第六十五話 自己紹介
第六十五話 自己紹介
サイド 矢橋 翔太
「改めて自己紹介を!僕は『大西健司』です!三十一歳で、日本では普通のサラリーマンをしていました!ちなみに妻と子がいます!子供は今年で三歳です!」
「俺は山下和夫。二十八だ。日本では自動車の整備工場で働いていたよ。趣味はバイク。まあこっちじゃ乗れないが」
「田中満男。二十歳です。趣味はギルマスです。好きなものもギルマスです。人生もギルマスです」
灰色の少年、赤髪の男性、犬鎧の人の順だ。いや、少年じゃなくって最年長だったけども。ゴリゴリに年上だったけども。
あと田中さんのには触れないでおこう。視えている地雷って、あるんだぁ。
「そんで俺が菊池大悟。歳は二十六で、元は銀行マンだよ。趣味は食べ歩きかな?」
オレンジ色の髪の人がそう名乗る。なんというか、他三人よりもまともっぽい。
「俺は矢橋翔太です。十六で高校生です。えっと趣味は……ゲームとか?」
いやなんで趣味も話す感じに?合コン?合コンってこんな感じなの?
合コン会場じゃないけどねここ。
「私はホムラ!さすらいの美少女アイドル!特技は人を笑顔にする事さ☆」
「あ、この人は巻山真崎さんです。大学生だそうで、今はこんな感じです。芸名の方で呼んであげてください」
「芸名!?」
え、違うの?
あと肩をバンバン叩かないでほしい。気持ちはわかるが、いつもよりテンション高めである。
「あはは……個性的な人だね。というか、そっか。僕が年上になるのか」
少し照れたように笑う大西さん。
「いやぁ、なんか翔太君風格あるから、てっきり年上かと」
「いえいえ。そんなものは勘違いですよ。見ての通り普通の小僧です」
「普通の小僧はそう名乗らないんじゃ……?」
「奇をてらって言う奴も多いですよ、たぶん」
「いやいや。普通の小僧とは言えんだろ」
山下さんが馴れ馴れしく肩を組んで来たかと思ったら、首筋の臭いをかいできた。
え、こわ……。
「戦場を超えてきた匂いだぜ、こいつぁ」
「すみません……俺そっちの趣味は……」
「翔太が……食われる……!」
「山下さん。性癖をとやかく言いたくありませんが、同意なしは犯罪です」
「変態だ……」
「おいおい虐めてくれるなよ。ただのスキンシップさ」
ひらひらと手を振って離れる山下さん。怖かった……。
じりじりと彼から距離をとれば、山下さんがアミティエさん達を顎でしめす。
「こんな女連れで、男好きと思うかよ。俺以上の女好きと見たね!」
「ソッスネー」
すげえだろ、美少女ばっかりで。俺誰とも付き合ってないんだぜ?美少女パーティーの異物感すらあるよ、俺。
あれだよ。なんかもう『実は竜の呪い関係なくモテません!』と言われても納得するよ。転移で顔がよくなっても心はそのままなんだよ。非モテ継続中なんだよ。
戦闘経験は上がるのに恋愛経験は変わらないんだよ。変われよ。
「えっと、じゃあウチも自己紹介を。イヒロ村のアミティエです。趣味は特にないけど……特技は薬に詳しいのとコレの腕でしょうか」
そう言ってボウガンを見せるアミティエさん。
「私はクーロマ村のイリスです!よろしくお願いします!特技は魔法です!風雷魔法と火炎魔法が使えます!」
元気よく挨拶するイリス。
この二人の自己紹介に対し、山下さん、田中さん、菊池さんが小さいが拍手を返してくれた。
しかし大西さんはと言うと。
「……そうですか」
無である。驚きの無表情、そして抑揚皆無の声。
「そこ二人は、矢橋君達の同行者でいいのかな?」
「は、はいそうです」
にっこりとこちらに笑みを浮かべてくる大西さん。うわぁ、露骨にあっち二人を見ない様にしている。
「そっかー……そっかー……」
なんか心底残念がっているような、そんな声音で呟く大西さん。これ、もしも連れじゃなかったどうしていた気なのか。
興味はあるけど知りたくない自分がいる。
「あ、じゃあ『妻』も紹介しよう。ちょっと待っていてくれ」
「なら、自分が運転代わります」
「本当かい?助かるよ」
菊池さんと田中さんが奥へと歩いて行った。
え、妻?
