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19、生産職仲間

 大学に入学してから約二週間が過ぎた。この二週間はかなり忙しく過ごし、さまざまな授業のオリエンテーションに参加して履修登録をやっと済ませたところだ。

 これで前期に受ける授業は全て決まったし、あとは頑張って講義に参加して勉強するだけだな。


「大学ってさ……履修登録、めちゃくちゃめんどいな」


 そう言って俺の隣で項垂れているのはもちろん拓実だ。疲れた顔でとぼとぼと歩みを進めている。


「それは分かる。一年は必修が多いからあんまり大変じゃないって聞いてたけど、それでも疲れたよな」

「だってさ、どれを受けたらいいのかなんてわかんねぇじゃん!」

「確かになぁ……将来やりたいこととか、明確に決まってないし」


 俺の言葉に拓実はぶんぶんと頭を縦に振った。


「俺なんて、高校三年の春に見たリーガルドラマに憧れて法学部にしたんだぜ?」

「……え、それは引く」

「おい、ならお前はどんな理由で経済学部にしたんだよ」

「それは……文系だけど数学が得意で、数学が試験科目にあったからだな」

「お前も同類じゃねぇか」


 まあ確かに、ほとんど何も考えてないという点では同じだ。でも世の中の大学生なんて大半がそうだよな……高校で、就職の時に大卒の方が有利だし給料良いし大学は絶対に行っとくべきだ! って言われるから、とりあえず漠然と進学するかってなるやつが多いし。


「そういえば、必修の語学クラスどうだった? 拓実はドイツ語だっけ?」

「おう、まあ普通だったぞ。週に一回しかないし、そこまで仲良くなれなそうだったな。マサトは英語だったか?」

「うん。英語クラスも同じかなぁ」


 大学はそれぞれの講義ごとにメンバーが異なるので、高校までと違って友達を作るのが大変だ。拓実と仲良くなれたのは本当に幸運だった。


「やっぱりそんなもんか……大学ってもっと楽だと思ってたんだけど、意外と大変だよな。ゲームもあんまりできねぇし」

「分かる。思ってたよりゲームに時間割けないよな」


 この二週間でかなりゲームは頑張ったけど、それでも俺はやっとレベルが18になったところだ。まだまだ錬金術師として工房を持つ夢には程遠い。


「あっ、二人ともちゃんと来たね!」


 拓実とそんな話をしているとゲーム研究会の部室にかなり近づいていたようで、部室の窓から夏樹先輩が声をかけてくれた。今日は今年の新入部員が出揃ったということで、新入生歓迎会が開かれるらしいのだ。


「こんにちは!」

「遅れましたか?」

「ううん。まだ来てない子達もいるよ。それにこれから移動するから」


 部室の中に入ると、梨奈が他の一年生数人と楽しそうに談笑していた。何人かまだ話したことない人がいるな……


「あっ、真斗来た!」

「俺?」


 梨奈にこっちに来てと呼ばれたので行ってみると、初めて見る女の子が傍にいた。活発で明るく誰とでも仲良くなれるタイプの梨奈とは違って、大人しそうな清楚系な女の子だ。


「この子、今日初めてゲーム研究会に来たんだって、それで話を聞いたら薬師だっていうから、同じ生産職の真斗を紹介しようと思って」

「おおっ、生産職仲間初めて! 俺は橘真斗、よろしく」

「よ、よろしく……私は夏川華です」


 華は緊張しているのか小さな声で挨拶をすると、僅かに笑みを浮かべた。


「もう華、そんな緊張しなくても大丈夫だって!」

「で、でも……初めて会うし」

「真斗は良いやつだから大丈夫だよ。ね!」

「いや、俺に振られても……」


 何て返せば良いんだと困っていると、権田先輩が手をパンパンと二回叩いて皆の注目を集めた。


「ほとんど集まったことだし、移動するぞ。近くの店を貸し切ってるんだ。今日はそこで食事をしながら友好を深めよう」

「美味しいイタリアンレストランだよ。ちなみに私はカルボナーラがおすすめ」


 夏樹先輩のその言葉に何人かの先輩が自分のおすすめを発表して、皆で歩いてそのお店に向かうことになった。俺は拓実が他の一年生と話し始めたのを見て、華にもう一度話しかけてみることにする。


「華、薬師やってるって話だったけど、今どこにいるんだ?」

「あっ……真斗くん」

「真斗で良いよ」

「じゃあ、真斗。私はまだリーングスの街だよ。大学入学祝いにお兄ちゃんからもらったゲームで、始めたばっかりなの」

「おおっ、俺も同じ!」


 リーングスの街にいるならフレンド登録はすぐできるな。とりあえず連絡先を交換したいけど、すぐ聞くのは怖がらせるかな……


「華は何学部?」

「私は薬学部だよ」

「え、凄っ」


 俺は素直に驚いて声をあげてしまった。この大学の薬学部ってかなり偏差値高かった気がするけど……華って頭良いんだな。


「そんなに凄くないよ。真斗は……?」

「俺は経済学部。そっか、薬学部だから薬師なんだ」

「うん。知識が活かせるかなと思って。でも実際にやってみたら全く活かせなかったんだけどね」


 そう言って笑みを浮かべた華の表情に、俺は思わず釘付けになる。華ってめちゃくちゃ綺麗な容姿してるな……これならゲームの容姿をいじる必要ないだろうな。


「確かにあの世界って色々特殊だよな」

「そうなんだよね。でもそこが面白くてハマっちゃった。うちでゲームばっかりしてるから、お母さんにこの前怒られたところ」

「ははっ、分かる。俺もゲームばっかりやってないで勉強しなさいとか、耳にタコができるほど言われてる」

「ふふっ、どこも一緒だね。真斗も実家から通いなの?」

「うん。華も実家なんだな」


 この大学は地方からの学生がかなりいて、自宅生の方が圧倒的に少ないのでここも希少な自宅生仲間だ。


「そうなの。……あの、真斗。もしよければ連絡先を交換しない? できればゲームの中でフレンド登録も……」

「もちろん! 今度さ、一緒に時間決めてゲームやらない? 生産職同士、面白い素材を求めて市場巡りとか」

「それ楽しそう!」

「じゃあ約束な」


 それから華と連絡先を交換して、チャットのアイコンにいる犬が可愛いな〜なんて思っていると、目的地であるお店に到着した。

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