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17、クエストクリア

 羽音が聞こえると同時に小ウィンドウも表示されたようで、じっと目を凝らすとナイトビーと書かれているのが分かる。


「……夜にだけ活動する蜂型の魔物で、毒はないけど針がかなり大きくて刺されるとダメージが大きい、だって」

 

 リーナが図鑑でナイトビーを調べてくれて、その特性を教えてくれた。

 刺されるとダメージが大きいってかなり怖いな。さすがに一撃でHP全損ってことはないだろうけど……


「リーナ、あいつに狙いを定めてファイヤーボールを打てるか?」

「うーん、ちょっと難しいかも」

「俺も飛んでる小さいやつは苦手なんだよな……でも夜光華を採取するにはあいつらを倒さないと無理だよな」


 こっちには見向きもしないで夜光華の蜜に夢中みたいだし、よっぽど好きな味なのかな。あの様子なら危害を加えない限り、襲ってこなかったりして――


 ――そんなことを考えた瞬間、突然ザァァっと突風が吹いて、夜光華が大きく揺れ動いた。すると俺らの方にちょうど夜光華の香りが流れてきて……


「凄く良い匂いだね。この匂いにナイトビーは寄ってくるのかな」

「本当だな」

 

 この匂い、どこかで嗅いだことがある。つい最近だと思うんだけど……ああっ! あれだ、香石の香りとそっくりなんだ!


「二人とも、ちょっとこれの匂いを嗅いでみて」


 インベントリから取り出して二人に差し出すと、二人は石を手に取って匂いを嗅ぎ、驚いたように瞳を見開いた。


「夜光華とそっくりだな」

「これ、使えると思わない? これにナイトビーを引き寄せられたら、その間に夜光華を採取できるかもしれない」

「おおっ、確かに。マサトすげぇな!」

「その作戦でやってみようか」


 それから俺達はどうやってナイトビーを引き寄せるのか考えて、風上にある岩の上に香石を置きに行くことにした。

 ナイトビーに気づかれないように、香石はインベントリにしまってゆっくりと回り道をする。そうして風上に向かい香石を取り出すと……夜光華に夢中だったナイトビーが、一斉にこちらを向いた。


「逃げろっ!」

「……っ、」

「凄い効果だねっ」


 夜光華よりも匂いが強いのか、夜光華の周りには一匹もナイトビーがいないようだ。


「今のうちに採取しちゃおう」

「そうだな」

「りょーかい」


 それから皆でナイフ片手に夜光華を採取すること約一分。数匹のナイトビーがこちらに戻ってくる様子を見せたので、俺達は急いでその場から離れた。

 そして夜光華が見えない場所まで歩いたところで、「はぁ」と息を吐き出して体の力を抜く。


「上手くいったな」

「凄く良い作戦だったね」

「これで依頼達成だぜ!」


 錬金術師もこうして役に立てるんだな……それを実感できたことで、これからのゲーム生活がより楽しくなりそうだ。


「じゃあ街に戻るか」

「そうだな! さっきの方法って、もしかしたら大発見なんじゃねぇか?」

「確かに凄かったよね」

「うーん、でも香石って錬金の基礎教本に乗ってるぐらいだから、よく知られた攻略法じゃないかなぁ」

「なんだ、そうなのか?」


 ゲームを楽しめるようにって、攻略法が載ったサイトとかはあんまり見ないようにしてたから分からないけど、ああいうところにはなんでもって言っても過言じゃないほどに情報が溢れてるからな。


「ログアウトしたら見てみれば良いんじゃない? もし載ってなかったら載せようよ」

「そうだな!」


 それから俺達は周囲を警戒しつつ雑談を楽しみ、特に問題なく街まで戻ってくることができた。

 冒険者ギルドで納品をしたら、依頼達成だ。


「楽しかったな!」

「うん。やっぱり一人で黙々とレベル上げをしてるより、皆で依頼を受けた方が良いね。結局は同じぐらいレベル上げになったし」

「俺は一人よりレベルが上がってるぐらいだ」

「ははっ、マサトは生産職だからな」


 時計を見るとそろそろ日付が変わる時間だった。明日も大学だしログアウトしなきゃだけど……もうちょっと遊びたいなぁ。

 俺のその気持ちが伝わったのか、ナイトーが近くにあった居酒屋を指差して口を開く。


「依頼達成の祝いに何か食べてからログアウトしようぜ」

「それ良いね!」

「賛成」


 三人で顔を見合わせて笑い合うと、俺たちは居酒屋に向けて一斉に足を踏み出した。そしてドアを開いて店内に入ると、中はかなり賑やかだ。プレイヤー以外にNPCもいるようで、皆が楽しそうにお酒を飲んで食事をしている。


 ちなみにこのゲーム内のお酒は、誰でも飲むことが可能だ。ただプレイヤーはいくら飲んでも酔うことはないので、よっぽどお酒の味が好きな人以外は飲まないらしい。


「いらっしゃい。ご注文は?」

「俺はフルーツジュースで! 二人はどうする? 食べ物はおつまみ盛り合わせでいいか?」

「良いよ。飲み物もナイトーと同じで」

「俺もかな。じゃあフルーツジュースを三つとおつまみ盛り合わせ一つで」

「はいよ。ちょっと待っててな」


 店員の女性はニコッと気持ちの良い笑みを浮かべると、カウンターの向こうに注文を伝えている。


「ここは来たことあるのか?」

「おうっ、一回だけだけどな。フルーツジュースがめっちゃ甘くて美味かったんだ」

「そうなんだ。楽しみだな」

「どんな味なの?」

「うーん、強いていえば蜜柑ジュース? でもそれよりも苦味とハチミツみたいな感じもあるというか……」


 蜜柑ジュースに苦味は分かるけど、蜂蜜みたいな感じっていうのは想像しづらいな。このゲームって本当に独自のものを創造してるよなぁ。

 普通はゲームの世界なんて、日本にあるものがそのままなのが当たり前なのに。前にやってたガンアクションもののゲーム世界で、居酒屋で出てきたお通しが冷奴だった時は笑った。


 というか冷奴以前の問題で、お通し文化あるんかい! って突っ込んだ記憶がある。ああいうゲームは、リアルじゃないところが面白かったりするんだけどな。

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