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32、ラナック討伐

 枝の上に三匹で並んでいるラナックは全く動く気配がない。あれはこっちに気付いてるから警戒して動かないのか、それとも気付いてなくてただ呑気なのか……どっちなんだろう。


「これからどうするんだ?」

「……私が風魔法で攻撃する。それで逃したやつはラッジが追いかける」

「あんな小さいのに風魔法が当たるのか?」

「気付かれてなくて相手が動かなければな。ただ……あのラナックはこっちに気付いている。基本的にラナックは生き物が周りにいると無機物に擬態したいのか、全く動かなくなるんだ。それで近づいてきた相手に向かって一気に攻撃を仕掛ける」


 マジか……ラナック怖いな。全く動かない黒い毛玉があったら、ラナックの存在を知らなければ安易に手を伸ばしてしまいそうだ。


「気づかれてるなら避けられちゃうってこと?」

「一撃目はな。それで動き出したラナックにどこまで当てられるかが勝負だ」


 イリナはニヤッと好戦的な笑みを浮かべると、ラッジと視線を合わせてから風魔法を放った。

 すると放たれた風の刃はラナックがいた場所へと正確に向かい……しかし当たる直前で、ラナックが四方に散って刃を避けた。


「そこだっ!」


 ただ逃げられてそこで終わりではなかった。逃げたラナックの動きを読んだイリナが先回りして風の刃を放ち、それがラナックに命中する。

 さらに地面へと飛び降りて逃げようとしたラナックは、ラッジの剣で地面と縫い付けられた。


「一匹は逃げられたか……」

「仕方ねぇな。二匹は良い成果だろ」


 二人は討伐したラナックを回収し、お互いを讃えあうようにパチンッと小気味よい音を響かせて手を合わせた。


 凄いな……めちゃくちゃカッコいい。こういうところを見ると、戦闘職に惹かれるな。


「二人とも凄いね!」

「お疲れ様。本当に凄かった」

「へへっ、ありがとな」

「失敗しなくて良かったぜ」


 二人は照れたようにはにかむと、手に持っているラナックから角だけを切り落とした。


「はいマサト、仕舞っておいてくれるか?」

「了解。それにしても俺らは、本当に荷物持ちしかできなさそうだな」

「本当だね。動きが早過ぎて目で追うのがやっとだったよ」


 俺なんて目で追えてたかどうかも定かじゃない。黒いのが飛んだかな……ぐらいの認識だ。


「ラナック討伐は単純な強さじゃなくてセンスが必要だからな、戦闘職でもない二人に難しいのは仕方ない」

「五匹ぐらい俺らがすぐに倒すから大丈夫だ」


 ラッジが頼もしい笑顔でそう言って、俺たちはまた次の獲物を見つけるために森の奥へと向かった。


 

 それから約二時間、予想以上のペースでラナック討伐に成功した俺たちは、お昼を前にして目標である五つの角を手に入れることができた。


「かなり早く終わったな。これからどうする? もし疲れてなければ、これからリーングスに帰るのもありじゃないか?」

「確かに今から帰れば、夕方過ぎにはリーングスに着けるな」

「あれ、宿って今夜の分はお金払ってないんだっけ?」

「ああ、混んでて部屋が見つからないってことはなさそうだったし、とりあえず一泊だけにしておいたんだ」


 それなら帰るのに何の支障もないな。明日は大学があるからログインできるとしても午後三時以降だし、これからリーングスまで帰れるならその方が良い。


「俺は帰るのに賛成」

「私も賛成かな。明日は午後にならないと活動できないし」

「そういえばそうだったな。よしっ、じゃあこれから帰るか」


 ラッジのその言葉に皆が頷き、俺たちは早く帰るためにまずはラナック生息域の出口に向かった。そして討伐数に応じてお金を払って、そのままリーングスに足を向ける。


「イリナ、討伐数に応じて退場時に支払うお金って、インベントリがある俺たちはいくらでも誤魔化せない?」


 リーングスに向かいながらさっき思いついた疑問を口にすると、イリナは微妙な表情で頷いた。


「そうなんだ。今まではあの仕組みで上手く回ってたんだけど、今は異世界人が来るようになったことで、やっぱり討伐数より流通数の方が多くなったりしてるらしい。だから頻繁に来る異世界人には監視をつけたり、ラナックの角を大量に売った人物はリスト化したり、色々と対策をしてるみたいだぞ」

「……なんか、申し訳ないな」


 今まで上手く回ってたところを、俺たちが掻き回してるってことだもんな。


「ははっ、別にマサトが不正なことをしてるわけじゃないだろ?」

「それはそうなんだけどさ、同郷だから」

「マサトは良いやつだな。……でもそんなに気にしなくても良いと思うぞ。異世界人が来たことで生まれた弊害はもちろんあるが、利益も大きい」

「確かにそっか」


 プレイヤーは金遣いが良いもんな。生活費が掛からないから、いわゆる贅沢品を買うハードルがかなり低いのだ。


「そういえば、俺たち昼飯食ってなくねぇか?」


 ラッジが唐突に発したそのセリフに、俺とハナはハッと気付いて慌てて足を止める。ゲームの中は空腹感がないから完全に忘れてた……!

 イリナとラッジは食事が必要なのに。申し訳ないことをしたな。

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