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24、特殊クエスト

 俺があまりの価格に二の句を告げないでいると、イリナが真剣な表情で口を開いた。


「マサト、融解ポーションは作れるやつが少ないって言っただろ? 貴重だから高くなるのは当たり前なんだ。他の錬金術師に恨まれないためにも、相場で売っておいた方がいい」


 確かにそれは一理あるな……俺にその事実を教えなければ安く買えたのにわざわざ教えてくれるなんて、この二人ってめちゃくちゃ良いやつらだな。


「教えてくれてありがと。じゃあ……二人には十万ペルグでどう?」

「おい、話を聞いてたのか?」

「もちろん、二人には特別価格だよ。色々と教えてくれたし。――それにさっき、イリナさんの下着姿を見ちゃったから、その償いも兼ねて……」


 盗み見た感じがして罪悪感があるし、記憶にバッチリ残ってしまっているのだ。融解ポーションの割引って形でお金を払っておけば、少しは罪悪感が薄れる気がする……まあ、自己満足なんだけど。


「……別に、私の下着姿にそんな価値はないぞ? 逆にこっちが謝りたいぐらいだ」

「いやいやいや、価値あるって! 男の理想って感じだったけど!?」


 イリナが自分のスタイルの破壊力を理解してないような発言に、思わず過剰に反応してしまった。するとイリナはさっきまで普通に話をしていたのに、途端に顔をブワッと赤くする。


「ちょ、ちょっと……そこで照れないでよ。俺も恥ずかしくなるから」

「マ、マサトが変なことを言うからだろう!?」

「と、とりあえず、十万で良いから、はい飲んで。左腕動かしづらそうだし、早く治しちゃおうよ」


 俺が照れを隠すためにも融解ポーションを示してそう言うと、イリナは枕の下からお金を取り出して俺に渡してくれた。


「じゃあ、十万ペルグだ。受け取ってくれ」

「うん。ありがとう」

「本当にそれだけで良いんだな?」

「良いって。さあさあ、早く飲んで」


 イリナは少し緊張した様子で融解ポーションを手に持った。そして「ふぅ……」と大きく息を吐き出すと、一気に飲み干す。


 すると特に外的な変化はないけど、イリナが徐に左腕をぐるぐると動かした。さっきまではもっと動かしづらそうだった左腕だ。これは……治ったんじゃないか!?


「イリナ、動くようになったのか!?」


 ラッジのその問いかけに、イリナは満面の笑みを浮かべて頷いた。そしてベッドからひょいっと身軽に降りると、その場で全身を大きく動かしてみせる。


「完璧に治った!」

「イリナ……っ、良かったな!」

「ラッジ、今まで世話をかけたな。これでまた仕事に行けるぞ。マサト、本当にありがとう!」

「うわっ、ちょっ、イリナ、離れて……」


 イリナにぎゅっと抱きつかれて、その……柔らかいものが押しつけられている。これは目に毒どころじゃない。このゲーム、こんな男が喜ぶイベントを設定するなよ!


 NPCなのに柔らかさとか温かさとかリアルすぎる! どこに力を入れてるんだ……!


「マサトは命の恩人だ」


 そう言ってイリナが俺から体を離した頃には、俺の顔は自分でも分かるほど真っ赤に染まっていた。ハナがいる隣から感じる視線が痛い……。


「お礼になんでもするから言ってくれ」

「……ほぼ初対面の相手に、なんでもなんて言うもんじゃないよ。対価のお金はもらったから良いし」

「そっか。分かった」


 俺の言葉を聞いたイリナは、殊更嬉しそうに笑みを浮かべて頷いた。

 そうしてイリナの病気も無事に治り緩やかな雰囲気が流れ始めた部屋の中で、ラッジが真剣な声音で口を開いた。


「……マサト、ハナ、もし二人が良ければなんだが、この街には他にも魔力凝固症で苦しんでる人がいるんだ。その人たちにも融解ポーションを売ってやってくれないか?」

「まだいるんだ」

「ああ、イリナが病気になって色んなところで話を聞いて、同じ病気に罹ってる人たちと知り合った」

「分かった。もちろん売るよ」


 俺は悩むことなく頷いた。俺の力が役に立つのなら、断る理由はない。

 するとまたウィンドウにクエスト受注の印がついて、さらにラッジが一瞬にして顔を明るくした。


「本当か!?」

「もちろん。でも一つ問題があって、ラナックの角がもうないんだ。だから買うかラナックを倒すかしないとなんだけど……」

「ラナックの角か……希少なものだから買うのは難しそうだな。マサトが買った店にはまだ在庫があったか?」

「いや、たまたま手に入った一個だって言ってたよ」

「じゃあ、ラナック討伐に行くしかないな」


 やっぱりそうだよなぁ。ラナックがどこにいるのかを調べて、俺の強さでもいけそうならこのまま、無理そうならナイトーたちに連絡を取らないと。


「そうなると少し時間が掛かると思う。それまでは……」

「私がポーションを売るよ。まだヒーリ草もいくつかあるし、全員の数日分にはなるんじゃないかな」


 ハナのその言葉を聞いて、ラッジは深く頭を下げた。


「二人とも、本当にありがとう」

「気にしなくて良いよ。対価はもらってるんだし」

「二人はラナック討伐の経験があるのか? 私たちは一度だけやったことがあるから、案内できるが」


 頭を下げているラッジの隣で首を傾げながら発したイリナの言葉に、俺は即座に飛びついた。経験者がいるなら話が早い。これは助けてもらうべきだ。


「ぜひお願いしたい」

「ははっ、分かった。もちろん助けるぞ」

「確かにそれがいいな。……というか、俺らが討伐して角を手に入れてきたらいいんじゃねぇか?」

「――そういえばそうだな。マサト、それでも良いか?」

「うーん、それも悪くないんだけど、ラナックの角って意外と大きくて重かったから、何個も持ち帰るの大変じゃない? 俺がいればインベントリに入れられるから、できれば一緒に行ったほうが良いかなと思うんだけど」


 その提案に二人はラナックの角を思い浮かべたのか、あまり悩むことなく頷いた。


「マサトがいてくれた方が良いな」

「分かった。じゃあ四人で行こうか。あっ、ハナはどうする? 別行動でも構わないけど……」


 融解ポーションの納品クエストは俺だけだろうからとそう聞くと、ハナは拗ねたように唇を尖らせてから口を開いた。


「もうマサト、ここから私を仲間外れにするの?」

「いや、そういうことじゃなくて、他にやりたいことがあるならそっちに時間を使うのもありかなと思って……」

「大丈夫。私も一緒に行くよ」

「そっか、分かった。じゃあ四人で行こう」

「うん。でも行く前に罹患者にポーションを渡してからじゃないとダメだよね。ラッジさん、案内してもらえますか?」

「もちろんだ」


 それから俺たちは……というよりもイリナが出かける準備を済ませ、四人でアパートの一室を出た。

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