目があるらしいよ」

「薬学部なんだもんね」


 食堂に着いてまだご飯には早いからと飲み物だけ買って席に着くと、さっそく拓実がぐいっと身を乗り出した。


「それで、さっきの話はどういうことだよ」

「俺もよく分からないんだ。ただ華と一緒にSNSを調べたら他にもマップが広がった人がいて、その人曰く他の人はマップが広がった人が案内しても、新たに解放された部分には入れなかったって」

「そうなのか。条件は真斗たちが受けたクエストか?」


 俺は拓実のその言葉に首を横に振る。


「その人は違ったらしい。師匠の鍛冶師の家に呼ばれたんだってさ」

「クエストでもないってことか?」

「そうみたい。今のところ共通点は、NPCに案内されたってところだな」


 やっぱりこうして改めて説明してみても、不思議なマップ開放条件だよなぁ。あまりにも不明確で、それを成し遂げられる人が少なすぎる。

 ゲームの制作側としては、せっかく作ったマップをほとんどの人が解放もできないなんて本意ではないだろうし。


「なんかさ、このゲームってNPCがリアルすぎるというか、NPCの感情があまりにもゲームの内容に関わりすぎてると思わない? リアルな世界にするためって言われれば納得するしかないけど……」

「いやほんとそれ、マジでリアルすぎるよな。全NPCを人が操ってるって言われた方が納得できるぜ」


 拓実の言葉に俺と梨奈は深く頷いた。それは現実的にあり得ないことだっていうのは分かるけど、そう思っちゃうぐらいNPCが一人一人生きてるんだよな。


「俺が仲良くなったNPCの冒険者パーティーがあるんだけどよ、そのパーティーメンバー全員の生い立ちから現在まで、さらには食の好みとか好きな色とか、そんな細かいところまで設定されてるんだぜ?」

「本当に凄いよなぁ」


 ただこの話は世界中のあらゆる場所で話題になってるだろう。今の段階で結論は出ない話題だよな。


「凄いよね。だからこそあのゲームは面白いんだけど」

「なっ、他のゲームとは一味違う。前に俺がやってた魔法使いの国っていうゲームがあるんだけどよ、あれなんてさぁ……」


 それから俺たちはいろんなゲームの話で盛り上がり、二限終わりの人たちが来る前にと早めに昼食を食べ、それぞれ三限の別の講義に向かった。

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