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25、知らないエリア

 ラッジの指示に従って路地を進んでいくと……俺は途中で衝撃の事実に気づいて、思わず足を止める。


「マサト、どうしたの?」

「ハナ……地図を見てみて。今俺たちが歩いてるところ、街の終わりの先なんだけど……」


 二人に聞こえないように小声でそう言うと、ハナは瞳を見開いてからすぐに地図を見てくれた。するとハナの地図でも、現在地は今までの地図では街の外だった場所らしい。


 この街の地図は冒険者ギルドに飾ってある街の全容を見たら、ウィンドウの地図も更新されたものなんだけど、確かに街の外壁を含めた街の全てが地図として見られるようになっていたはずなのだ。


 でも今俺が見ることができる街の地図は、描かれていた外壁が消えて、壁だと思っていたところに道が繋がっている。……こんなことってあるのか?


「これってどういうこと?」

「……分からない」

「マサト、ハナ、どうしたんだ?」

「あっ、ごめん。すぐ行くよ」


 二人で立ち止まっていたらラッジとイリナに不審がられてしまったようで、少し先から声をかけられた。とりあえず今はこのクエストを進めて、あとでログアウトしたら調べてみるか。


「ハナ、この話は後でしよう」

「そうだね」


 今回俺たちが受けたクエストみたいに、決まったクエストを受けないと一部解放されない街があるのだろうか。

 でもそれならもっと話題になってても良い気がするけど……攻略サイトとかでこの情報を読んだことがない。俺はそこまで真剣に読んでないし、見落としただけかなぁ。


 

 それからも少し不思議に思いながらラッジに付いていくと、ある一軒家の前に辿り着いた。ここに住む家族の娘が魔力凝固症に罹っているのだそうだ。


「おばさん、いるかー? ラッジだ」

「ちょっと待ってくれるかしら〜」


 家の中からそんな声が聞こえてきて、数分待つと玄関の扉がガチャっと開いた。


「はい。待たせてごめんなさ……い。あら、随分とたくさんいるのね」

「突然来てごめんな」

「いえ、大丈夫よ。あの子はちょうど寝たところだから。何かあったの? もしかして……イリナさんの病状が悪いの? もしそうならうちはポーションに少しだけ余裕があるから、半分をうちの子とイリナさんで分けても……」


 女性が顔色を悪くして慌ててそんな提案を始めたところを、ラッジさんが女性の肩を掴んで止めた。


「おばさん、そっちじゃない。逆だ。めっちゃ良いニュースがあるんだよ。実はな、イリナは完治したんだ」

「こんにちは。イリナです」


 イリナはさっきまでの豪快さを潜ませて、女性を安心させるように微笑んだ。するとイリナをギョッとした瞳で凝視した女性は、しばらくして「本当かい?」と瞳に涙を浮かべる。


「本当だ」

「でも、融解ポーションが納品されるまで数ヶ月は先だって……」

「そうだったんだけど、奇跡的な出会いがあったんだよ。この二人なんだけどマサトとハナっていうんだ。マサトが錬金術師でハナが薬師。それでな、マサトが融解ポーションを作れるんだ」

「……そ、それは本当かい!?」

「おう、しかも依頼を受けたりしてない冒険者の錬金術師で、素材があればすぐにでも作ってくれるってよ」


 ラッジのその言葉を聞いて、女性の視線が俺たちに映った。


「ほ、本当に作ってくれるのかい?」

「はい。ただ今は素材の手持ちがないので、ラナックの討伐に行ってからになりますが」

「ありがとう……ありがとう! うちも数ヶ月待ちだったんだ。ラナック討伐なら一週間ぐらいだろう? それならポーションも今の手持ちでなんとか保つよ! 本当に、本当にありがとう……」


 女性はそこまで一気に話すと、その場にしゃがみ込んで泣き出してしまった。娘さんが病気で延命の薬が手に入らないかもしれないってなったら、その心労は計り知れないよな……


「大丈夫ですか? ポーションが足りなければ私に言ってください。手持ちで八本、足りなければヒーリ草も持っているので」


 それから女性が落ち着くのを待ち、ハナが女性にポーションを二本売ってその家を後にした。そしてそこからは、いくつか同じようにラッジの知り合いの家を周り、二時間ほどで全ての家を周り終えた。

 もうハナの手持ちのヒーリ草も少なくなってるので、早くラナックを討伐しに行かないといけない。


「ラナックはこの街からどのぐらい離れたところにいるんだ?」

「そうだな……急いで五時間ってところだな。近くに村があるから今夜はその村まで行ったら宿をとって、明日の朝早くから討伐が一番だ。明日一日で討伐が終わったら、明後日の朝に村を出て街に帰ってくる日程になる」


 明後日か……明日は休みだけど、明後日は大学なんだよな。このゲームは他のゲームと違って、ログアウトしてる間もずっとゲーム世界の時間は進んじゃうから、そこが現実の生活との兼ね合いで難しいところだ。


「ハナ、月曜の講義は?」

「一限と二限だよ」

「俺は一限と三限。十五時ぐらいからなら……ログインできるかな」


 俺とハナが講義をどうしようかと頭を悩ませて小声で話し合っていると、イリナがポンっと手を叩いて口を開いた。


「そういえば、異世界人は長時間寝ないといけないんだったな。前に誰かから聞いたことがある。二人もそうなのか?」

「……ああ、そう、そうなんだ。それで明日は朝から活動できるけど、明後日は午後三時ぐらいに起きられるかなって感じなんだけど、大丈夫?」


 俺らのことはそういう認識になってるのかと感心しながら話に乗ると、二人は納得したように頷いてくれた。


「それで問題ない。午後三時に村を出れば、その日のうちにはリーングスに戻って来られるからな」

「良かった。じゃあその予定でお願い」


 そうしてこれからの予定を決めた俺たちは、道中に必要なものを買うためにまずは市場へ向かった。

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