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21、リーングス巡り

 新入生歓迎会から数日後の休日。俺は休みの日だけど朝早くに目覚ましをかけ、休日にも部活がある未来と同じ時間に朝食を食べた。


 そしてお腹がいっぱいになったところで、すぐ自分の部屋に戻って『フォレスト・ワールド』の世界にログインする。今日は朝九時に、リーングスの門前広場でハナと待ち合わせをしているのだ。

 まだハナとはゲームの中で会ったことがないし、凄く楽しみだ。


「あっ、マサト。おはよう」

「ハナ!」


 広場に足を踏み入れると、すぐにハナが手を振ってくれた。ハナの容姿は聞いていた通り、現実そのままだ。


「待たせた?」

「ううん。私も今来たところだよ。話には聞いてたけど、確かに外見がちょっと違うね」

「そうだろ? ゲームの中ぐらいもっとカッコ良くなりたいと思って」

「でも……現実のマサトも悪くないよ? 現実のマサトは可愛い系で、ゲームのマサトはカッコイイ系」


 それ……今まで何回も言われてきた言葉だ。褒め言葉だってことは分かってるんだけど、可愛いって言われてもいまいち喜べないんだよな。


「あっ、可愛いって言われるの嬉しくない……?」

「うーん、嬉しくないわけじゃないけど、カッコ良いの方が嬉しいのは確か」

「そうなんだ……ごめんね」

「あっ、全然気にしないで。褒め言葉だってことは分かってるから!」


 俺が慌ててそう言うと、ハナはほっとしたように頬を緩めた。やっぱり華とはまだ完全に打ち解けられてないな……これからもっと仲良くなれたら良いんだけど。

 まあまだ知り合ったばかりだし、これからかな。


「じゃあさっそく行こうか。市場はもう開いてるよな」

「そうだね。珍しい素材とかあったら良いな」

「華はお金ってかなりある?」

「うーん、頑張って貯めてるけど、数万ぐらいしかないかな」

「俺も同じぐらい。やっぱり生産職って最初が難しいよな」


 作ったものが売れるようになれば、ずっとお金が増えていくサイクルになるんだけどなぁ。


「うん。でも私はナイトーとリーナがポーションを買ってくれることになったから、これからは稼げるかも。それに最近は本当にポーションが足りなくなってるみたいで、ギルドでポーションの作製依頼がよく出てるの」

「確かによく見るな」


 そう考えると、錬金術師ってコンスタントに稼ぐのが難しいのかもしれないな……ギャンブル要素の大きい職業な気がする。

 基礎教本に載ってるアイテムは、確かに便利だったり欲しい人もいるだろうものなんだけど、ポーションほど大きな需要がずっとあるものではない。


 教本にも載ってないような凄いアイテムを作り出せたら億万長者も夢見れるけど、問題はそこまでをどうするかだな。


「錬金術でポーションは作れないの?」

「……作れないわけじゃないんだけど、薬師の人達が使う素材よりたくさんの希少な素材が必要なんだ」


 この前休日を費やしてひたすら錬金術でポーションを作れないか試してみたんだけど、最終的にはかなり希少なアイテムを使って、HPが一般的なポーションと同程度しか回復しないものを作るのが精一杯だった。


 図鑑にも基礎教本にも載ってなかったから、錬金ポーションって名付けて図鑑登録しておいたけど、あれを作ることはないだろうな……


「ヒーリ草以外も使うんだ」

「うん、三つもな。しかも一つは市場でたまたま見つけた希少素材。さらに作るのにめっちゃ魔力を消費した。それでHP回復量は普通のポーションと同程度」

「それは……ちょっと残念だね。MPも回復するとか、別の効果もあれば良かったのに」

「そうなんだよな。もしかしたら別の効果もあるのかもしれないけど、試しようがないんだ」

 

 他のゲームならアイテムを作れた時点で図鑑に登録されて説明が自動更新されるけど、それをしてくれないってリアルすぎるよなぁ。もうリアルを通り越して鬼畜ゲーか? って感じだ。

 

「誰か知ってる人がいたら良いね」

「うん。他の錬金術師とかに会えたら聞いてみるよ。あとはお金にもっと余裕ができたら本とか買ってみる」

「この世界のことをもっと知りたいもんね」


 そんな話をしていたら市場に着いて、俺たちはまずポーションを売ってる薬屋を見に行くことにした。ハナが同業他社が気になるのだそうだ。

 薬屋は市場の奥にあるらしいので、他のお店に目移りしながらも奥に向かって歩みを進めると……目的のお店から、なにやら揉めている声が聞こえてきた。


「なんでポーションがないんだよ! それじゃあ、あいつが死んじまう!」

「……そんなこと言われてもね、ないものは売れないんだよ。本当にすまないとは思ってるけど……他の店にはないのかい?」

「他の店も何軒も回ってるんだ! あんた薬師だろ? 今から作れないのか? 金は出すから!」

「……そうしてやりたいけど、ヒーリ草がないのさ。全部使ってしまって入荷待ちだ。別の国で魔物が活性化してるらしくて、そっちにどんどん買われてるんだ」


 ポーション不足は、別の国で魔物が活性化してることが原因だったのか。どの世界の話だろうな……

 このゲームは十二個の世界があって転移で行き来できる設定だけど、その世界の広さはかなりまちまちだ。今俺たちがいる第五世界は街が一つと村がいくつかの小さな世界で、当然この世界は一国にまとまっている。


 だからこの世界で他国ということは、イコール別の世界ってことなのだ。広い世界では何十もの国がある世界もあるらしいし、そういう世界にも早く行ってみたいよな。


「別の国じゃなくて、今ここにいる俺たちを救ってくれよ……!」

「そうしたいのは私も同じさ。でも上の決定には逆らえないだろ? あんたがヒーリ草を採ってきたらポーションにしてあげるよ。こんなところで嘆いてる暇があるなら早く採取にいきな」

「……それが、最近はヒーリ草がかなり見つけづらくなってるんだ。特にこの街の周辺だとほとんどない。遠くまで行ったら時間がかかって……そのうちにあいつが」


 そこまで話を聞いたところでハナが俺の服をくいっと引いたので、俺はハナに視線を向けてしっかりと頷いた。あの人にポーションを売りたいってことだろう。

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