第五十三話 ファッション
第五十三話 ファッション
サイド 矢橋 翔太
とりあえず保留。
そう結論を出して赤い機械とゴルドの手記を荷物とし、奴の残した地図を手にリースラン王国へと向かう事にした。
あれだよ。もしもヤバいってなったらホムラさんの魔法で燃やせばええねん。それまではなんか、こう。有効活用できる機会を待とう。
下手な考え休むに似たり。まあそれはそれとして休むけど。疲れたし。肉体と魔力の回復の為一晩休み、ほぼ万全と言える状態となったので出発した。
万全じゃない部分?俺のメンタルですが、なにか?
「そう言えば、リースラン王国ってどんな所?」
山の中を歩きながら、アミティエさんの背中へ問いかける。
「うーん、ウチも行った事はないから、伝聞になるけどね。オトン曰く、とにかく派手って言っていたよ」
「派手?」
「うん。特に貴族の人達がね、やけにお洒落というか、奇抜というか。人と同じのは嫌って人が多いらしいよ」
「はぁ……」
お洒落ねぇ。正直、自分はファッションとかよくわからん。親が買って来てくれたのをそのまま着ていたし、異世界では機能性重視だ。
更に言えば目の前のアミティエさんもお洒落より機能性を追求している節がある。致し方なくそうしていると言うより、ファッションとかそういうのに苦手意識を持っていそうだ。
「ふっ」
「……」
「ふっ!」
「………」
「ふふっ!」
何故かドヤ顔で己を指さす狂人ネカマはスルーしておく。
「まあ平民はそこまで服に頓着しないと言うか、する余裕がないから、ウチらが溶け込むのは難しくないと思う」
「ああ、確か魔物や魔獣が多いんだっけ」
「うん。あそこは西の小国の中では平和な方だけど、それでも魔獣や魔物の被害は多いよ。後は……貴族達が平和ボケしている所があるかな?」
「くーん……」
なんか鳴いてる。
面倒くさいと思いながら視線をやれば、途端にドヤ顔に戻った。うっっっっぜ。
「おっと、どうやら私の溢れるファッションオーラに当てられたらしいな、少年少女」
バチコーンとウインクをしてきた。顔がいいだけに余計にうっっっっぜ!!
「寝言は寝てから言ってください」
「なんか最近辛辣じゃなぁい!?」
この人の対応には正直慣れた感はある。かなりお喋りな方というか、思考があっちこっちに飛んでいるというか。
結論、あまり構い過ぎると延々と話しが続くから割と適当にあしらった方がいい。
「そんなだからモテないんだぞ翔太ぁ!どうせ日本では母親から貰った服を着まわしていただけだろ!」
「はぁ?偶に父親から貰ったのもあるから違いますぅ」
「同じじゃぼけぇ!というかお前それ親からもファッションに興味もてって遠回しに言われてんじゃん!」
「はぁ……ホムラさん。俺はね、一つの真理にたどり着いたんですよ」
「ほぉ……その心は」
片目を閉じ、背後に、というか周囲を囲う木々を親指でさす。
「ファッションとか。それ、森の中でも言えんの?」
「森ガールという言葉をご存じない?」
「うるせぇ!あんなんガチの森に行ったらそっこうでビリビリになるわ!」
「実用性だけで考えんないつ時代の人間だよ君ぃ!」
「平成生まれ平成育ちじゃアホンダラぁ!」
まず生き延びる事が大事なんじゃい!死んだら元も子もないんじゃい!
というかなんで『ズボン』を『パンツ』とか言うんじゃい!最初聞いた時は思わず二度見したわ!少年の純情を返せ!
アレはそう、テレビの画面を見ず聞き流していた時。美人女優が『今はいているパンツ見てくださいよ~』と言って慌てて画面を凝視した夏の日……。
「というかね、この非モテ童貞は置いておくとして!」
「誰が非モテか。シミュレーションでならデート時間千時間越えやぞ」
「おだまり!」
畜生……畜生……模擬戦なら……模擬戦なら負け知らずなんだ。モテモテキングなんだ……!
画面の中でなら俺はハーレム王やってんだよぉ……!せめて現実でも選択肢が表示されればぁ!
「アミティエちゃん!君のファッションに物申す!」
「え、ウチ?」
完全に『ああ、また馬鹿やってるなぁ』と我関せずしていたアミティエさんをホムラさんが指さす。
それはそうとアミティエさん。違います。馬鹿はこの狂人ネカマだけです。
「お洒落!しよう!せっかく美人なのに勿体ない!」
「けど貴女も基本同じ服とローブでは?」
「性能的にしょうがなくじゃい!そして下着はガッツリお洒落しとるわ!」
「おおおお!?」
ガバリとホムラさんがスカートをめくり上げる。白く柔らかそうな太ももに、青と白のレースのパンツ。かなりのローレグでいけない所が見えてしまいそうだ。というか、紐!
「それなのにアミティエちゃん!君ぃ、何かお洒落な事とかしてるかね!」
「えぇ……だって面倒くさいし」
「はぁー!『ウチは元々美人だからそういうのいらない』と!そんなん通じるの十代のうちだけだかんな!」
「ホムラさんは何があったん……?」
わからない。俺は今パンツにだけ集中している。
……もしや、剃ってる!?
