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33、リーングスへ帰還

「これからまだ長い距離を歩かないとだし、この辺で休憩がてらお昼にする?」


 昼食は村に出ていた屋台でサンドウィッチを買ってインベントリに入れてあるので、食べる物はあるのだ。


「それが良いかもな。あの辺の岩場にするか」

「良い場所だな」


 全員で魔物が周囲にいないかを確認して、問題なさそうだったので岩に腰掛けた。そしてインベントリからサンドウィッチを取り出して、一人に一つずつ渡す。ラッジだけは二つだ。


「やっぱりインベントリってやつは凄いな」

「本当に便利だよね」

「マサトたちの世界の人間は、全員がインベントリ? って能力を持ってるんだよな?」


 イリナがサンドウィッチを美味しそうに頬張りながら発したその言葉に、俺は頷いて答える。


「全員持ってるよ。この第五世界の人たちは、そういう能力はないんだよな?」

「私が知ってる限りではないな。インベントリに似た技術として容量以上のものを収納できる倉庫があるが、あれはかなり大きなもので持ち運ぶのは不可能だ。多分他の世界でもないと思うし、マサトたちの世界だけだと思うぞ」


 それは俺たちがプレイヤーだからなぁ。確かこのゲームには十二個の世界があって、それぞれが転移で行き来できるんだよな。そしてそんな世界と新たに繋がったのが、俺たちプレイヤーが生まれた世界。ってことになっている。


「マサトたちの世界は滅亡寸前って聞いたけどよ、異世界人は強いやつらばっかりなのに、なんで滅びそうになってるんだ? インベントリとか便利な能力も持ってるし、それによく分からねぇけど、死んでも生き返れるんだろ?」


 ラッジが不思議そうな表情で発したその言葉に、俺とハナは顔を見合わせる。そういえばそんな設定あった気がするけど、理由なんて知らないな……


「生き返れるのは、無制限ってわけじゃないんだ。俺たちも完全に理解してるわけじゃないけど、色々な条件とかもあって……」


 実際運営にアカウントを停止されたら、永遠にこの世界には来られなくなるし、あながち嘘でもない。


「そうなんか? でも条件付きでも生き返れるんだろ? そんなお前たちがこっちの世界に逃げてくるほどなんて、ヤバいよな」

「……えっとね、強い敵がいるというよりも、いろんな要因が重なって滅亡しそうになってるの。ほら、自然災害とか、それに伴う食料不足とか」


 ハナがなんとか絞り出した答えに、俺は何度も頷きながら内心で拍手をする。さすがハナ、頭が良い。この答えなら実際の設定があったとしても、それから大きく外れることはないだろう。


「そうなのか……大変なんだな」

「うん。でもこの世界での生活も楽しいから」

「それなら良かった」


 ハナの言葉を聞いて、イリナとラッジは安心したように頬を緩める。本当にこの二人って良いやつらだよな。


「そのうち別の世界にも行ってみたいよな」

「うん! もっと大きな世界もあるみたいだし、楽しみだよね」


 それからも俺たちは楽しく談笑しながらサンドウィッチを味わって、休憩を終えてからはまたリーングスに向かって歩みを進めた。


 そして数時間後。空が茜色に染まり始めた夕方に、俺たちはリーングスに到着した。


「やっと着いたな」

「予想以上に早く戻ってこられて良かった」

「マサト、融解ポーションはいつ頃に出来上がる? できる限り早く作ってくれるとありがたいんだが……」


 ラッジが申し訳なさそうに問いかけたその言葉に、俺は前に作った時のことを思い出す。あれは意外と完成までに時間がかかるし、魔力も多く必要なんだよなぁ。

 五個作るとなると……これから二個作って、明日ログインしてから残りの三個かな。でもそれには魔力を素早く回復させる手段が必要だ。


「ハナ、魔力回復ポーションって持ってる? できれば売って欲しいんだけど」

「もちろん良いよ。えっと……三本しかないんだけど大丈夫?」


 おおっ、それなら二日に分けて五本作るのにぴったりの数だ。


「三本で大丈夫。ありがと」

「マサト、金は俺が出すぞ。急いで作ってもらうのはこっちだからな」

「……良いの?」

「もちろんだ」

「じゃあ、お願いしようかな。できる限り早く作るよ」

「頼んだ」


 俺はラッジの好意を素直に受け取って、ハナから魔力回復ポーションを渡してもらった。これであとは俺が頑張って作るだけだ。


「じゃあまた明日……夕方六時ぐらいにはできると思うから、イリナの部屋まで持って行けば良い?」

「ああ、それで頼む」

「分かった」


 ラッジとイリナと手を振って別れた俺たちは、俺とハナの宿が同じ方向だったので一緒に途中まで向かう。


「明日は私も一緒に行くからね」

「分かった。じゃあ待ち合わせしようか。融解ポーションを作り終わったらフレンドチャット送るので良い?」

「うん。それで良いよ。午後五時ぐらいまでにはログインしてるから、いつでも送って」

「了解」


 明日は忙しいな……大学の講義も真剣に受けないとだし、このゲームをやってると二つの人生を同時に生きてる感じだ。


 ハナと曲がり角でまた明日と別れた俺は、宿に戻ってさっそく融解ポーションを二つ作成し、二つ目が出来上がったところでかなり夜遅くなっていたので、すぐにログアウトして眠りに落ちた。

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