「菊池さんって、奥さんと二人であのゲームに登録を?」
まあそういう夫婦もいるか。共通の趣味があるのは良い事である。今回は不運だったが。
そう思って尋ねたのだが、大西さんは渋い顔をする。
「それならよかった……いや被害者が増えるからよくはないけど……」
「はい?」
「お前さんと同じって事さ」
「はあ?」
笑う山下さん。え、つまり童貞で年齢=彼女いない歴ってこと?
なるほど、つまり……。
「イマジナリーワイフ……!」
「……ごめんね。君も大変な目にあった直後だもんね」
「悪いな。本当はちゃんと休んでから話すべきなんだよな」
なにやら大西さんと山下さんがこちらの肩を叩いてくる。え、なに?
それより、まさか菊池さんがそこまで精神を病んでいるとは。まともな人かと思ったが、やはり異世界の辛い環境で……。
「お待たせ。この人が俺の嫁さん」
「エレナ・菊池でーす」
「具現化した!!??」
茶色い髪のおっとりした感じの巨乳美女がそこにいた。
馬鹿な、イマジナリーワイフを実体化させたと言うのか?いや、スキルか?刻印か?それとも魔道具?
ちくしょう、どうして俺は持っていない!
「ぐげ?……えっと、普通に生きている人だけど?」
「ええ!?」
「幽霊じゃないよー……?」
「ええ!?」
そんな……騙したのか山下さん!山下さん!!??
信じられないものを見たという目を山下さんに向ければ、何故か困惑された。くっ、しらばっくれやがって!
「……苗字を名乗っているけど、その人は異世界人だ」
「異世界人って、俺らの方が異世界人ですけどね。状況的に」
「……そうですね」
苦笑する菊池さんに、大西さんが渋い顔のまま返す。
あー……なんとなく話の流れがわかった。
「つまり、菊池さんの奥さんはこの世界の人って事ですか……?」
「そうだよ。こっちで出会ったんだ」
「イマジナリーワイフではない……?」
「ごめん、そもそもイマジナリーワイフってなに……?」
なるほど。山下さんは俺がアミティエさんかイリスと付き合っていると思って『同じ』と言ったのか。
……ちげぇよ畜生。白魔法は貞操関係ねえって教えてやろうか、ああ?
「ああ、翔太君が血涙流しそうな顔に」
「え、翔太様どうしたんですか……」
気にしないで二人とも。これは苦しみを堪える漢の顔だから。
そっかー……そっかー……。
「んん!とりあえず、自己紹介はここまででいいかな?本題に入ろう」
「はい」
そもそも、自己紹介はこれからの話を円滑に進める為のもの。当然本題は別にある。
まあその自己紹介にめっちゃ時間とられた気がするけど。
「あの館に何があったんだい?それに、あの追いかけていた黒い異形は?」
さて……全て話していいものか。
自己紹介はした。が、未だよく知らない相手である。突然斬りかかってくるかもしれないし、今向かっている先もよくわからない。
だがまあ、助けてもらったし。何よりこの状況でそれをするメリットもないか。
「俺達は、ベルガーという魔族がシャイニング卿という人物の研究成果を使って悪事をしていると思い、ここに来ました。その結果、『革命軍』を名乗る集団が研究所の跡地を占拠しているのに遭遇。交戦した、といった具合ですね」
「革命軍……では、あの黒いのもその一味かな?」
「そうですね。なおかつ、魔族です。名前はラルゴ。革命軍の幹部だそうです。また、革命軍の中には吸血鬼もいました」
「そうか……」
眉間に皺をよせ、視線を落とす大西さん。
「僕らも革命軍の動向を探っていた所だ。この国の事を調べに来たところ、偶然村人達が貴族を殺す瞬間を目撃してしまってね。そのまま『大和連合』のトップから情報収集をしてほしいと依頼されたんだ」
「……?調べにきて、偶然革命を知ったんですか?なにを調べに?」
「ああ、そういえば言ってなかったね」
