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23、人助け

 しばらく路地を進んでいくと、あるアパートの前でラッジさんは足を止めた。このアパートの二階にイリナさんの部屋があるらしい。


「イリナさんとは一緒に住んでいるのですか?」

「まさか。俺たちは昔からのダチだけど、恋人関係とかじゃないからな。仲間であり……兄弟みたいなもんだ。俺はこの近くの別のアパートに住んでて、今はイリナの看病でここに通ってる」


 ラッジさんはそんな話をしながら玄関のドアに鍵を差し込み、そっとドアを開けた。すると中から思いの外元気な声が聞こえてくる。


「ラッジか? ポーションはどうだった?」

「起きてるのか……って、お前はまたそんな格好して、ちゃんと服を着ろ!」

「えぇ〜、だって暑いんだよ。それよりもポーション……って、お客さんがいたのかよ! それを早く言え!」


 玄関ドアを開けるとすぐにリビングがあるワンルームタイプのアパートのようで、部屋の中に入るとベッドの上にいるイリナさんと目があった。


 しかし俺は気まずさからすぐに目を逸らす。だってイリナさんは……タンクトップ一枚にパンツしか履いてない格好だったのだ。


 ――めっちゃ胸デカかったな。


 すぐに目を逸らしたけど、そこだけは目に焼きついてしまった。俺も男なんだ、許してほしい。


「……マサト?」

「み、見てないからな。俺は何も見てない!」


 イリナさんから目を逸らしてことで今度は隣りにいるハナと目が合い、ハナには胡乱げな眼差しを向けられてしまった。


「慌てていてイリナの脱ぎ癖を忘れてた。本当にすまん。見苦しいものを……」

「おいラッジ! 私の体は見苦しくないぞ!」

「お前の体は色々と主張が激しいんだよ! ほら、早く服を着ろ。まだ体は動くのか?」

「服を着るぐらいなら問題ない。まだ動かしづらいのは左腕だけだからな」

 

 それからイリナさんが着替えるのを待ち、俺とハナは部屋にお邪魔した。靴は脱がないタイプの作りのようで、俺とハナが椅子を借りて、イリナさんはベッド、ラッジさんは木箱に腰掛けた。


「変な格好を見せて悪かったな。私はイリナだ。君たちは?」

「俺はマサトです」

「私はハナと言います」

「二人とはさっき市場で会って、ハナが薬師でポーションを、マサトが錬金術師で融解ポーションを持ってるっていうから来てもらったんだ」


 ラッジさんのその説明を聞いたイリナさんは、たっぷり数十秒は固まってから、「はぁ!?」と大声で叫んだ。


「どういうことだよ! 融解ポーションが手に入るってことか!?」

「俺がたまたま持ってまして……」

「ちょ、ちょっと待て、そんな奇跡あるのか!?」


 イリナさんはそれから混乱した様子で頭を抱えて、しかし数分でばっと顔を上げた。


「とりあえず、深く考えるのはやめる。最近増えてる新しい世界のやつらは、凄いことをやらかすからな。マサトとハナもそうなんだろ? 名前の響きが、少なくともこの第五世界出身じゃない」


 おおっ、名前で分かるのか。イリナさんって意外と優秀なのかも。いや、意外とは失礼か。


「その通りです」

「やっぱりそうか……それで、本当に融解ポーションを持ってて売ってくれるんだな?」


 俺がその言葉に頷くと、イリナさんは泣き笑いのような表情を浮かべて頭を下げた。


「本当にありがとう……!」

「いえ、たまたま持ってただけですから」

「それでも本当にありがたい! 二人は私の命の恩人だ」

「そんな、大袈裟ですよ」

「そんなことはない! ……そういえば、さっきからずっと気になってたんだが、もっとラフに話して良いぞ? 私のことはイリナって呼んでくれ。こいつもラッジで良い」

「おい、お前が言うなよ。まあいいんだけど」


 イリナさんが……いや、イリナがそう言ってくれて、ラッジもすぐに笑顔で頷いて、それを受けて俺はハナと目線を交わし合ってから二人に視線を戻した。


「分かった。じゃあフランクに話すよ。イリナ、ラッジ、よろしく」

「よろしくね」

「おうっ、よろしくな。そっちの方が全然話しやすくて良い」

「俺がもっと早く言えば良かったな。焦っててそこまで気が回らなかった」

「それは当然だよ。イリナの命が掛かってたんだから。というか早く融解ポーションを渡した方が良いよな。はい、これなんだけど」


 俺がインベントリから融解ポーションを取り出すと、二人はインベントリを便利だよなと羨ましがりつつ、融解ポーションを手に取った。そして色をしっかりと確認して、まさに融解ポーションそのものだとお墨付きをくれる。


「イリナが魔力凝固症になったから色々と調べたけど、これは融解ポーションで間違いない。これ、いくらで売ってくれる?」

「えっと……一万ペルグ、とか?」

「は!? や、安すぎるだろ!」


 俺が金額を提示したら、ラッジが目を剥いて大声を上げた。普通のポーションが安いものだと千ペルグ、高くても三千ぐらいだからそれの数倍にしてみたんだけど。

 

「……じゃあ、五万ペルグ?」

「――マサトは、全く相場を知らないんだな。融解ポーションは百万ペルグは下らないぞ」

「は、ひゃ、百万!?」


 次に驚くのは俺の番だ。百万とか予想外すぎる。だって素材が貴重だって言ったって、ラナックの角は八千ペルグで買えたんだ。他のものは元々持ってたし、買ってもそこまで高くないだろうし……

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