12、入部と友達
「それを出してくれれば入部になる。今書いても良いし、もう少し悩むなら後日でも大丈夫だ」
「今書きます」
入部届には名前と学籍番号、それから学部を書くところがあったので、オリエンテーションの時にもらったまだ新しい学生証を見ながら、学籍番号を書き込んだ。
そして三人で一緒に提出すると、権田先輩が受理してくれて、俺たちも正式なサークル員だ。
「じゃあ改めて、ゲーム研究会にようこそ。チャットにサークルの連絡用グループとかあるから、招待するね」
「ありがとうございます!」
それから俺達は先輩達と連絡先を交換し合って、『フォレスト・ワールド』についての情報交換をして、部室を後にした。
「楽しそうなサークルで良かったな!」
「本当だな。拓実と梨奈は他のサークルとか部活って入る?」
「うーん、私は入らないかな。バイトもやりたいし」
「俺もバイトやんないと生活費がヤバいんだよな……でもめっちゃ緩いサークルならあと一つぐらい入るかも。俺サッカーやってたから、サッカーサークルとか」
やっぱりあと一つ、入るとしたら運動系だよな。一度バスケサークルの見学に行ってみるか……いや、でもそうするとゲームする時間がかなり減るよな。やっぱりとりあえずは一つで良いかな。
「じゃあ俺こっちだから、また明日……じゃなくて、今夜『フォレスト・ワールド』の中で会う?」
「それ良いな! フレンド登録しようぜ」
「私もしたい! じゃあ家に帰ったら連絡してね」
「分かった。じゃあまたな」
そうして俺達三人は駅で分かれて、それぞれの家に向かって電車に乗った。
家に帰って玄関のドアを開けると、カレーのめっちゃ良い香りが空腹に大ダメージを与えた。やっぱりカレーの匂いって罪だよな……あまりにも良い香りすぎる。
「ただいまー」
「おかえりなさい。遅かったわね」
「サークルの先輩達と話してたんだ」
「ちょうどカレーができたところよ。よそって食べなさい」
「ありがと」
リビングを覗くと未来はもう帰ってきていて、母さんと一緒にカレーを食べていた。父さんはまだみたいだ。手を洗ってスーツから部屋着に着替えたら、炊飯器からご飯をよそってカレーをたっぷりとかける。
「めっちゃ美味そう」
「今日のは自信作よ。これ福神漬けとらっきょうね」
「ありがと。いただきます!」
手を合わせてからスプーンを手にして、大量のカレーを口に頬張ると……口の中にスパイシーな旨みが広がって、最高な気分になる。
しばらくはカレーだけを楽しんで、途中からは福神漬けとらっきょうで味変だ。マジで美味い……『フォレスト・ワールド』にカレーってあるのかな。あるなら見つけてみたいな。
「お兄ちゃん、大学どうだった? 楽しかった?」
「まだ初日だからよく分かんないけど、とりあえず友達はできたしサークルにも入った」
「あら、もう入ったの?」
「うん。ゲーム研究会」
「なにそれ! そんなサークルあるの!?」
未来はスプーンに載せたカレーを持ったまま、ずいっと身を乗り出してきた。
「未来、お行儀悪い。大学はいろんなサークルがあるんだよ。お前も受験勉強頑張れ」
「お兄ちゃん良いなぁ〜。漫画研究会とかもあるのかな」
「うちの大学にはあったな」
「え、本当に!? じゃあ私もお兄ちゃんの大学を第一志望にする!」
そう言って瞳を輝かせている未来を見て、母さんがグサっと突き刺さる言葉を投げかけた。
「未来は真斗の大学を狙えるほどの成績じゃないでしょう? 入りたいなら今から漫画を読む時間を勉強に当てなきゃ無理よ」
その言葉に未来は落ち込んでるけど……まあ、正論だ。未来の成績は悪くはないんだけど、そこまで良くもない。
「漫画研究会なんてどの大学にもあると思うけど」
「え、そうなんだ! じゃあ漫画研究会がある大学で、その中から行きたい学部がある所にしようかな」
「それが良いかもな」
それからは録画してある恋愛ドラマを母さんと未来が見始めたので、俺は静かにカレーを味わって、食器を片付けてお風呂に向かった。
ゲームをしてから風呂でも良いんだけど、それだとかなり面倒になるから先に入った方が良いのだ。湯船にお湯が溜まるまでの間は、ソファーに座って二人が見ている恋愛ドラマを聞きながらチャットアプリを開く。
あ、連絡きてる。梨奈が三人のグループを作ってくれたのか。
『今日の夜九時からユーテの村に集合でどう?』
『俺は良いんだけど、梨奈ってまだユーテにいるの?』
『うん。まだ初めて三日だから。もしかして、もう二人はユーテにいないとか?』
『ううん。俺はいるんだけど、拓実が第五世界で一番大きな街に行ってるって言ってたんだ。だから拓実に戻ってきてもらうよりは、俺達が進んだ方が良いかなって。その町までどのぐらいかかるのかな』
『フォレスト・ワールド』はリアルさを追求しているゲームなので、転移みたいな便利なものはなくて、移動にもいちいち時間がかかるのだ。歩きか馬車か、馬に乗るかの選択肢だけど、馬に乗るには技能が必要らしいので、歩きか馬車の二択だ。
『そうなんだ。じゃあ真斗と私の二人でその街に行くのもありだね。宿屋にお金を払っちゃったんだけど……まあそれは仕方ないか』
『梨奈も? 俺も十日分払っちゃったんだよ。でもさ、もうユーテの村でやること無くなったよな』
『分かる。だからこれからどうしようかなって思ってたところなんだ。……そういえば、真斗って職業は?』
『俺は錬金術師。梨奈は?』
『私は火魔法使いだよ』
梨奈とそこまでチャットをしたところで、拓実がやっと既読になった。




