3、冒険者ギルド
冒険者ギルドの中は数人のプレイヤーとギルド職員がいるだけで、意外と静かだった。ここは最初の村だから、長期滞在する人はあまりいないのかもしれない。
ただ壁に掲示板がありそこには依頼書が貼られ、さらには酒場が併設されている。そんな想像通りのいかにもな冒険者ギルドに、俺はテンションが上がって軽い足取りで中に入った。
「ユーテ村の冒険者ギルドへようこそ」
「こんにちは」
受付の綺麗な女性に声を掛けられたのでそこに向かうと、女性はにこやかな笑みを浮かべてくれる。
「冒険者登録をされますか?」
「はい。登録したいのですが、お金などは掛かりますか?」
「千ペルグいただいております」
「分かりました。では登録をお願いします」
俺のその言葉を聞いた女性は笑顔のまま頷くと、登録の書類を出して俺にいくつかの質問をした。本当に簡単なもので、名前や出身地、得意な武器や魔法などだけだ。俺は得意な武器や魔法なんてまだ分からないし、出身地も異世界なので、実質名前しか聞き込むところはないようだった。
そんな簡単な受け答えを経て少しだけ待っていると、冒険者登録証が手渡された。木製で簡単なものだけど、俺の名前が刻まれていて気分が上がる。
「こちらの冒険者登録証をお持ちいただければ、ギルドの依頼を受けていただくことが可能です。基本的にはどの依頼の受注も可能ですが、依頼中の事故などの責任を冒険者ギルドは一切負いませんので、自己責任で依頼をお選びいただくようお願いいたします。一定以上の貢献をしてくださった方にはプラチナ冒険者という称号が与えられ、報酬が一割上乗せされますので目指してみてください」
プラチナ冒険者、凄く惹かれる名前だ。生産職では難しいかもしれないけど、いつかは手に入れてみたいな。
「何か質問はございますか?」
「そうですね……この村には宿屋があるでしょうか。その場所とナイフなどが売っている道具屋の場所を教えていただきたいです」
「かしこまりました。それではこちらの地図をご覧ください」
そう言って差し出された地図を覗くと……その瞬間、ウィンドウにピコンとお知らせマークがついた。見てみるとマークが付いていたのは地図の項目で、ちょうど今目の前にあるこの街の地図の分だけ更新されたようだ。
実際に俺が行った場所と地図を見た場所は、いつでもマップから確認できるってことかな。
「宿屋はこちらとこちらにございます。異世界からの来客が増えた為、かなり大きな宿となっております。それから道具屋はこちらです。しかしナイフでしたらこちらの武器屋がよろしいかと思います」
道具屋と武器屋はかなり近くにあるみたいだ。これならどっちも覗いてみれば良いかな。宿屋は二つあるうちの一つがお店に近いので、まずはそっちを訪ねてみよう。
このゲームをするにあたって一番気をつけないといけないのはログアウト場所で、宿屋や自分で購入した家、または借りている部屋、そういう場所以外でログアウトすると三十分経過と共に自動で死亡判定になってしまうらしいのだ。だから宿屋の確保はかなり重要になる。
今の俺ならまだ何もインベントリに入ってないから良いけど、死に戻りをするとインベントリの中身は全てが死亡場所にばら撒かれてしまうそうなので、ゲームをやり込むほどに気をつけないといけない。
ゲームだし痛くないし死んだらセーブポイントまで戻れて転移アイテムの節約になるし、そんなふうに考えて自分から魔物に突っ込んでいっていた、別のゲームみたいな無謀なやり方はできないのだ。
「ありがとうございます。武器屋も行ってみます」
それからも受付の女性と少しだけ言葉を交わした俺は、一番最初の依頼ということで簡単そうな薬草採取を受注して、冒険者ギルドを後にした。
ウィンドウでは受注しているクエスト一覧のタブにお知らせマークがついていて、Newという印付きのクエストが表示されている。
それを開いてみると……
クエスト:薬草を採取せよ
内容:冒険者ギルドの常設依頼でヒーリ草を探しているようだ。五本見つけてギルドに持っていこう。
報酬:300ペルグ
いかにもなゲームのクエスト画面が出てきた。こういうのってテンション上がるんだよな。特に新しいゲームを始めた時は。
さて、さっそく道具屋で採取用のナイフを買って、宿屋で部屋を借りたら近くの草原に行ってみよう!
俺はウィンドウで開いたマップを頼りにして村の中を歩き、問題なく武器屋に辿り着いた。その武器屋はこぢんまりとしていたけど、狭い店内には武器が所狭しと並べられている。
「いらっしゃい。何をお探しかな?」
奥から出てきたのは優しそうな老年の男性だ。白髪を綺麗に撫で付けた男性は、カウンターから出て俺のところに来てくれる。
「採取用のナイフを探しています。それから魔物に出会った時に自衛できる武器が欲しいのですが……」
物理攻撃系の職業でなくても武器を装備することはもちろん可能なので、できれば使いやすいやつを一つ持っておくべきだろう。ただ手持ちの金額で揃えられるかが心配なところだ。
「君は……見たところ初心者だね? それなら武器はこの短剣かな。ナイフはそこにある三つから使いやすいのを選んだら良い」
「ありがとうございます。軽く振ってみて良いでしょうか?」
「もちろんだよ」
俺は男性が笑顔で頷いてくれたのを確認して、まずはナイフから手に取った。