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15、リーングス到着

 リーングスの街は、最初の村であるユーテとは比べ物にならない大きさだった。魔物から身を守るためなのか街全体が大きな外壁で囲まれていて、外から見るとその大きさに圧倒される。

 そんな外壁の一部に外門があるようで、街に入る時はここでの手続きが必須らしい。


 ただ手続きとは言っても簡単なものだけで、冒険者ギルドの登録証を提示すれば簡単な受け答えだけで街中に入ることができた。


「うわぁ、凄いよ!」


 俺より一足先に門を抜けたリーナが歓声を上げたので、俺も急いで門を抜けて街の様子を視界に納めると……そこに広がっていたのは、まさに映画やアニメの中の街並みだった。


 石畳で綺麗に舗装された道路の脇には石造りの建物が所狭しと並んでいて、好奇心を刺激される。


「めちゃくちゃ凄いな……」


 他にもこういう世界観のVRゲームはやったけど、ここまで作り込んでるソフトなんて一つもなかった。

 視界に入るだけでも数十、数百の人達がそれぞれ思い思いに動いて話して、さらにはお店で売っている商品や建物の汚れや埃、そういうものの細部まで現実と見分けがつかない。


「マサト! 広場にたくさん屋台が出てるみたいだよ!」


 リーナに呼ばれて近くの屋台に向かうと、そこでは串に刺してある肉が焼かれていた。店主をしているのはふくよかなおばさんだ。


「ワイルドボアの串焼きだよ〜。お二人さん一本どうだい?」

「これって一本いくらですか?」

「100ペルグだね」


 おおっ、そこまで高くない。村と比べて特別物価が高いわけじゃないんだな。


「私は一つ食べます! マサトはどうする?」

「俺も一本」

「はいよっ、ちょっと待ってな」


 それから数分待っていると、熱々に焼かれたワイルドボアの串焼きを受け取ることができた。


「良い匂いだな」

「本当だね。美味しそう」

「邪魔にならないように向こうで食べようか」

「そうだね」


 リーナと二人で広場の真ん中にある噴水の周りに向かう。噴水の周りにはベンチが置いてあって、こうして屋台で買った料理を落ち着いて食べられるようになっているのだ。


「うわっ、これめっちゃ美味い」

「っ、本当だ!」


 味付けは塩胡椒……よりもう少し複雑な感じだけど、俺の舌に合っている味だ。ゲームの中で現実にない味が食べられるとか凄いな。

 こういうのって誰が考えてるんだろう。現実で売り出したら売れそうな気がする。


「このゲームって美食家の人達にも注目されてるらしいね」

「そうなんだ。確かにこんなに美味しい料理が食べられて、しかもお腹いっぱいにならないんだもんな」

「うん。いくら食べても太らないところが良いよね」


 それめちゃくちゃ分かるな……高校の部活を引退してから、運動はしなくなったのに食欲だけそのままで苦労したんだ。これからはお腹が空いたら、ゲームの中で空腹を紛らわそう。


「そういえば、拓実ってどこにいるんだろうな。あいつのゲーム名聞き忘れたから、容姿に面影がないと分からないかもしれないんだ」

「そういえば聞かなかったね。もうこの広場にいるのかな」


 二人で一緒に広場を見回したけど、人が多すぎて見つけるのは難しそうだ。一度ログアウトしてゲーム名を聞いて、待ち合わせ場所の詳細を決めるべきかな……


「おい、お前らって真斗と梨奈か?」


 そうしてこれからのことを考えていたら、突然横から肩を掴まれ声をかけられた。そちらに視線を向けるとそこにいたのは……思わず体を後ろにのけぞらせてしまうほどに派手な男だった。

 ウルフカットみたいな派手な髪型だけならまだ良いけど、その髪色が紫から赤へのグラデーションで、さらに耳にはピアスが三つずつも付いている。


「……拓実?」


 顔に僅かな面影を感じ取って恐る恐るそう聞いてみると、拓実が安心したように笑みを浮かべた。


「そう! 会えて良かった〜。俺さ、名前教えてなかったから会えないかもって焦ってたんだ」

「……名前よりも容姿が衝撃的すぎるんだけど」

「これいいだろ? ちょっと派手にしてみたんだ」


 これがちょっと……まあ、拓実って現実でも割と派手な方だったもんな。これでもちょっとなんだろう。


「拓実くん、髪のグラデーション綺麗だね」

「おおっ、梨奈は分かってくれるか? ありがとな!」

「拓実、俺達はここではマサトとリーナだからな。それでお前の名前は……ナイトー? なんで名字?」


 ナイトーという名前に思わずそう聞いてしまうと、拓実は……いや、ナイトーは嬉しそうな笑みを浮かべて口を開いた。


「ナイトーってカッコよくね? ナイトって騎士みたいだし」

「確かに……そうかな。うん、そんな気がしてきた」

「だろ? この容姿にこの名前、最高にイケてるよな!」


 とりあえず、俺とナイトーはカッコいいの感性が合わなそうだってことは理解した。本人は最高にかっこいいって満足してるみたいだし、俺が口出すことじゃないな。


「ナイトーって呼べば良い?」

「おうっ、この世界ではそれで頼む。俺もマサトとリーナって呼ぶな。そうだ、フレンド登録しようぜ」


 それから俺達は互いにフレンド登録を済ませ、さっきリーナとやったみたいにチャットで少し遊び、それに満足したところで冒険者ギルドに向かうことになった。

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