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28、一度ログアウト

 ふわっと体が浮くような感覚の後に覚醒して、俺はゲーム用のソファーから起き上がった。固まった体をほぐすようにぐいっと伸びてから、近くのテーブルの上に置いてあった水を飲み干し、トイレに向かう。


「マサト〜、お夕飯は食べるの?」

「食べるー!」


 二階でバタバタと動いていたら下から母さんの声が聞こえてきたので、それに答えてタンスから着替えを引っ張り出して下に降りた。


「母さん、夜ご飯もうできてる?」

「うーん、あと十分はかかるわね」

「じゃあ先にシャワー浴びてくる」


 ゲームの後で風呂に入るのは面倒なので、先に入っておいた方が良いのだ。


 ざっとシャワーを浴びて肩にかけたタオルで髪を拭きながらリビングに戻ると、ちょうど料理が完成したところだったらしい。父さんがテーブルを拭いて食事を運ぶ準備をしていて、未来はソファーに寝転んでスマホを見ている。


「マサト、これ運んでくれる?」

「はーい。おい未来、お前も運べよ」

「え〜、疲れたから無理〜」


 いつも通りのそんな会話をしながら母さんが作った美味しそうな食事を運んでいると、未来に胡乱げな瞳を向けられた。


「なんかお兄ちゃん、最近率先してうちのことやるよね? 何か企んでる?」

「いやいや、そんなことないし。普通に手伝うべきだろ」


 まあゲームばっかりやってることに対して、文句を言われないようにって打算もあるけど……


「な〜んか怪しいよね」

「未来ー、そんなこと言ってないであなたも手伝いなさい! 夕食のコロッケ一つ減らすわよ」

「それは嫌だ! 手伝うから減らさないで〜!」


 未来がやっとソファーから起き上がったところで、父さんが未来にコップと箸を手渡した。


「未来、これを並べて」

「はーい。そういえばお父さん、今日は何してたの?」

「今日は母さんと映画を見に行ったんだ」


 土日は基本的に父さんの仕事が休みなので母さんも仕事を入れないようにしていて、二人でよく出かけている。


「そうなんだ! どれ見に行ったの?」

「未来は興味ないと思うぞ? 洋画の字幕だからな」

「何だ〜。昨日公開の恋愛映画じゃないの? 私あれ見たいんだよね」

「あら、未来も見たいの? 今度お母さんと行く?」

「本当!? 行く行く!」


 未来は母さんと一緒に行くことで懐を痛めずに映画が観れるからか、飛び上がって喜んでいる。母さんが嬉しそうだから良いけど、我が妹ながら現金なやつだ。


「お父さんも一緒に行く? お父さんは違う映画観てさ、夜ご飯を食べて帰るのもありじゃない? 駅前に新しくできたイタリアンレストラン、ピザの食べ放題と半パスタのセットを期間限定でやってるんだって!」

「へ〜そうなのか。それは一度行ってみたいな」

「それ良いわね。今度行きましょうか。真斗も行く?」

「うーん、何も予定がなかったら行く」


 そんな話をしながら準備を済ませ、さっそく夕食だ。今日の夕食は母さんの得意料理であるかぼちゃコロッケらしい。母さんのかぼちゃコロッケ、めちゃくちゃ美味いんだよな。

 ソースをかけて口に運ぶと、サクッとした食感の後にかぼちゃの甘味と塩味、さらには肉などの旨みも感じられて絶品だ。


「めちゃくちゃ美味い」

「良かったわ〜。ちゃんと野菜も食べるのよ」

「はーい」

「お母さん、マヨネーズかけても良い?」

「別に良いけど、未来は本当にマヨネーズが好きよね」

「父さんはソースとマヨネーズ両方だ」

「お父さん、ちょっとかけすぎよ。体に悪いわ」


 父さんは楽しそうにソースとマヨネーズをコロッケの上で混ぜて、母さんに注意されてちょっと落ち込んでいる。確かに父さん、それはかけすぎだよ。


「ご馳走様でした」


 味わいながらも急いで夕食を食べ終えた俺は、手を合わせてすぐに席を立った。そして綺麗に食べ切った食器をシンクに運ぶ。


「もう食べたの? 早食いは体に良くないわよ」

「ごめん。今日はこれから予定があるんだ」

「またゲーム?」

「そうだけど、友達と約束してるんだよ。じゃあ二階行くな」

「ゲームは程々にしなさいよ」


 母さんからちょっとだけ小言をもらった俺は、階段を二階まで駆け上がった。時間はまだ三十分ぐらいしか経ってない。一時間もあれば余裕だったな。


『俺もうやること終わったからログインするけど、華はどう?』


 ログインする前にと華にチャットを送ってみると、すぐに既読がついた。


『私も今ちょうど部屋に戻ったところだよ。あのさ、あと三十分ぐらいあるし、リーングスの街のマップのことを調べてみない?』

『確かにありかも。気になってたんだよな』

『だよね。電話して良い? 調べながら話そ』

『おっけー』


 そのチャットから数秒後、華から電話が来たのでそれに出ながらパソコンを起動した。


「もしもし」

『あっ、もしもーし。聞こえてる?』

「ははっ、もちろん聞こえてる。それでリーングスの街についてだよな。俺は攻略サイトを見てみるから、華はSNSとかで検索してみてくれる?」

『りょーかい!』


 よく見ている攻略サイトを開いて検索バーにリーングス、マップと入力して検索を押してみると、ずらっと記事が出てくる。

 

 リーングスのマップは冒険者ギルドで手に入る!

 美味しい食べ物 リーングス編

 リーングスのデートコース!


 リーングスの街のマップが突然広がるみたいな記事はないな……俺たちがあのクエストを受けた第一号で、あのクエストでしかマップが広がらないとか?

 いや、さすがにそれはないよな……だって俺はゲーム発売から半年のタイムラグがあって始めたんだから。


 それにあのクエストでしかマップが広がらないなら、薬師か錬金術師以外の職業じゃ無理だってことになる。

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