「というわけでするからなファッションショー!リースラン王国とやらの首都で!アミティエちゃん!」
「え、いややけど」
「シャッァラッップ!」
思わず似非関西弁が出るアミティエさんだが、暴走するホムラさんは止まらない。
鼠径部が、鼠径部が見えている。というか、結構きつめに紐をしめているのか。食い込んでない?馬鹿な、紐パンの紐は装飾でしかないと言うではないか。
まさか、伝説のガチ紐パン?おいおい、神はいたよ。アキラス以外で。
俺は今、新たなる真理と対面した。自然と祈る様に、膝が折れる。けど視線は固定されたままだ。
もはやこれは『パンツ』ではなく『パンティー』と呼ぶべきかもしれない。いや、『ショーツ』という言い方も一周まわってエッチか?
くそ、学会はどこだ!
「翔太も見たいよなぁ!」
「見たいです。むしろずっと見ていたい」
「ほらぁ!」
「ちゃうと思う。今のはたぶんちゃうと思う」
少し、静かに……。
俺は今、『スケベパンツ神』との対話を行おうとしている。
ああ、しかし俺には『パイ乙でっかいでー神』という信仰する神が!
「とにかく!これ決定事項だからな!首を洗って待ってろ!」
「それも使いどころちゃうと思うなぁ……」
ああ、幕が落ちてしまった。我らが理想郷はその姿を隠してしまう。
だが、心のうちには強く刻みつけた。一週間は絶対に忘れない。共に生きていく。
「あん?どうして跪いてんの翔太」
「神話に、出会っていました」
「………お前流石にやばいと思うよ?」
「ソンナ事ナイデスヨ」
疲れたようにアミティエさんが大きくため息をつく。
「アホな事言っていないで、先を急ごうか。国境警備隊は碌にいないだろうけど、万一って事はあるんだからね」
アホな事ではない。これは神話に関する重要な事だと声を大にしたいけど自重した。
それはそうと、少し待ってね?今は立てないんだ。そしてホムラさんのミニスカートが視点の高さ的に今猛烈なチラリズムをしているんだ。魅惑的な太ももが目の前にあるんだよ!
……もはや、最高神『エロければなんでもええやん神』を信仰すればOKなのでは?
「はい行くぞ翔太ぁ」
「あ、ちょ、引きずってる!引きずってますホムラさん!」
「うるせぇお前重いんだよ」
「酷い!今女子に言ってはいけない事ナンバーワンな事言った!」
「うるせぇぞ男子ぃ!」
それはそうと地面を鞘で削る『山剥ぎ』が高ぶってるんだけど?なに、こいつマジで妖刀になってない?
……土木工事中毒の妖刀ってなんだ。
* * *
「うん?」
「どうしたのアミティエさん」
あれから暫くして小休憩やらなんやらでリフレッシュした後、自分達は順調に山を越えて森の中を進んでいた。
だが、突然アミティエさんが立ち止まって眉をひそめる。
「……おかしい」
「こいつの頭が?」
「あんたが言うな」
今年の非常識人ベストテン入り確定している狂人ネカマが指さしてきた。解せぬ。
「否定はしないけどそっちじゃないよ」
「否定して?」
「静かすぎる」
アミティエさんの言葉に口を閉じ、『山剝ぎ』に触れる。
「と、いうと?」
「もうすぐ国境近くの村にたどり着くはず。なのに生活音が全然しない。この時間なら、畑や家事をする音が聞こえてくるのに」
それぞれ得物を構え、慎重に動き出す。
「翔太君。何か感じる?」
「いいや。全く危険を感じない。全くだ」
レベルの上昇で進化した『魔獣の眼光』は、危険らしい危険を伝えてこない。それこそ同格の隠密系スキルだろうと看破するだろうに、異常がないと告げてきている。
異常が起きているんだ。異常が起きているのに異常を感じられないんだ。
何かがおかしい。確実に何かが起きている。
「……進もう。けど、絶対に油断しないで」
「了解」
「わかった」
アミティエさんに頷き、やや自分が前に出る。次にアミティエさん、ホムラさんと続く。
どこからくる。いいや、そもそも何が起きている?
そう警戒しながら進んでいけば、しかしその危惧は杞憂であった事がわかった。
「これは……」
何か起きているのではない。
何かが起きた後だったのだ。
「ぅ……」
思わず顔をしかめる。
人が、死んでいる。身ぐるみを剝がされたのか、そこかしこに裸の死体が転がっていた。
特に太った男性の死体は損壊が酷い。顔がわからないどころか、胴体に無数の傷がある。辛うじて人の原型をとどめているだけだ。
それ以外にも多数の死体が見受けられ、村のあちらこちらが壊されていた。
「……調べよう。翔太君は周囲の警戒を。まだ下手人がいるかもしれない」
「わかった」
アミティエさんが硬い声を出す。彼女からしたら、『死体だらけの村』というのはきついだろうに。
せめて自分達の安全だけでも確保せねばと、気合をいれて周囲を見回す。
見たくない物が視界に飛び込んでくるが、そうも言っていられない。
ただ、そうして目を逸らさなかった故にすぐにわかった事があった。
「アミティエさん。これ、犯人は……」
「そうだね……」
彼女が地面に刻まれた足跡を撫でる。
「人だ。それもかなりの数。ただの野盗じゃない。『組織だって襲われた』んだ」
……この村。いいや。
この国に、いったい何が起きた?
読んで頂きありがとうございます。
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翔太の信仰に対して
初期作の天使
「はー、これだから人間は!やっぱクソですね!ソドムとゴモラっちまえマジで。滅ぼすべきですね絶対」
前前作の天使
「素晴らしい。是非教会におこしください。共に禊をし聖歌を奏でましょう!いいえむしろ私が行きます!」
……どうしてこうなったのか。




