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14、街へ

 村を出てリーングスはこちらと書かれている看板を発見し、その場所でまずは立ち止まった。道を間違えるのが一番最悪だからな。


「こっちの道を行くので……合ってるよな?」


 冒険者ギルドで第五世界のめちゃくちゃ大雑把な地図を見ることができたので、ウィンドウで見られる地図には一応街の位置だけは示されている。

 ただそこまでの道は示されていないので、方向をしっかり確認しないといけないのだ。


「うん。こっちの道だね」


 リーナも自分のマップを確認して頷いてくれたので、俺達は分かれ道を左に曲がってまた足を動かした。


「このゲームって夜でも明るくしてくれてるのがありがたいよね」

「分かる。だからあんまり夜の活動も不気味じゃないよな。月も綺麗だし」

「ね、凄く大きいよね」


 このゲームの世界は太陽は地球と同じ感じなんだけど、月は地球で見れるものの何倍、何十倍だ。手を伸ばせば触れるんじゃないかって思うほどなので、ついつい手を伸ばしそうになってしまう。

 色も地球の黄色い感じとは違って、どちらかというと青白い感じだ。


「そういえば、マサトは錬金術師なんだよね? 錬金術師って魔物をどうやって倒すの?」

「短剣だよ。武器が使えないわけじゃないから。でも他の戦闘系の職業の人たちより強くなれることはないだろうから、錬金で稼げるようになったら、魔物とはあんまり戦わなくても良いようにしたいなって思ってる」

「確かにそうだよね。リーングスまでの道中は、魔物が出たら私に任せてね!」


 リーナは拳を胸の前でぐっと握りしめて、頼もしく笑みを浮かべてくれた。


「火魔法ってどういう感じ? 詠唱とかするんだよな?」

「うん。体内で魔力を練って、それを詠唱と共に火に変化させて体外に放出する感じ、なのかなぁ。私もまだよく分かってないんだよね」

「じゃあ詠唱を唱えるだけで使えるってわけじゃないんだ」

「意外と難しいよ。上手くなれば詠唱は短縮できるらしいし、これから頑張って練習するんだ」


 そう言って笑みを浮かべたリーナの瞳には、好戦的な色が滲んでいる気がする。


「今はまだやっとファイヤーボールが使えるようになったところなんだけどね。詠唱は火魔法の初級教本を買ったからいくつも知ってるんだけど、魔力を練るのが難しくて。このゲームってさ、その辺のリアリティ凄いよね」

「分かる。リアルすぎてゲームの世界ってことを忘れない?」


 俺のその言葉に、リーナは何度も頷いた。やっぱり皆そう思ってるんだな。


「NPCとか、あまりにも自然すぎない? あれって人間が動かしてるとかじゃないよね?」

「こんなにたくさんのNPCを人間が動かすのは無理だと思う……でも、AIっていうのも信じられないよな。会話もそうだけど表情とか仕草とか、あまりにも人間らしすぎる。それにさ、AIって地球の人間から得た膨大なデータを元に作られてるはずだけど――この人たちは、ちゃんと異世界に住む人なんだよな」


 ゲームを始めてからここがずっと不思議なのだ。いくらAIが優れているからって、地球人は完璧に再現できても、異世界人は再現できないと思う。

 この世界の慣習とか、この世界で生きてきたからこその思考とか、そういうのまで細かく設定を決めてAIに学習させてたりしたら、マジで凄いよな……そんなことが可能なのだろうか。


「このゲームを作った会社って、このゲームが最初の作品なんだよね?」

「確かそうだったはずだよ」

「それも凄いよね。なんでこんなに凄いゲームが作れたんだろう。社長さんが天才なのかな」

「インタビュー記事見たことあるけど、予想より若い人だったよな」

「うん。それでイケメン!」

「ははっ、確かにカッコよかったかも」


 そこまで話をしたところで、俺達の視界に魔物が映った。街道の先に……三匹の魔物だ。あの形は蛇だな。しかもスモールスネークより大きい。


「この辺って蛇が多いよな」

「かなりいるよね。スモールスネークとか、何匹倒したか分からないぐらいだよ」

「でもあれはスモールスネークじゃないよな? なんだろ」


 まだ距離があるからか、小ウィンドウも表示されてないので名前が分からない。名前が分からないと図鑑で調べることもできないからな……


「慎重に近づこうか」

「了解」


 さっきまでの穏やかな雰囲気から一転、魔物に相対していることでピンと張り詰めた空気の中で足を進めていくと……あと数十メートルというところで、小ウィンドウが見えるようになった。

 文字を読むためにもう少し近づくと、フォレストスネークと書かれているようだ。


「図鑑で調べるね。――噛み付いてくることは殆どないけど、敵に巻きついて締め殺すんだって。だから遠距離攻撃がおすすめって書いてある」


 締め殺すとかめちゃくちゃ怖そうだな……とにかく近づかないようにしないと。俺も遠距離での攻撃手段を手に入れた方が良いかな。


「ここは私に任せて。遠距離攻撃なら魔法使いの私の出番だよ」

「ありがとう。頼もしいよ」


 ここは変な意地を張らずにリーナに任せるべきだと判断した俺は、他の魔物への警戒のためにも、短剣を構えて一歩だけ前に出た。そしてリーナに魔法をお願いと合図をする。

 するとリーナはニコッと楽しそうに微笑んで……詠唱を口にしたと思ったら、前に突き出した手のひらから火の玉がかなりの速度で飛んでいった。


「おおっ、凄い。魔法だ」


 火の玉は正確にフォレストスネークへ着弾し、一撃で絶命させたようだ。


「やった! 一回で当たったよ」

「おめでとう。今のってファイヤーボール?」

「うん。比較的簡単な魔法なんだけど、強いからまずはこれを極めようと思って」


 そう言って拳を握りしめたリーナは凄く楽しそうだ。やっぱり魔法使いを選んだ方が良かったかな……


 ……いやいや、俺は生産を頑張るって決めたんだ。錬金術師としてこのゲームを楽しんでやる。


「これなら道中は心配なさそうかな。俺は全然役に立てなさそうでごめん」

「気にしないで。生産職の人達は戦い以外で貢献してくれるんだから。何か良いアイテムとかできたら、優先して売ってくれたら嬉しいな」


 リーナはイタズラな笑みを浮かべてそう言うと、パチっと右目でウインクをした。


「それはもちろん。期待に応えられるように俺も頑張るよ」

「お互い頑張ろうね! じゃあどんどん先に進もうか」


 それから俺達は、たまに遭遇する魔物を倒しながら順調にリーングスの街までの道のりを進み、予定通りの時間に街の外門に到着した。

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