大西さんから懐から何かを取り出す。広げて見せられた所、地図のようだ。
彼が指さすのは、大陸中央部のやや『西側』。リースランと隣接する最西の国よりも更に西に突き出した位置。
「この辺りに、僕たちの国を作っているんだ。その為に色々と情報を集めている所でね」
「……はい?」
「く、国?」
ホムラさんと二人して、目を見開く。アミティエさん達にいたっては固まってしまっている。
「『大和連合』はギルマス……『如月弥生』さんの分身たちにより、大陸中から僕らと同じ事前登録者を約二千五百人も保護している。今も増えている最中さ。日本への帰還を目的に、腰を落ち着ける場所をつくるのさ」
ああ、如月弥生っていうのは本名じゃなくって、ソウルネームだって。
と、なんでもない事かの様に付け足す大西さん。なんというか、自分が知らんうちにとんでもない事になっとる……。
「え、ま、それ、大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ」
何に対してと言う前から、大西さんは頷いた。
「さっき見たよね?重機関銃。僕は詳しくないけど、他にも色々作っている。事前登録者達はそれぞれ特殊な能力を持っているし、なによりギルマスはかなりの実力者だ。この世界の軍隊にはまず負けない」
そう断言する大西さん。何故か、彼の瞳が濁っている様に思えた。
だが二千五百ものチート持ちと、現代兵器をある程度でも再現できれば、確かに大抵の軍隊には勝てるか?
しかし、敵は人間の軍隊だけではないだろう。
「けど、この位置は魔族の……」
「ギルマスの方針でね。安易に帝国と陽光十字教以外には敵対したくないらしい。他人の領土を奪うぐらいなら、開拓した方がいいってね。よくわからないけど」
……まあ、これでどっかの国に攻め込んで国盗り、って言われてもリアクション困るし、合流しようとは思わんけども。
「だからこの国には友好的に動ける手段を探しにきたんだけど……」
「そもそも何がどうなってんのかよくわかんねえんだよな!菊池の伝手も物理的になくなっちまったからな!」
山下さんが笑いながら菊池さんに目をむければ、彼は少し沈んだ様子で顔を伏せた。
彼の肩に奥さんが手をそえると、その手を一撫でして、真剣な表情で顔をあげた。
「この国にいた商人のうち、王都周りの商人たちは皆殺されてしまった。革命軍にね」
「そう、ですか……」
まあ、一番に狙われそうだとは思う。金と食料がある場所といったら、まずそこだろう。
革命軍が志がどうこうという存在ではなく、ほぼ暴徒であるこの国では間違いなく。
「だから、君らがこの革命に詳しい情報があるのなら教えてほしい。どんな事でもいいんだ。頼む」
「……俺達は知りませんけど、合流を約束した人達なら色々知っていると思います」
「本当かい!?他にも仲間が!」
大西さんが、希望が見えたとばかりに顔を綻ばせた。
ただ、まあ。
「この世界の傭兵さん達と、貴族で騎士らしい人ですけど……」
「………」
「ヒュゥ……」
「ええ!?」
なんか凄い顔になっている大西さん。面白そうに口笛をふく山下さん。大きく驚く菊池さん。
うん、なんか予想できてた!
「とりあえず、会いに行きます?」
「…………………うん。同行させてもらうよ」
おぉ、すっげえ嫌そうな顔で頷いた。
ガラガラと小さく聞こえる車輪の音。どうやらまだもう少し、この夜は続くようだ。
………それはそうと、つくまでに着替えていいだろうか。
血が渇いて服がバリバリになっているので。
読んで頂きありがとうございます。
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短編『悪魔が目覚めた日~たぶん悪魔も想定してない目覚め~』も投稿させて頂きました。そちらも読んで頂けたら幸いです。




