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27、村に宿泊

 二人が手を挙げてこちらに合図をしたのでハナと共に二人の下へ向かうと、ワイルドボアはかなり大きな個体だった。


「倒したぜ」

「二人とも強いんだな。ありがとう」

「カッコ良かったよ」


 ハナがワイルドボアから剣を引き抜いているラッジに向かってそう微笑むと、ラッジは照れたように首の後ろに手を当ててはにかんだ。


「このぐらいは当然だ」

「なんだラッジ、照れてるのか?」

「そ、そんなんじゃねぇよ! それよりも早く解体するぞ」


 イリナに揶揄われたラッジは顔を赤くして叫ぶと、剣を仕舞ってナイフを取り出した。そして照れ隠しなのかさっそくワイルドボアにナイフを差し込もうとしたところで、それを俺が止めた。


「ちょっと待って。ここで解体する? 俺たちならインベントリに入れてそのまま持ち帰れるけど」

「そんな能力があるんだったな……これをそのまま持ち運べるとか、凄いな」

「便利なんだ。だから村や街に帰って落ち着いたところで自分で解体することも、冒険者ギルドに解体を頼むこともできるよ」


 俺のその言葉に少しだけ悩んだ二人は、解体は後ですると決めたらしくナイフを仕舞った。


 ――良かった。さすがに最初よりは慣れてきたけど、まだ目の前で解体を見るのはできれば避けたい。


「じゃあまた村に向かうか。五時間っていうのは解体の時間も考慮してだから、このペースならもう少し早く着くかもしれないぞ」

「それなら暗くなる前には確実に着けるな。ワイルドボアは俺が持っていくよ」

「ああ、ありがとな」


 そうしてワイルドボアをインベントリに仕舞って、俺たちはまた村に向かって歩き始めた。

 そしてそれからも襲ってくる魔物を撃退しつつ足を動かし続けていると……ついに村が見えてきた。


「凄いね。村にしては建物がたくさんありそう」


 ハナが思わずと言った様子で呟いた言葉に、俺は頷いて同意を示す。ラナック村と呼ばれているらしい目の前の村は、長閑な田舎の村という様子では全くない。

 しっかりとした作りの塀に囲まれていて、開け放たれた門から見える中には石造りの建物が密集しているようだ。


「こういうのって、街って言うんじゃないの?」

「やっぱりそう思うよな。でも街にするには人口が足りないらしいぞ。ここにいるのは大多数がラナックを狙ってやってきてる冒険者だからな」

「そうなんだ……」


 この建物は多くが宿泊施設になっていて、人はたくさんいるけど住人じゃないってことか。観光客が集まるなら観光客向けの店がたくさん作られて住民も増えるんだろうけど、冒険者が集まるだけだと微妙なんだろうな。

 冒険者ってあんまり金に余裕ないし、あるとしても酒場で使うぐらいだから。宿に泊まると宿併設の食堂で飲食は済ませることが多いし。


「どこの宿に泊まるの?」

「うーん、どこでも良いけど、私たちが前に泊まったところに行ってみるか? 普通に快適だったしご飯も美味しかった」

「そうなんだ。じゃあ案内をお願い」

「おうっ」


 ラッジとイリナの案内で大通りを進んでいくと、左右に比較的広い通りが伸びた広場に出た。その広場を右に曲がってさらに一分ほど進むと、右手側にあるのが目的の宿屋だ。

 その宿屋は他の宿屋より少しだけ小さい建物だけど、清潔感があって見た目は悪くない。


「こんにちは。今日って部屋は空いてる?」

「いらっしゃいませ〜。空いてますよ。何名ですか?」

「四人なんだ。できれば一人部屋を四つ借りたいんだが」

「分かりました。えっと……二部屋ずつ違う階で良いなら空いてますね」


 宿の女将さんのその言葉にラッジが俺たちを振り返ったので、俺は問題ないと伝えるために頷いた。するとハナも同じように頷いたようで、ラッジが四部屋を借りる手続きを済ませてくれる。


「ありがとうございます。こちら部屋の鍵です。無くさないように気をつけてください。夕食は付いてますので、一時間後ぐらいに一階の食堂に来てください。朝食は有料ですが、朝早くから食堂は開いてます」


 そんな宿の説明を軽く受けて、俺たちは各々部屋に向かうことになった。二階の二部屋が俺とハナで、三階の二部屋がラッジとイリナだ。


「じゃあ二人とも、また夕食の時にな」

「分かった。あと一時間後だな」

「遅れるなよ」

「もちろん」


 四人でそんな会話をして二人と別れた俺とハナは、部屋番号を見ながら二階の廊下を歩いていく。


「夕食までの間に一度ログアウトするか。今日一回もしてないから体に悪いよな」

「そうだね。向こうでも夜ご飯を食べないと」

「母さん、もう夜ご飯作ってるかなぁ。ハナも実家だよな? 遅れそうだったら連絡して。俺も連絡するから」

「分かった。二人とも遅れそうだったら、一瞬だけログインして二人に先に食べててって伝えようか」

「それが良いな」


 プレイヤー同士で動くのならこの辺の配慮は必要ないけど、NPCと行動するとなると結構大変だ。ラッジとイリナに現実の体に悪いから一度ログアウトしてくるなんて言えないしなぁ。

 ちょっと眠いから寝るっていえば良いのかもしれないけど、突然街の外で魔物がいるのに仮眠取るとか変なやつすぎるし。


「じゃあまた、一時間後ぐらいに」

「うん。またね」


 ハナと分かれて宿の部屋に入った俺は、すぐベッドに横になってログアウトした。

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