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31、ラナック発見

「お待たせ」


 俺たちが戻ると、ハナとラッジはフォレストスネークと戦っているところだった。しかしただの戦闘ではなく、ラッジがハナにナイフの使い方を教えてるらしい。


「ハナ、肩に力が入りすぎてる。もう少しリラックスしろ。後はナイフを握る手にも力を入れすぎだ」

「えっと……こんな感じ?」

「そうだ。それでナイフは大振りで振り下ろすんじゃなくて、最小限の動きで急所を狙う。フォレストスネークなら頭だな」


 ラッジが自分の剣でフォレストスネークを牽制しつつ、丁寧に戦いの基礎を説明している。ラッジって面倒見が良いやつなんだな。


「あからさまだなぁ」


 俺がそう感心していたら、隣のイリナから呆れた声が聞こえてきた。


「どういうこと?」

「ラッジは誰にでもあんなに優しく教えたりしない。ハナのことを気に入ってるんだろう」

「え、そうなんだ。まあ確かに、ハナは優しいし話してて楽しいもんな」

「それにハナはラッジの好みにピッタリなんだ。あいつはハナみたいな控えめでお淑やかな女が好きだからな」


 マジか……これってどうすれば良いんだろう。ラッジにハナは諦めろとか言うべき? でも俺が口出すのもな……

 そもそもNPCに恋心とかあるのだろうか。もしかしてこれもクエスト?


「マサトはハナと付き合ってるのか?」

「ううん。ただの友達」

「それを聞いたらラッジは喜ぶなぁ。あいつ、マサトとハナの関係性を気にしてたから」

「……そうなんだ」


 このまま仲良くしてたら、ラッジがハナに告白する可能性もあるのだろうか。なんか……本当にここがゲームの世界だと思えなくなってきた。

 

 ――考えすぎてあたまがショートしそう。


 とりあえずこの件は二人に任せるか。もしハナから何か相談とかされたら、それから考えよう。


「おっ、今のは良かったぞ!」


 俺が様子見と結論付けたところで、ハナがちょうどフォレストスネークを倒すことに成功したらしい。


「やった! ラッジ、教えてくれてありがとう」

「いいってことよ。ハナはナイフの使い方、才能あるな」

「本当? じゃあこれからはナイフの練習も頑張ってみようかな」

「それがいいと思うぞ」


 ラッジのその言葉にハナが満面の笑みを浮かべて、その笑顔にラッジがボケっと見惚れたところで俺は二人の間に割って入った。


「二人ともお疲れ。ハナ凄いな」

「マサト! 私でも倒せたよ。……このゲームって、生産職でも練習すれば武器は上達するんだね」


 後半の言葉は俺の耳元で小声で発された。俺はその言葉に深く同意するように何度も頷く。このゲームは努力次第で色々とできるようになるんだよな。


「そこが面白いよな」

「ね!」

「じゃあ先に進むぞ。早く行かないとラナックを討伐する時間がなくなる」

「はーい」


 イリナの言葉にハナが楽しそうに答えて、俺たちはまたラナックの討伐場所に向かって歩みを進めた。


「おおっ、立派な門があるんだね」

「討伐場所全体が木の柵で覆われてるんだ。あそこで入場料を支払う」


 そう言ってイリナが指差した場所は、動物園とかテーマパークの入り口みたいになっていた。それよりもかなりこぢんまりとしてるけど、ちょっとテンションが上がる。


「千ペルグです。一人ずつ支払いをお願いします。討伐数に応じた追加の支払いは、そこに表があるので各自確認してください」


 受付の女性のそんな声が聞こえてきたので、俺たちはそれぞれ千ペルグを握りしめて列に並んだ。そして数分待っていると順番が来たので、お金を払って中に入る。

 

 入り口の先に広がっている光景は……さっきまで歩いてきた草原と何ら変わりはなかった。少し先に森が見えるところが違う程度だ。


「ラナックはあの森にいるのか?」

「そうだぜ。……そういえば、マサトとハナはラナックを見たことあるのか?」

「いや……そういえばなかった。調べる時間もなくリーングスを出発したからな」

「そうだよな。ラナックは両手のひらに乗るぐらいの小さな黒い魔物で、体の倍近い大きさの角を持つ。とにかくすばしっこくて攻撃を当てるのが大変なんだ。攻撃が当たりさえすればすぐに倒せる。素早さを武器にした鋭い角での攻撃は当たるとかなり痛いから気を付けろ」


 両手に乗るサイズの魔物か、イメージできないな。それに角が体の倍の大きさっていうのも不思議だ。よくそれで素早く動けるよな。

 確かに買ったラナックの角は大きい割に軽かったけど。


「ラナックって虫なの?」

「いや、魔物だぞ。ただ体のほとんどが毛玉みたいな感じだから、特殊な種類の魔物だな」


 ハナの質問に答えてくれたラッジの説明で、よりラナックという生物のことが分からなくなる。ほとんど毛玉で生物なのか?

 

「なんだか不思議な魔物なんだね。とりあえず、早く探そうか。実物を見るのが早い気がするし」

「そうだな」


 それから俺たちは無駄口を叩かず真剣にラナックを探して草原から森に入り、数十分探索したところで……イリナが俺たちの足を止めた。


「ラナックだ。斜め右前にある大木の枝の上に三匹いる」


 イリナが教えてくれた木をさりげなく見てみると、確かに枝の上に小さな黒い何かが三つ見える。あの大きさですばしっこいと、討伐は難しそうだな。

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